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恋愛撃  作者: 柑橘ルイ
3/4

三発目

 店を出た二人が向かったのは定番となっている山の広場である、ストーブに火を入れ暖まってる歩は車に背を向け、椅子に座りながらジッと炎を見つめている。

 姫蝶が着替えている最中であり、良いと言うまで此方を見ないで言われた為だ。


(企んでそうな顔して車に乗り込んでいましたが、驚かせるつもりなのでしょうか?)


 姫蝶の子供っぽい行動に歩の口角が上がる。

 楽しい時は花開くような満面の笑みを浮かべ、嫌なものは苦虫を噛んだような渋い顔をするように色々と表情を変え、大学生らしからぬ小さな体を使い、動作を交えて楽しげに話をする姿に歩は好感を覚えていた。

 腕に抱きつかれたときは突然の行為だったが別段嫌ではなく、むしろ好意的な感想が浮かぶほどである。


(気がつけば休日に一緒にいる事が多いです、もはや側に居るのが普通と思えるほどに……姫蝶さんはどうなのでしょう?)


 再度椅子に深く腰掛け、ストーブの火を見ながら足を組む。


(ある意味自分が連れ回しているも同然、一方的な好意でしょうか?……姫蝶さんは結構素直ですし、嫌なら嫌と言うはずです……しかし……)


 思考の海にのまれ虚空を見つめる歩だが、車の開閉音で意識が戻り、反射的に振り向こうとした。


「わ! ちょっと待って!」


 姫蝶の止める声に歩も慌てて振り向くのをやめて、ふたたび椅子へ座り直す。


「えっと、うん、うん、よし、お兄さんいいよー」


 衣擦れとはためく音がしばらくしたあと、姫蝶の気合いが籠った声を聞き、改めて歩は体を回すとそこには見慣れない者が立っていた。


「可愛いですか? ご主人様?」


 見せつけるようにスカートを片手でつまみ上げる、古風な装いのメイドが居るのであった。

 少量ながらもお洒落にフリルがついたモブキャップを被り、装飾を廃した黒の長袖ワンピースの上に、簡素な作りの胸元まである真っ白なエプロンを付けていた、本来の用途に準じた効率重視のヴィクトリアンメイドである。


「素晴らしいですね」


「フフン、そうでしょう」


 親指を立てる歩は高ぶる気持ちを吐息と共に吐き出す、姫蝶もお気に入りなのか胸を張る。


「最近のよくわからない肌の露出が多い物ではなく、しっかりと着込んだ古き良きメイド服、フリルなど余計なものを捨て去ったまさしくシンプルイズベストな装い、それでいて女性の着飾りたい気持ちが現れるモブキャップ!」


 拳を握りながら語る歩に同意するように姫蝶もしきりに頷いていた。


「なんと言ってもそれらを華麗に着こなしている姫蝶さんというのが更に良いです!」


「ボク? えへへ、そうかな?」


 嬉しいのか頬を染めながら姫蝶は忙しく髪を弄くる。


「女らしいメイド服を羽織る足元には真逆の軍靴という意識の落差、小柄な体格を強調するように掌が半分覆われた袖が非常に愛らしいですね、更に言うと真っ白な手袋が紺の袖と相まって強調されています」


