3章 6. 渓谷での戦闘
ヒアルドラゴの群れが一斉に飛び掛ってくる。
錆色の体を持つ彼らがまとまって動く様は、さながら銅の波であった。
「ドロシー、シンリー迎え撃て!」
「分かった」
「任せて!」
押し寄せるヒアルドラゴの群れに対し、シンリーは地面から木の根を突き出して進行を妨害する。
そしてその隙にドロシーが、泥弾で次々と撃ち落としていった。
しかしそれでもヒアルドラゴの数は多く、打ち漏らした数匹が横からすり抜けてくる。
「あ、しまった」
「ダーリンそっち行ったわよ!」
「おう!クウ頼むぞ!」
「クウ!」
ヒアルドラゴはその細い体躯を駆使し、縦横無尽に疾走して鋭い牙と鉤爪を突き出してくる。
「ギシャア!」
「ギグウッ!」
だが、それは全てクウのワープによって防がれて、仲間同士で傷つけ合う結果となった。
クウを最終防衛ラインに配置すれば、万が一にも敗北は無い。伝説の竜という異名は伊達ではないのだ。
「今だグラス、ホーン、ミルク、アオガネ、突っ込め!」
「ブオオォー!」
「ジャアー!」
ドロシー、シンリー、クウが敵を迎撃したことで出来た隙をグラス達とアオガネが攻める。
グラス達は横並びに3匹で突進し、進行方向にいるヒアルドラゴ達を吹き飛ばしていく。
彼らの突進に逆らえる魔獣はそう多くないだろう。
そしてアオガネは、ヘビ特有の予測不能な変幻自在の動きで、ヒアルドラゴの間をすり抜けてその硬質な巨体で次々と薙ぎ払っていく。
数十メートルという巨体にも関わらずアオガネの動きは速く、ヒアルドラゴはなす術もなく次々と倒されていった。
「ギシャア!」
正面ばかりに気を取られていた隙に、いつの間にか渓谷の崖を駆け上がったヒアルドラゴが数匹、背後から襲いかかってきた。
「後ろか、プルム頼む!」
俺は咄嗟にプルムを後方に放り投げた。
プルムは移動速度がかなり遅いので、戦闘時はこうして投げることで移動速度を上げる必要がある。
「!」
後方に飛んだプルムは、ヒアルドラゴ達とぶつかる瞬間一気に体を膨れ上がらせた。
プルムは現在50体ほどの分裂が可能になっており、更に新たに巨大化の能力も獲得していたのだ。
それによりプルムの体は一時的に、アパートのワンルームくらいの大きさにまで変化した。
「ゴポァッ!」
「ガボオォ……!」
空から落ちているヒアルドラゴ達に急な方向転換は出来ず、全員まとめてプルムの体の中に飲み込まれていった。
だがこのままでいれば、やがてプルムの胴体はヒアルドラゴ達の爪や牙で切り裂かれてしまう。
だからそうなる前に、すぐに次の手を打った。
「プルム、ヒアルドラゴをドロシー達の方に打ち上げろ!」
「!」
プルムは体内に何本も触手を伸ばし、ヒアルドラゴを掴んでドロシー達の方へ放り投げる。
「ドロシー、シンリー撃ち抜け!」
「分かった」
「りょーかい!」
突然空に放り出され状況が理解出来ていないヒアルドラゴ目掛け、泥弾と木槍が強襲する。
空中で身動きが取れなかったヒアルドラゴは、ドロシー達に簡単に射抜かれ次々と倒されていった。
「クアァァー!」
「ガアァァー!」
「ん、とうとう来たか……!」
皆が戦闘に加わり俺の周りが手薄になったことで、1連の戦いを遥か上空で見物していた翼竜達が、一斉に急降下してきた。
奴らは俺の周りから魔獣がいなくなるのを、じっと待っていたのだ。
だが俺は、こうなることは最初から予想していた。だからその時のために、最後の仲間をモンスターボックスに潜ませていたのだ。
「行けマイラ!燃やし尽くせ!」
「ガルウゥゥ!」
天目がけモンスターボックスを投げると、その中から勢いよくマイラが飛び出してきて、急降下してくる翼竜目掛けマイラの炎が放射された。
