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3章 13. 灯ちゃんは泣き虫さん

 遂にマイラが家族との再会を果たした。

 これでマイラを故郷に送り届けるという目的も達成し、残るははクウの安心して暮らせる場所探しのみである。

 ただ、その場所の候補がなかなか見つからないので、そっちの方はもう少しかかりそうだが。

 それにもっと大きな問題は、帝国の存在だ。

 奴らは魔獣を捕らえることになんの躊躇もないので、放置していたらいつまで経っても安全な場所は見つからない。

 それにせっかく家族と再会出来たマイラも、また捕まる可能性はある。

 そんなことをさせる訳にはいかないので、まずは帝国をどうにかしなくちゃいけない。


「ご主人様、難しい顔してどうしたの?」


「え?あ、ああ、ちょっと考え事をな」


「あんまり無理し過ぎるとパンクするよ」


「はは、それもそうだな。ありがとうドロシー」


 現在俺達はエキドナ達を交えて夕食を取っている最中なのだが、色々と情報が集まってきたのもあり、つい考え込んでしまっていたらしい。

 あの無関心なドロシーに心配されるのだから、相当なのだろう。

 いや、ドロシーはこういう時意外と鋭かったりするのか。

 まぁともかく考えるのは後にして、今は食事に集中しよう。


「灯ちゃんは明日からどこに向かうの?」


 エキドナはいつの間にか、俺達のことを全員ちゃん付けで呼んでいる。

 彼女なりの親しき者への距離の縮め方なのだろうが、正直恥ずかしいのでやめてほしい。


「とりあえずさっき言ってたサラジウムっていう街に向かおうと思うよ」


「あらそうなの。それじゃ私達が案内してあげましょうか?」


「それはありがたいけど問題が1つあって、俺達今砂漠の中で馬車を引ける魔獣が居ないんだ。だから今日もその魔獣探しをしてたんだけど見つからなくて」


 本来ライチと探していたのは、マイラの家族ではなく馬車を引ける魔獣だ。

 偶然子ケルベロスやエキドナ達と出会ったのはラッキーだったが、結局このままだとどこにも移動出来ないことに変わりない。

 グラス達は予想通り今日だけで体力は限界に達し、今はモンスターボックスの中で休んでもらっている。

 早く何か手を打たないと、このままずっと砂漠をさ迷うことになるし、最悪馬車を手放すことにもなるだろう。


「ふーん、それじゃあ私達がそれ引くの手伝ってあげましょうか?」


「え、いいの?」


「もちろんよ。灯ちゃんにはマイラを連れてきてもらったのと、ケルベロスちゃん!を治療してもらった恩があるんですもの。それくらい当然だわ」


 エキドナからの突然の提案は、俺達にとってはこれ以上ないほど有難いものだった。

 砂漠に縄張りとするこの地のエキスパートである彼女達が、道案内をしてくれる上に馬車まで引いてくれるのだ。

 藁にもすがる思いだった俺は、当然この提案を受けることにした。


「それじゃあ、是非お願いするよ。ありがとう」


「ふふ、いいのよ。これくらいじゃまだまだ私達の恩は全然返しきれないものね」


 エキドナは母性溢れる柔らかい笑みで了承してくれた。

 もう1ヶ月以上自分の親と会っていないからか、彼女の表情が一瞬お母さんと重なって少し視界がぼやける。

 そういえば、あまり深く考えてこなかったけど、俺がいなくなってあっちの世界はどうなったのかな。

 両親は警察を呼んだししてくれてるだろうけど、学校はあんまり変化なさそうだ。俺友達いないし。

 あ、でも学校の動物達は寂しがってるかもしれない。

 久しぶりに会いたいな。


「ダ、ダーリン大丈夫!?」


「どうしたの?」


「な、なんでもない。ちょっと故郷のこととか親のことを思い出してな……」


 気づけば俺はなぜか、頬がぐちゃぐちゃになるほど涙を流し鼻水を垂らしていた。

 これまで生きることに必死でずっと気を張ってきたが、マイラが家族と再会したのを見て、気が緩んでしまったのかもしれない。


