3章 4. 青い鉄だからアオガネ
ハクラン山脈にある洞窟は、前に戦った竜の蹄が潜んでいた洞窟とは違い、魔光石が無いので真っ暗だ。
畜魔灯具のお陰である程度光源はあるが、それでも洞窟の先がどうなっているかはほとんど分からない。
「ん、ご主人様なにかいる」
「魔獣か?」
「うん、結構大きい」
事前に調べた情報によると、この洞窟にはコウモリ型の魔獣と、クモ型の魔獣、そしてヘビ型の魔獣が生息しているらしい。
ドロシーの情報によるとかなり大きいみたいなので、そこから推測するとヘビ型の魔獣となる。
考えられる魔獣は、恐らくブルーメタルスネークだろう。
ブルーメタルスネークは全身が青光りする黒い金属で覆われた、全長30mにもなる大蛇だ。
「ジャアー!」
「来た」
「やっぱこいつか」
洞窟の奥、灯りの届くギリギリの所に、青黒い金属のような胴の動く影が見えた。
胴回りの太さだけでも、お相撲さん以上の厚みがある極太の大蛇だな。
「上にいる」
「どうするのダーリン?」
「食べる?」
「さっき昼飯食べたばっかりだろうが。あのヘビは捕まえる。仲間にするぞ」
ブルーメタルスネークを見つけたら仲間にすることは、当初から決めていたことだ。
この洞窟は奥へ進むと迷路のように道が入り組んでおり、1度迷えば抜け出すのは困難。
だが、そんな場所で生活している魔獣を仲間にすれば、容易に洞窟を突破出来るという作戦だ。
「ジャー!」
洞窟の上を這っていたブルーメタルスネークが、鋭い牙を剥き出しにして迫り来る。
「俺に任せろ」
ドロシーとシンリーが動こうとしたのを、俺が前に出て制する。
仲間にする相手をドロシーたちに傷つけさせる訳にはいかないからな。
「シャ、シャアッ?」
ブルーメタルスネークは、俺を見ると狼狽えて襲うのをやめた。
一瞬混乱していた様子だが、すぐに俺の元にスルスルと寄ってくる。
俺の体質の影響で、あっという間にブルーメタルスネークは大人しくなった。
「よしよーし」
「シャア〜」
ブルーメタルスネークの頭や喉を撫でると、気持ちよさそうに体を擦り寄せてきた。
これでこのヘビも仲間になったということだ。
それにしても、実際にこの大蛇を目にすると迫力が凄い。
これほどの巨体は、映画とかでしかお目にかかれないからな。
「さすがダーリンねっ!」
「ははっ、どうも。それじゃあ案内頼むぞ、えーっと名前は……、アオガネ!」
ブルーメタル、青い鉄だからアオガネ。安直だが中々いい名前を付けれたと思う。
洞窟を突破するまでの間だが、それまではアオガネの世話になる。
「よーし、じゃあ案内頼むぞアオガネ!」
「シャー!」
こうしてアオガネに先導されながら、俺達は洞窟の中をさらに進む。
途中何度かコウモリ型の魔獣やクモ型の魔獣と遭遇するも、彼らは全てアオガネが通るついでに胃の中に収めている。
ブルーメタルスネークは、この洞窟内では生態系の頂点のようで、周りの生物は全て餌みたいなものなのだろう。
ほとんどの魔獣がアオガネを見た瞬間逃げ出しているが、そんな中で逃げ遅れた奴が捕食されているのだ。
「いいなーアオガネは、歩きながらご飯食べれて」
「意地汚いわよドロシー」
「だって、美味しそうなのにー」
「美味しそうって、食べてるのクモとかコウモリだぞ……」
ドロシーは、アオガネが食べながら進んでるのを羨ましがっている。
食べてるのはクモとかゲテモノ系で、美味しそうには見えないのだが。
アオガネはほとんど丸呑みだし。
「ねぇご主人様、私もアオガネの方に行っていい?」
「わーったよ、好きにしろ。ただし、迷子にだけはなるなよ」
「うん!」
どうせ止めても無駄だろうと思い、ドロシーが前に出るのを認めると、彼女は返事をしてすぐひとっ飛びで、アオガネの頭の上に飛び乗った。
突然頭の上に現れたドロシーに、アオガネもビクンと体を震わせて驚いている。
「ダーリンちょっとあいつに甘過ぎるんじゃないのー?」
「しょうがないだろ、あまり縛り過ぎるのも良くないんだしさ」
「でもドロシーだけずるいー」
「ならシンリーも好きにしていいよ。守りはクウとマイラとプルムがいれば何とかなるだろうし」
