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3章 8.伝説の鳥

 怪鳥・サンダーバード。

 雷をその見に宿した伝説の鳥の魔獣。

 俺のいた世界でもサンダーバードは、伝説上の生物として有名だ。

 曰く、その羽ばたきは雷鳴を呼び、体からは稲妻を走らせる。

 曰く、人語を話し人間の顔を持っている。

 曰く赤い羽毛を纏った鷲の様な外見の鳥。

 噂は様々あったが、どれも抽象的で現実味のない空想上の生物であった。


 しかし、この世界のサンダーバードは違う。

 この世界ではサンダーバードという存在は確認されており、実在している魔獣の1種なのだ。

 全長は4~5m程で、翼開長はなんと30mにも及ぶ。

 その外見はカラスの様に真っ黒で、羽ばたく度に全身から閃光が迸り、嵐の夜には雷と戯れるといった特殊な生態を持つ。

 彼らはハクラン山脈の山頂に生息しており、時折餌を求めてこの古竜の多く生息する渓谷に、降りてくるのだ。


 そんなサンダーバードが今現在、俺とシンリーを足で掴んで窮地から救いだしてくれた。

 ただ、未だに彼が味方なのかどうか判別はつかないし、全裸で空高く飛んでいてめちゃくちゃ怖い。


「これ、落とされたら簡単に死ぬなぁ……」


「ダーリンどうするのこれ?」


「さぁ?このサンダーバードの気分次第だから分からん」


 恐怖で頭がおかしくなったのか、妙に冷静に話せていた。

 対するシンリーは本当に余裕があるようで、冷静に俺に対策を求めてきた。


「じゃあ私が倒そうか?」


「やめとけ、そんなことしても真っ逆さまに落ちて助からないよ」


「じゃあこの鳥が降ろしてくれるのを大人しく待つしかないって訳ね」


「まぁそういうことだけど、とりあえず対話してみるか」


 サンダーバードは今のところ渓谷の上を旋回するように飛んでいるだけで、どこかへ移動する気配はない。

 さっきはタイミング的に考えれば確実に助けてくれたわけだし、話せば案外物わかりの良い魔獣の可能性はある。

 という訳で俺は、俺たちを掴んでいるサンダーバードに対話を試みた。


「おーい、サンダーバードさんやー。とりあえず助けてくれてありがとなー」


「ピイィー!」


 まずは助けてくれたことに対し礼を言うと、サンダーバードは嬉しそうに鳴いて翼から雷を放出させだした。

 これがサンダーバードの感情表現なのだろう。

 少し怖いが当たる気配もないし、問題は無いはずだ。


「それでもう大丈夫だから、そろそろ降ろしてくれないか?」


「ピイィ……」


 続いて降ろして欲しいとお願いしてみると、今度はさっきとは真逆で、力無く掠れた声で鳴いた。

 このやり取りで、サンダーバードも例に漏れず、俺の体質の影響を受けていることは確定だ。

 その上で、こちらの話に聞く耳を持ってくれることから、このサンダーバードが無理やり乱暴をしない大人しい性格なことが判明した。


「今は下にいるバーンドラゴンをどうにかしなくちゃいけないんだ。その後でならたっぷり遊んであげられるからさ」


「ピイィ!」


 後で遊べるという言葉を聞いたサンダーバードは、再び元気に鳴きだし下へと滑空しだした。

 急な加速のせいで妙な浮遊感に襲われ、全身に鳥肌が立つ。


「わお、さすがダーリンねっ!」


「ちょ、もう少しゆっくり……!」


「ピイィー!」


 サンダーバードは俺の声が聞こえていないようで、一心不乱にさっきまでいた池まで滑空する。

 高速で落下する恐怖に支配されながらもかろうじて目を開けると、そこでは皆とバーンドラゴンが戦っている最中だった。

 ただ皆俺達のことが気になっていた様子で、戦いに集中出来ておらず、若干膠着状態にある。


「ピィ!」


「あ、ありがとう」


 そんな戦闘が行われている中、俺とシンリーは馬車のそばで優しく降ろされた。

 サンダーバードにお礼を言うと、彼は力強く羽ばたき再び遥か上空へと飛んでいった。


「あら、もうお別れなの?」


「いや、どうだろうな」


 そんな様子にシンリーが少し寂しそうに声を漏らしたが、それは多分違う。

 あれだけ後で遊ぶという単語に興奮していたのに、こんなに簡単に引き下がるわけがない。