ここは渓谷で、周りに燃えやすいものは何も無い。
マイラは初めて出会った時の振りに、全力の炎をお見舞した。
「ガ、ガアァッ!?」
突然現れた大炎に翼竜達はなす術もなく、次々と焼き尽くされていく。
こうして見ると、やはりマイラの炎は強力過ぎるな。
これでまだ子どもなのだから、大人になったらどれだけの炎を吐くことが出来るようになるのだろうか。
まったく、末恐ろしい奴だ。
「よくやったマイラ!」
「ガウガウ!」
翼竜を全て倒し落ちてくるマイラをキャッチして礼を言うと、マイラは頬を舐めてきた。
炎を吐いたせいか、舌がちょっぴり熱い。
「ドロシー、シンリーそっちはどうだ?」
「もう終わる」
「大したこと無かったわね」
ドロシー達の方へ目をやると、もうほとんどのヒアルドラゴが倒されており、生き残った奴らはすでに逃げ出していた。
これにて渓谷での初陣は終結だろう。
――
ヒアルドラゴと翼竜との戦闘を終えた俺達は、遺体を1箇所に集め終えると一息ついていた。
「皆ご苦労さん、少し休憩にしよう」
俺がそう声をかけると、まず最初にクウ達魔獣が一斉に俺の元へ押し寄せてきた。
突然のことに驚きつつも、俺は1匹1匹の頭を撫でてお礼を言っていった。
「ダーリンは大丈夫?怪我はしなかった?」
そして次にシンリーが、ぺたぺたと俺の体を触って怪我の確認してきた。
俺がまともに襲われていないことは知っているはずなのに、そこまで心配しなくても良いのだが。
「落ち着けよシンリー、俺は大丈夫だ」
「そう、よかった〜。さすがはダーリンねっ!」
俺の体を確認し終わったシンリーは、満面の笑みでそう言って指先から木の実を作って渡してきた。
「はいどーぞ。これで体力を回復してね!」
「ああ、助かるよ」
シンリーからその木の実を受け取ると、彼女はクウ達にも木の実を配っていった。
シンリーは結構クウ達の面倒見が良いので、こういうところで意外と助かっている。
そんな姿を見ていると、今度はドロシーが近づいて来た。
「大したことなくて良かったね」
「そうだな。ドロシーは皆の連携はどう感じた?」
「悪くなかったよ。このメンバーなら大抵の敵には負けないと思う」
「ははっ!確かにな。この面子で戦ったのは今回が初めてだけど、なかなか強かったな」
うちの仲間は結構はぐれたりすることが多いので、こうしてまともに連携を取れたのは、意外と今回が初めてだったりする。
だが、それでも個々の力が強く、その上でチームワークも取れていたので圧勝出来た。
全員揃って戦えたのは、今後のいい経験になるだろう。
「ねぇ、それよりあの鳥達食べていい?」
「え?あ、ああ、食べていいぞ」
「やった!」
ドロシーは皆との連携なんかよりも、こんがり焼けた翼竜達の方が興味があるらしい。
俺が許可を出すと、彼女は嬉しそうにスキップしながら翼竜の元へ向かっていった。
このまま放置するのも良くないので食べてくれるのは有難いが、もう少し他のことにも関心を持って欲しいものだ。
「ん、もう日も沈んできたし、今日はここで野宿だな」
気づけば、渓谷の隙間を真っ赤な太陽が落ちていくのが見えた。
もうじき夜になるみたいだし、今日はこれ以上進むのは無理そうだ。
「よし、皆キャンプの準備をするから手伝ってくれ!」
俺の掛け声で、休憩していた皆が動き出す。
もう旅もそれなりに続けてきたので、皆だいぶこなれてきたようで一安心だ。
渓谷での戦闘も危なげなくこなせたので、ここまでの旅は順調に経過した。
もう近いうちに砂漠地帯に出ることになるだろうし、もうひと踏ん張り気を引き締めていこう。