 落ち着き払った声で言っているが、歩の手は強く握られていた。


「ちょっと大きくて袖は自然にこうなったけど……そんなに良いの?」


 姫蝶が袖に隠れた両手をヒラヒラと振ると歩はそれを目で追いかけ、そんな反応が楽しいのかしばらく踊るように姫蝶は動かし続ける。


「ふぅ、非常に目を楽しませてもらいましたが、一つ注意点があります」


「何でしょうご主人様」


 一息ついて意識を切り替えた歩は指を立て、それにならい姫蝶も動きを止め背筋を伸ばす。


「スカートです、普通のソックス履いている様ですが、それだと走ったり激しく動いたりすると下着が見えてしまいますよ」


「ふーん」


 真面目に話す歩に対して姫蝶は何かに気づいたように含み笑いをしていた。


「ご主人様、中が、気になり、ますか?」


 姫蝶は両手でスカートをつかみ、言葉を区切りながらゆっくりと持ち上げていく。

 歩も男性である、露になっていく引き締まったカモシカのような脚に、ついつい目がいってしまうのも無理からぬ事であった。


「なーんちゃって!」


 楽しげな声と共に姫蝶はスカートをたくしあげる、下腹部を覆うのは可憐な下着ではなく。


「残念だったね、スパッツ穿いてるから見られても大丈夫だよー」


「……フッ」


 堂々と見せびらかす姫蝶だったが、あまりにも子供染みた発想に歩は大いに鼻で笑った。想定外の反応だったのか姫蝶の眉間に皺がよる。


「なにその反応? まるで考えが足りないって言いたげだね」


「その通りです、いや、少し違いますね、姫蝶さんは男の欲望をわかっていないです」


「欲望?」


「スパッツを穿いてるから大丈夫? 甘いですね、その事自体が性的に感じるのです」


「ええ!? ちゃんと下着も穿いてるよ!?」


「それでもです! 下腹部という場所を薄く張り付くスパッツで覆っている、見えないからこそ魅力的に感じるのです!」


 熱がこもった歩の演説が衝撃的だったのだろう、姫蝶は言葉を失い硬直していた。


「ところでスカート捲って寒くありませんか?」


 いつまでも見ていたい衝動にかられる気持ちを押さえ、歩は注意を促す。


「あ!」


 勢いよく掴んだ手を下げる姫蝶の顔は真っ赤に染まり目も合わせれないでいた。


「うう、変なの事言うから、なんだか恥ずかしいよ」


 小さくなりそうに震える姫蝶の声は、か細くなっていく。


「どうしよう……夏にシャツにスパッツっていう格好で出歩く事あるんだけど……」


「多分大丈夫ですよ、スポーツ選手のように全く気にせず堂々としていれば、健康的なので邪な視線は向けない筈です、少なくとも自分はそうですね」


「そういうものなの?」


 歩の先ほどまでの態度を見たせいか、姫蝶は変わらず強くスカートを押さえるのであった。













「姫蝶、最近なにか嬉しいことでもあったわね」


 姫蝶が大学の食堂で食事中、親友――同本(どうもと) (めい)――の波打つ長髪から覗く妖艶な瞳は好奇心で溢れていた。


「いつも通りに過ごしてたけど、そんなに態度に出てた?」


「分かりやす過ぎよ、歩くだけでもスキップしそうだったわ、しかも鼻歌つき」


「おおぅ」


 盟に指摘され姫蝶は顔を両手で覆う、全く自覚ないうえ街中でやっていた可能性も考えると恥ずかしさが込み上げてくる。


「それで、何があったのよ」


 盟は大きな胸を机に乗せながら、身を乗り出していた。


「最近サバイバルゲーム始めたんだけど、それが結構面白くって!」


「元気な姫蝶だから運動競技にはまるかなって思ってたわ、だけどサバイバルゲームとは予想外ね」


「ちょっと銃に興味あってね、偶然知り合ったお兄さんがエアガン持っててその流れでって感じだったね」


 歩との出会いを思いだし心が温かくなる姫蝶であった。


「お兄さん? 誰だそれ?」


 苛立ちを含んだ男性の声に二人の視線が向く。

 そこには金髪で金の装飾品をふんだんに着けた軽薄な男性、間仲(まなか) 友明(ともあき)が立っていた。


「……最近知り合った男の人だよ、いろいろ教えて貰ってる」


 嫌な奴が寄ってきたと姫蝶は眉間に皺が寄る、無視したかったがしつこいので仕方なく相手をした。


「そいつと始めたのか? なんでそんな奴の近くに行くんだ?」