 恐らく何か別の狙いがあるのだろう。


「ピイィー!」


 そう考えていたのもつかの間、遥か上空でサンダーバードの甲高い鳴き声が響いてきた。

 空に目をやると、そこでは快晴なのに一点だけ雷が渦をまいている箇所があった。

 サンダーバードだ。

 彼は黒い羽毛が白く染まるほど光り輝く稲妻を身にまとって、一直線にバーンドラゴンに襲いかかったのだ。


「うおぉっ!」


 それはさながら、一筋の落雷であった。

 一直線に落ちる真っ直ぐな雷。

 気づいた時には既にバーンドラゴンに落ちていて、閃光が眩く光り輝き、次いで雷鳴と轟音が地鳴りとともに轟く。

 全て一瞬の出来事で、俺は最初何が起こったのか分からなかった。

 ただ目の前にいつの間にかサンダーバードが立っていて、その表情はどこか誇らしげであった。


「す、凄いな……」


「ご主人様、今のどういうこと?」


 バーンドラゴンと戦っていたドロシー達は、一瞬で敵が黒焦げになったことに目を点にして、こちらを見ている。

 状況をまだ理解出来ていない様子だ。


「このサンダーバードが助けてくれたんだ。さっきの攻撃もこいつの一撃だよ」


「ピイィー」


「速いね、目で追うので精一杯だった」


 え?追えたの?

 俺は急に目の前が光って轟音が響いて、気づいたら目の前にサンダーバードがいたくらいしか分からなかったのに。


「はっくしょん!」


「ああ、そういやまだ服着てなかったな。とりあえず細かい話はその後で頼むわ」


 シンリーのくしゃみで、自分達が未だに全裸なことを思い出し、慌てて馬車に着るものを取りに行った。







 ――







 馬車に戻って着替えてきた後外に出ると、いつの間にかサンダーバードの周りに皆が集まっていた。

 クウやマイラに至っては、すでに仲良くなっている様子で、サンダーバードの背に乗って遊んでいる。


「お待たせ」


「ピイィー!」


 皆の所に戻ると、サンダーバードが地面を走って擦り寄ってきた。

 ただ鳥だからか、足はそんなに速くないみたいだ。

 しかし、それでも巨大なカラスが走ってくる様は、迫力がある。


「よしよし、改めてありがとうな。危ないところを助けてくれて」


「ピイィー」


 頬擦りしてくるサンダーバードの頭を優しく撫でると、とろけるような鳴き声を上げて、頭を手に押し付けてきた。

 こうして撫でていると、学校で鳥の世話をしていた時のことを思い出す。

 あの時は色々な鳥が何羽もいて、相手をするのが大変だったが。


「それでご主人様、この鳥は何者なの?」


「こいつはサンダーバードと言って、ハクラン山脈を縄張りにする怪鳥だよ。たまに渓谷に下りてきて古竜を食べてるんだ」


「ふーん、それにしてもかなり速いね」


「サンダーバードは、体内の魔力を雷に変えて全身をまとったり放出したり出来るからな。速いのもその影響だよ」


「そーなんだ」


 ドロシーは相変わらず素っ気ない返事しかしないが、それでもサンダーバードの強さに珍しく興味を示していた。

 気が散っていたとはいえ、苦戦していた敵をあっという間に倒されことを、多少気にしてるのだろう。


「ねぇダーリン、その子も一緒に連れていきましょうよ」


「サンダーバードをか?」


「うん、いいと思う」


 着替えを終えて馬車から出てきたシンリーは、開口一番そんなことを言ってきた。

 そしてそれにドロシーも賛同する。


「うーん、サンダーバードはどうしたい?」


「ピイィー!」


 仲間にするのはいい考えかもしれないが、まずは本人の意志を確認するのが先決だ。

 いやいや連れて行ってもいいことは無い。

 そう思って聞いたのだが、サンダーバードは翼を広げて俺を抱きしめてきた。

 どうやら一緒に行くのには賛成のようだ。


「クウ達も大丈夫か?」


「クウー!」


 背に乗っているクウ達や他の仲間にも確認したが、彼らにも反対する者はいない。

 それならもう連れていかない理由はないな。


「それじゃあ、これからよろしくなサンダーバード!」


「ピイィー!」


 こうして俺達は、新たに怪鳥・サンダーバードを仲間に加えた。


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