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合流【前編】


 四つ目の『魔陣の鍵』を探しに行こうとした時、オディプスに引き留められた。

 彼は悪戯っ子のように微笑みながら、唇に指先をあてがいこう言う。


「四つ目と五つ目の鍵は『彼女たち』に任せよう。彼女たちにも、強くなってもらわねばならない」

「…………」


 なるほど、ろくでもないな。

 感想としてはそんな感じだった。


「具体的に……どうするんですか……?」

「『勇者』に関する検証も兼ねて、君の訓練に協力してもらうのだよ」

「…………」


 やはりろくでもなさそうだ。

 そしてやはり具体性に欠ける。


「『魔陣の鍵』情報を彼女たちに流そう。彼女たちに接触している『勇者の声』の目的を探る」

「了解です……」


 エリンの言っていた『勇者の声』。

 具体的な事は結局なにも分からないし、答えらしい答えはもらっていないのだが……。


(勇者の声……魔女、クリシドール……)


 御伽噺の通りの場所にある『魔陣の鍵』。

 エリンにだけ聴こえる『勇者の声』と、彼女が生まれ持つ『禁忌の紫』。

 少なくとも、御伽噺はなにかしらの事実を基にした伝承のようなものだろう。

 どうしてそんなものが残っていたのかも気になるが、魔女クリシドールの残した言葉も気になる。


「では飛ぼうか。出来るかな?」

「…………。やります」


 にや、と笑う。

「調べろ」という事。

 そして、調べたあとは「そこへ連れて行け」とも言っている。


(ワイズたちの居場所を調べるには、超広範囲探索でも無理。……今のおれでは、そこまで、出来ない……でも、今なら……四人の魔力思い出して、方向の指針だけでも……えーと……)


 適当な小石を作り出す。

 そして用意したのは地図。そこに、放る。


(魔法陣を、世界地図に、反映、魔力の登録……検索……)


 見られている。

 失敗してもいい。

 もし足りなければ、『外』からオディプスが加えてくれる。

 けれど、その加えられるものはミクルの「想像力の欠如」だ。

 想像せよ、と言われている。

 なにが必要で、なにが足りないのか。

 自分で考えろ、と。

 それこそがミクルをここまで成長させ、これからも成長させてくれる。


「…………」


 なにも言わずにオディプスがミクルの地図の魔法陣に「自分の位置」「測定距離」「観測」を加えてきた。

 むぐっ、となる。


「対象は動く。マーキングも加えておいた方がいいな」

「……はい」


 ごもっともだ。

 移動するにしてもかなり遠い。

 その間に別の町に行かれれば、入れ違いになる。

 しかし、大まかな方角は定まった。

 その場所にあるのは前回とは別な島。

 そしてその島は前回と違い人が住む島だ。


「西の、島」

「規模は前回の島より少し大きいくらいだね。町が四つある。その中心に大きな湖。次の『魔陣の鍵』はその湖底にあるようだ」

「!」


 そこまで分かるのか、と見上げる。

 だが微笑まれるだけだ。


(……もしかして、これまでも? ……おれの持っている『魔陣の鍵』で、方向とか、位置、調べるの……オディプスさんは、一人で? 一体、どう、やって? んー?)