「あらあら、灯ちゃんは泣き虫さんなのね」


「う、うるせぇ……」


「ふふ、強がっちゃって。でも無理するのは良くないわよ。ほらこっちに来なさい。たまには全部ぶちまけることも大切よ?」


「ぐすっ、う、うわぁぁぁぁぁ!」


 俺はエキドナの優しさに甘えて、自分の中に溜まっていたものを全て吐き出した。

 そうすることで分かったのだが、俺は自分が思っていた以上に無理をしていたみたいで、気づけば俺は泣き疲れて深い眠りに落ちていたのだ。







 ――








 翌朝、朝日がテントを照らしその眩しさで目が覚めた。

 昨夜思いっきり自分の中の物をぶちまけたせいか、妙に体が軽い。

 やはりなんだかんだで、俺はそうとう無理をしていたんだな。

 だけどもう大丈夫だ。俺にはまだやらなければならないことがあるんだし、いつまでもうじうじなんてしてられない。

 今日からまた切り替えて、頑張っていこう。


「クウー」


「おはようクウ」


「クウ!」


 1人朝日を眺めながら伸びをしていると、テントの中からクウが出てきたので抱き上げる。

 思えば俺の冒険は全て、このクウとの出会いから始まった。

 辛いこと、怖いこと、痛いこと、嫌なことを沢山経験したけど、それ以上にクウや他の仲間達と出会えたこの異世界が俺は大好きだ。

 だからまだ向こうの世界へは帰れない。

 正直最近は、もうこの世界で生きていくのも悪くないと思えてきたしな。


「クウ、これからも旅を続けような」


「クアッ!」


「ははっ!くすぐったいぞクウ!」


「クウー」


 俺が改めてそう言うと、クウは嬉しそうに鳴いて顔をぺろぺろと舐めだした。

 結構くすぐったいが、こうして戯れている時間がとても幸せだ。

 いつまでも、こうしてクウと遊んでいたいと思えるほどに。


「おはようダーリン。今日は随分起きるのが早いのね」


 そうしてしばらくクウと遊んでいると、シンリーが起きてきた。

 彼女は相変わらず砂漠では全身防備のスタイルなので、茂みが喋ってるようにしか見えないが。モ〇ゾーみたいだ。


「ああ、昨日はお陰様でぐっすり眠れたからな」


「むぅ、あんなに苦しんでたのなら、私に言ってくれれば慰めてあげたのに!」


「ごめんごめん、でも申し訳ないけどシンリーからはあそこまでの母性は感じられないからな」


「ひどーい!私だってあれぐらい大きければ……」


 シンリーはブツブツと言いながら自分の胸をさする。

 そういえばエキドナのはかなり大きかったからな。あれと比べられたら、どんな女性も霞んでしまうだろう。

 そんなつもりはなかったのだが、これは少し失言だった。

 シンリーだっていつも、俺のことを気にかけてくれていたのだからな。


「シ、シンリーにだって俺は癒されてるよ」


「え、ほんとう?」


「ああ、流石は森の魔人だよ。いつも頼りにしてる」


「ふふっ、そう?まぁ私は魔人ですからそれくらいお手のものよ!」


 シンリーには悪いことをしたと思い、慌ててフォローしたがどうやら上手くいったようだ。

 ソレに癒されてるというのも嘘ではないしな。いつも彼女の水や治癒力には助けられているのだから。


「ガウガウ!」


「バウバウ!」


「バオバオ!」


 シンリーの機嫌が良くなったところで、続いてマイラと子ケルベロスとヒュドラがやってきた。

 マイラは昨日は久しぶりに兄弟で仲良く寝たみたいだな。

 心做しかいつもより表情が明るい気がする。


「良かったなマイラ、家族と再会出来て」


「ガウ!」


 クウを肩に乗せマイラの頭を優しく撫でると、マイラも気持ちよさそうに頭を擦り付けてきた。相変わらず可愛いやつだ。

 そして今気づいたのだが、顔から首周りにかけて毛が伸びてきている。

 どうやらマイラも大人に近づいてきたのだろう。体はまだまだ小さいが、そのうち立派なたてがみを生やすに違いない。

 今から成長が楽しみだ。


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