 友明は椅子に音を立てて座り、椅子が軋む。


「なにその言い方、お兄さんはいい人だよ、むしろ安全に凄く気を使う優しい人だ」


 歩を悪く言われて声を荒げそうになるが、なんとか押し止める姫蝶だが視線は鋭くなっていた。


「ハイハイ姫蝶は子供じゃ無いんだからそんなに絡まないの、いい?」


 二人に間に盟は小さくため息をつきながら割って入り、邪魔物が入ったとばかりに友明は舌打ちをする。


「そういば盟は彼氏とはどうなったの?」


 話が続くと色々とめんどくさくなりそうだと、姫蝶は話を変える。


「そうねー、まあ色々かしら?」


 すっとぼけた返答だが、盟の余裕が見える態度に姫蝶は椅子をならして立ち上がり、そのまま隣に座る盟の肩を組んで耳打ちした。


「もしかしてついに?」


「この前、ね」


 片目を瞑る盟に体を重ねたんだと姫蝶はおもいっきり抱きつく。


「おめでとー!」


「ふふ、ありがと」


 盟の彼氏は自信が無いのが態度に現れる気弱な男性であった。

 また大人びた風貌の盟も初恋ということもあり、恋人同士になるのも手を繋ぐということさえ非常に時間がかかる。

 それでもようやくここまでくることになり、見守ってきた姫蝶も感無量であった。

 女性同士の恋愛話となるとさすがに友明も口を閉ざさる負えないのか、仏頂面で黙っている。


「それにしても彼氏か……好きな人ってボクにも出来るのかな?」


「姫蝶に彼氏? そんなの小さい頃から、それこそ生まれた時に同じ病院だった俺だけだろ」


 つぶやいてしまった後に姫蝶は失敗したと額に手を当てた。

 友明を避ける理由はこれで、なにかにつけて姫蝶を口説いてくるのである。

 もちろん断っているのだがへこたれないというか勘違いをしているというのか、会うたび言い寄られ姫蝶も参っているのだ。


「そんなこと無いわよ、試しにどんな男性が好きなのか言ってみたらどう? 姫蝶は友人多いから誰か当てはまる人居るかもしれないわ」


 そのことを知っている盟の援護射撃に、姫蝶は渡りに船と机に肘を立てて瞳を閉じて想像する。


「そうだなー……まずは優しい事は絶対だね、あと礼儀正しいと嬉しいな」


「まあ当然だな、それから?」


 誰しも辛く当たる人物に好かれたくないし好きにもならないのは当然である、それに加えて姫蝶は最近近くで好意に感じていた事もあげたが、友明は自分のことだと同意するように頷く。


「優しさがにじみ出るような柔和な顔していて、スーツが似合いそうで、いつも見守っていてくれる安心感があるね」


「うんうん……あら?」


 何かに気づいた盟が携帯を取り出し操作する、目的の物が見つかったのか、したり顔をしていた。


「あ、優しいだけじゃなくてキチンと叱るときは叱って欲しいな、安全に関しては特にそう思うよ、礼儀正しさもですます口調で良いけどボクと話すときはもう少し砕けた感じになって欲しいな」


 上目遣いで想像しながら話す姫蝶だが人物像は出来上がっており、最早その人物の事を話す状態である。


「そして何よりもショットガン構える姿が凄く格好よかったね!」


 両手を胸元で握る姫蝶の目は輝いていた。


「なるほど、つまりこの人がそうなのね」


「この人ってああ! いつの間に撮ったの!?」


 盟が得意気に見せたのは街中で腕を組む姫蝶と歩の姿であり、目尻が下がっている歩を引っ張っている姫蝶は喜色満面であった。


「姫蝶もこんな顔するのね」


「自分でも知らなかったよ」


 姫蝶の脳裏に浮かぶのは初めてエアガンを触らせて貰った時に待ち合わせした事である。

 前日に寝れなくなりそうなほど興奮しており、歩の姿をとらえた瞬間走り出していた。

 そのまま腕を捕まえ、勢いよく引っ張ってしまったが倒れることもなく、支えてくれて意外とガッシリしているなと感心した覚えもある。


「こんなボーッとした男のどこがいいんだ?」


「そこが良いいんだよ!」


 一部を強調し不満満載なため息混じりの友明だが、対照的に話したい姫蝶は指をならして片目を瞑る。


「落ち着く低音に全て受け止めてくれる眼差しとか、優しさが前面に押し出された表情とか安心感があるよね、包容力の塊のようで絞めるところはキッチリ締めたりするんだよ!」