『魔陣の鍵』から魔力のようなものは感じない。

 ミクルには()()()()()()()にしか見えないのだ。

 指で鍵をなぞるが、なにか奇妙な魔力を感知する事もない。


「? ? ?」

「なにをしているんだい?」

「……『魔陣の鍵』……なにか、特別な、魔力、とか……あるのかと思った……」

「ああ、なるほど。今の君にはまだ感知出来ないよ」

「……むぅ……」


 悔しい。

 そう素直に顔に出る。

 それをオディプスは笑う。

 いや、微笑ましく見下ろす、が正しい。


「言ったろう? ()()君には難しいだけだ」

「…………」


 ()()自分には──。

 では、いつかは……。

 その希望を与える言葉に、目を細めた。


「はい」

「よろしい。では新しく教えた魔法を試してみよう。同時発動からの複合だ。難しいけど出来るかな?」

「むぅ……やれ、ます」


 瞳と、両手。

 同時に魔法陣を形成し、組み込み、魔力を集めて凝縮、魔法陣へ固定……。

 呪文を唱え、複合させるべく魔力量を調整。

 接着し、二つの魔法を重ね、複合していく。


「うん、過程は完璧だね」


 当然である。

 オディプスが魔法陣には全て『学習』の魔法が付随させてあると教えてくれた。

 使えば使うほど脳が勝手に魔法を覚えていくのだ。

 これで簡単な魔法を覚え、組み合わせて複雑化し、新たな魔法を生み出し続ける。

 魔法を覚え、新たな魔法を作り出し、それを覚えたらまた他の魔法と組み合わせていく。

 使えば使うほど覚え、覚えれば覚えるほど魔法の世界は果たしない。

 魔法は──無限の可能性を秘めている。

 それを誰よりも知っているのが、このオディプス・フェルベールという人だと思う。


「では、連れて行っておくれ」

「はい」


 今から使うのは『瞬間転移魔法』。

 ミクルが覚えられる『中級魔法』だ。

 そう、『中級魔法』……。

 その場に瞬時に移動する、ミクルの世界では御伽噺の中にも出てこなさそうな魔法だ。

 ミクルの作り出した魔法陣に乗るオディプス。

 二人分の転移を可能とする、魔力。

 目を閉じて、集中する。

 本当は行った事のない場所はいけないのがこの魔法。

 なので、測定出来る範囲までになる。

 そこからはこれまで通り飛行魔法で飛んでいかなければならないだろう。


「…………オディプスさんは……」

「ん?」

「オディプスさんなら、行った事、の、ないところへも、瞬間移動、出来、ますか?」

「んー、出来なくもないが……その場合より綿密に周辺周囲の状況を調べるね。魔力をかなり消費してしまうから今の僕ではやりたいと思わないな」

「魔力……たくさん、使うんだ……」

「そうとも」


 なるほど、それでか。

 と、納得もしたし「今のミクルには出来ない」と言われた意味も理解出来た。

 今のミクルに世界規模の地形や状況の確認まで細かにする程の魔力は、操り切れないだろう。


「探索系には風属性の魔力を使うが、風属性魔法は以前教えた通り操作が難しい。君はセンスがいいから、魔力をより大量に扱えるようになれば出来るようになるんじゃないかな」

「……頑張ります……」

「頑張りたまえ! 君が成長すれば僕も楽になるしね」

「…………」


 こういう人なのは知っていたので肩を落とすのみ。

 それに、ミクル自身魔法を覚えるのは楽しくて仕方ない。

 明日はこんな事をしたい、こんな事にチャレンジしたい、どんな事を教われるだろう?

 毎日そんな事を考えながら眠りにつく。

 とても充実していて、幸せな日々だ。


「行きます」


 一度息を吐いて、集中し直す。

 オディプスには「多少気が抜いても魔法陣を自然に維持出来る程度になると、とても成長が見込めるんだけど君はどうかなー?」と笑顔で軽く言われたが、こんな感じなのだろうと思う。

 ただ複合魔法はとても難しい。

 普段より気を抜けず、発動にはより一層集中力が必要だった。

 先程集めた状況資料、距離、方向を定め、島の近くの海の上に『出口』を設定。

 オディプスと自分の質量を固定したままその場に飛ばす。

 距離をゼロに。

 入り口に設定したこの場所から、出口を設定したその場所までの空間を消す。

 入り口と出口の固定は『土属性』。

 空間系や周辺の探索系は『風属性』。

 故に『瞬間移動』は二つの属性を使用する複合魔法となる。

 オディプスが言うに、『上級魔法』とはほぼ全てが『四属性』以上を『複合』するのだそうだ。

 同時発動するにしても、連結させたりする為少なくともその一部箇所を複合魔法として結合させていくので、まあ聞いただけでもややこしい。


(いつか、そんな魔法を使えるようになりたい)


 それでも、それはミクルにとってのささやかな夢となった。

 そんな魔道士に。

 ……そんなものが使える時点で『魔道士』どころか『賢者』──この世界でいうところの『魔王』のレベルなのだが、今のミクルはそんな事頭にない。

 すでにこの世界の『基準』から、ミクルの『基準』は外れている。


「!」


 練習では成功していたものの、初めての長距離と初めて「行った事のないところ」への移動なので少し不安だったが……目を開けると海と空だけの場所に浮いていた。

 しかし、ここで不覚だったのは浮遊魔法を使っていなかった事。


「うぁっ!」

「やれやれ」

「っ!」


 落下する!