 それだけではなく、まだまだ知らないこともあり、それらを分かっていく事が楽しそうだと姫蝶は思っていた。


「さっぱりわからんな、俺の方がよっぽどいい男だ」


 音を立てて立ち上がった友明は、首を振りながら食器を片付けて返しにいった。


「それはどうだろ?」


 呟く姫蝶は頬杖つきながら見送る。

 幼馴染みというが姫蝶には腐れ縁であった。

 運命のイタズラか偶然に偶然が重なった結果なのか、幼稚園から大学に至るまで同じ所である。

 家も近くにありよく一緒に遊んでいたこともあるが、成長するにつれ俺様キャラが出てきた。

 自信家だがそれに伴う能力も持っており、何でもそつなくこなし、それがまた鼻を伸ばす原因でもあった。


「小さい頃はもっと純情だったのに」


「大人になって家の裕福さとか容姿のよさとかが分かってきたから、かもしれないわね」


 姫蝶と盟は残念と言いたげにため息をつくのであった。








「もう! もう! もう! あああああああ!」


 的に一点集中で撃ちまくる姫蝶を見て、よほどストレスあるのかと心配になる歩である。

 唐突にきた姫蝶のメールが『飲みに行こう』だったため、珍しく思いながらも歩は書かれていた住所へ行ったのだ。

 店の前で話しをしている女性が二人、その片割れは厚手のコートでモコモコな姫蝶、ロングスカートの派手な美人である。


「こんばんわ、突然どうしました?」


「あ! お兄さん! えへへへ」


 尋ねた歩に疑問が深まる、話しかけた途端姫蝶が真正面から抱きついてきたのだ。

 胸元に顔を埋める姫蝶は匂いをすり付けるように頬擦りをする。

 事情がよく分からない歩だが、なにかしらあったのだろうと姫蝶の頭を撫で、されるがままにしていた。

 少したつと姫蝶は満足したように一息ついて離れる。


「ありがとうねお兄さん、気晴らしになったよ」


「それはよかったです、なにがあったか気になりますが、その前にこちらの方は?」


「この人はボクの親友、盟だよ」


 姫蝶に紹介された盟が優雅に一礼する、そのさまは気品に溢れていた。


「同本 盟です、よろしくお願いしますね」


「兵庫 歩と言います、こちらこそよろしくです」


 どこの令嬢だと気押されながらも、歩は差し出された手を取り握手を交わす。


「凄く苛立つ事があってさ、話を聞いてほしくて呼んだんだ、突然でごめんなさい」


「時間があったので大丈夫ですよ」


 頭を下げる姫蝶に気にしなくていいと撫でる歩である。

 そこはシューティング・バーと呼ばれる店で、エアガンが撃てお酒が飲める店であった。

 マスターの後ろにはお酒ではなくエアガンが見映えよく並べられており、店内の特定箇所で撃つことができる。

 小さな丸テーブル席に三人が座り、早速話し出す姫蝶だったが、話していくうちに熱がこもりはじめ、話終わったときには一声断りを入れ撃ちにいったのだ。


「まとめると自信過剰な俺様腐れ縁がことあるごとに自慢と写真の男、自分の悪口を言ってきて腹がたったと?」


「ええ、そうなるわ」


 唇を濡らすように一口炭酸飲料を飲み、歩はふと気づいて姫蝶に聞こえないよう口元を手で覆う。


「俺様って姫蝶さんに惚れてないですか?」


「正解、付け加えるなら姫蝶は気づいてないわね」


「ついでに姫蝶さんは俺様をあまり好ましく思っていない、ですかね?」


「そういうこと」


 腐れ縁とは切りたいけどなぜか切れない関係のことをさす、姫蝶がそれを口にするということは縁を切りたいと思っているということである。

 そんな人物に付きまとわれるのはたまらないであろう。


「なんとかしてあげたいですね」


 歩は背もたれに体重をかけて、虚空に視線を飛ばした。


「それに関して一つ案があるわ」


 盟に視線を送ると、彼女は自信ありげに見つめ返してくる。

 その様子から詳しく聞こうと歩は姿勢を正し、それと同時に姫蝶が跳ねるように帰ってきた。


「あー楽しかったー! なになに二人してなんの話?」


 流れるように歩の隣に椅子を移動させ、目を輝かせていた。


「友明対策で案があるって話よ」


「詳しく聞かせてもらおうか」


 人差し指を立てる盟の言動に、腕を組ながら姫蝶は食い入るように見つめる。


「友明は姫蝶が側にいるのが当然思っているわ、そこでもう既に取られている、姫蝶に彼氏がいると分からせればいいのよ」


「友明さんの目の前で姫蝶さんとイチャつくと?」


「あーだったら大学のキャンパスとか人が多い所とかいいかな? 勘違いして言い寄ってくる人を諦めさせる事もできるし」


 はしゃぐように姫蝶は手を合わせるが、歩の眉間のシワが濃くなっていた。


「言い寄ってくる?」


「ボクから話しかける事が多いからね、ボクとしては友達感覚なんだけど、相手からしたら自分に気があるのかも?って勘違いするみたいなんだ」


「ふーん」


「なに? 気になるのかな?」


「気になるというよりも、正直不快……ですね」


 ニコニコと覗き込む姫蝶に、図星を刺された歩は目をそらしながら頬を掻く。


「ふふふ、大丈夫だって友達以上って思ってるのお兄さんと盟だけだもん」


「ありがとうございます」


 大分機嫌が良くなった歩は一息入れて気持ちを切り替える。


「それで勘違いしたそいつらも一網打尽にするということですね」


「まあね」


「ところでイチャつくという話ですが、具体的にはどうすればいいのでしょう?」


「うーん、そこは彼氏と熱々の盟さん、どうすればいいのでしょうか!?」


 インタビューするように姫蝶は架空のマイクを向けるが、盟はゆっくりとコーヒーをすする。


「そのままで良いわよ、あぁブラックおいし」


 盟の返答に姫蝶は首をかしげて歩を見るが、歩としてもよくわからないので答えれず肩をすくめてしまう。


「なんだかお座なり、もっと助言とかほしいのになー」


「言葉の通りよ、難しいならやってみたい事をやる、それでいいじゃないかしら?」


 ブーイングをする姫蝶だが盟はそ知らぬ顔でコーヒーを口にするだけである。


「やりたい事ですか?」


「なんだろ?」


 歩と姫蝶は互いに視線を合わせて首をかしげる事数秒、おもむろに歩は目の前にある姫蝶の頭を撫で始めた。

 眠そうに目を細め、されるがままの姫蝶だったが、撫でている歩の手をそっと取り頬擦りをする。

 やわらかな頬の感触を味わいながら、指先に触れる姫蝶の耳をそっと摘まんだ。

 くすぐったいのか身動ぎする姫蝶だが、その動きは猫がじゃれているようであり、証拠にその瞳は喜びを携えている。

 可愛い態度に心が安らぐ歩はもっと触っていたくなり、執拗に揉み込んでいく。


「ん……」


 陽気な姫蝶から想像がつかない艶かしい声が漏れる、その顔はほんのり赤く染まり触れる掌は気持ち良い熱が伝わっていた。


「ハイハイそこまでになさい」


 盟のあきれた声と手を叩く鋭い音で歩はここが何処か思い出した。

 人前で何をしていたのか、何をしようとしていたのかを振り返り片手で熱い顔を覆ってしまう。

 指の間から姫蝶を盗み見ると体を震わしながら俯いており、その耳はこれでもかというぐらい真っ赤になっていた。


「少し撃って来ます」


 居たたまれなくなった歩はシューティングレンジに足を向けるのだった。



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