 浮遊魔法を、と思うのに、うまく頭の中がまとまらなかった。

 いつもなら簡単に使える下級魔法だというのに!

 オディプスがミクルの手を掴み、引っ張り上げる。

 その時、オディプスの浮遊魔法がミクルを包んだ。


「……あ、ありがとう、ございます……」

「ふふ。いいよ、教えなかったらどうなるだろうと、興味があったから」

「むう……」


 海まで落とされなくて、幸運だったと思うべきか。

 どちらにしても、オディプスが顔を向けた方向には島が見えた。

 首に下げていた『魔陣の鍵』を取り出してみる。


「方向は間違いないようだね。それで、『彼女たち』もいるのかな?」

「もう少し近付いて……調べ直し、ます」

「よろしい。では行ってみよう。……『彼女たち』がいたならば、なぜこの島に来たのかを問おう。それによって『勇者の声』の色々な事が分かるはずだよ」

「…………はい」


『魔陣の鍵』もなく、この場所にたどり着く。

 それが『勇者の声』の導きであるのなら、『勇者の声』には『魔陣の鍵』のような能力がある事が考えられる。

 今のミクルには感じ取れない。

 しかし、未来のミクルになら感じ取れるかもしれない。

『勇者の声』が求めているものもまた『魔陣の鍵』であり、その果てにある『彼女の遺体』であるならば……ああ、全くだ。


(……気持ち悪い)


 オディプスが「不快」と言っていた意味が、ミクルにも分かってきた。




 島へ飛び、島の全体を『探索』する。

 この島には多くの人が集まる町が四つ、四方に出来上がっているようだ。

 その中で一番近くの町に、四人の魔力を感じた。

 今度ははっきり、町の中のどこにいるかまで。


「見つけました」

「では行こう。君たちが合流したら、修行がてら『魔陣の鍵』争奪戦争をしようね」

「…………」


 満面の笑みでなにか言い出した。

 しかし、それで朝に言っていた「具体的な内容」を大まかにだが、察した。

 軽い頭痛を覚える。

 気が付けば頭を抱えていた。


「あまり、無茶はしないでください、ね……」

「ふふふ。もちろんだとも」


 不安しか感じない返答である。


「!」

「おや」


 町の上空まで来て、その中心の広場にずいぶんたくさんの人が集まっているのが見えた。

 かなり大きな井戸に、タプタプの水。

 それを囲うように作られた煉瓦の土台。

 しっかり整備された石畳の広場。

 広場を囲う家々。

 良い香りが漂っているところを見ると、屋台なのだろう。

 だが、それは置いておくとして──。


「あの井戸の側で武器を持った男たちに囲まれているのは、君の幼馴染みたちでは?」

「はい。……なんであんな事に、なってるんでしょうか……?」

「さすがの僕も来る前の出来事は分からないなぁ。一人でも『解体』すれば把握出来るけれど」

「…………」


『解体』。

 ミクルがオディプスに初めて出会った時、賊のような男たちに行った『解体魔法』の事。

 気絶したミクルもどうやらその餌食になっていたが、しかし──。


「……やってみても、いいですか? おれ、一人で……」

「ハナからそのつもりだよ。行っておいで」

「はい」


 目を閉じる。

 次の瞬間、下品な笑みを浮かべた男たちと、井戸の周りに追い詰められた非武装のワイズたちとの間に……ミクルは降り立った。

 彼らからすれば突然現れたように見えたかもしれない。

 観察してみる。

 周囲には三十八人もの武装した男たち。

 武器は各々違う。

 ワイズたちが武装していれば、この人数でも包囲網を抜ける事は難しくないはずだ。

 だが、彼女たちは武器を持っていない。

 屋台の者たちの心配そうな眼差し。


(なんか、めんどくさそう……)


 思わず溜息が出た。



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