「やったー!」
仲間である以上、特定の誰かだけを特別扱いするのは良くない。
シンリーもクモとかを食べたいのかと思い、自由にしていいと俺は言ったのだ。
しかしシンリーの行動は、俺の予想に反するものだった。
「えっ、ちょ、おい!これどういうことだよ!?」
シンリー俺と手網の間に体を無理やりねじ込んできて、向かい合わせになるように俺の膝に座ってきた。
そしてさらに満面の笑みで、俺に抱きついてきたのだ。
グラス達を操っている手網を持っていて手が塞がっているため、彼女を振りほどくことも出来ない。
その隙にシンリーは指先を枝に変え、両手を絡めることで俺を離れなくさせた。
「おい、これじゃ動きにくいだろうが!」
「へへーん、ダーリンが好きにしていいって言ったんでしょー」
「シンリーも食べに行きたいのかと思ったからだよ!」
「私をあんなアホと一緒にしないでよねー」
口では怒りつつも、一向に手を緩めようとしないシンリー。
全く離すつもりは無いらしい。
これは余計なことを口走ったかと後悔し始めた時、馬車の中からクウ達が飛び出してきた。
「クウー!」
「ガウゥ!」
「!」
「なんだ!敵か!?」
クウ達の慌ただしい喧騒に、俺は魔獣か何かが襲ってきたのかと思ったが違った。
「え?そんなものいないわ――きゃっ!ちょ、やめてよあなた達!」
クウ達が怒っていたのは、シンリーに対してだった。
俺に必要以上に密着していたのが、許せなかったのだろう。
「ガウガウ!」
まずマイラが牙と爪を使って、俺に巻き付く枝を全て切り裂いた。
「!」
そして、シンリーによる拘束が溶けた瞬間、プルムは俺とシンリーの間にヌルリと体を滑り込ませて、シンリーを俺の膝の上から滑り落とした。
「クアッ!」
最後にシンリーが滑り落ちるタイミングで、クウが空間魔法を発動して、ワープで一瞬の内に彼女を馬車の中へと放り込んだ。
「おおー、見事なお手前で」
「どういうことよあなた達!ここ開けなさいよ!」
馬車の中からシンリーの怒鳴り声がする。
ガチャガチャと馬車の扉を開けようと暴れているが、いつの間にか馬車全体をプルムが体で囲んでいて、開かないようになっていた。
「クウ!」
「ガウガウ!」
「!」
そして今度は、シンリーを馬車に閉じ込めたクウ達が俺の膝を占領し始めた。
プルムもいるから、馬車を縛ってるのは分裂体だろう。
相変わらず独占欲の強い魔獣達だ。
だかまあ、年齢はともかく少女の体であるシンリーにベタベタされるより、クウ達を抱いている方が精神的にも健全なので、個人的にはこっちの方がいい。
だからシンリーには悪いが、もう少し馬車の中で大人しくしておいてもらおう。
「あれ?そう言えばイビルはどうしたんだ?」
と、そこで俺は幼虫のイビルがいないことに気がついた。
てっきりクウ達と一緒に飛び出てきたのかと思ったが、そういう訳でも無さそうだ。
慌ててあたりを探していると、馬車の中から悲しげな声が聞こえてきた。
「ぐすっ、もういいわよ……。私はここでイビルと大人しくしてればいいんでしょ?」
シンリーは脱出を諦めたようで、めそめそとイビルを撫でている様だった。
どうやら、イビルは足が遅いから出遅れたらしい。
「はぁ……、ったく分かったよ。プルム、馬車を開けてやってくれ」
「!」
「あれ、出ていいの?」
プルムが馬車を解放すると、シンリーが涙目を浮かべながら、イビルを片手に顔を覗かせてきた。
「ああ、元はと言えば俺の発言が原因だからな。もう全員御席にいればいいだろ」
ドロシーもいなくなって、席にも多少の余裕はあるし皆でいてもギリギリ収まるだろう。
「やったー!ダーリン大好きっ!」
「ただしあまりくっつき過ぎるなよ。もちろんクウ達もな」
「クウ〜……」
「しょうがないだろ、俺は手綱を引いてるんだから」
妥協案として、全員で御者席に座ることとなった。
シンリーに腕を組まれ、プルムとイビルが肩に乗り、マイラが頭の上で、クウが膝の上に乗る。
危険になるほど密着はしないが、それでもギリギリまでは近くにいるということで、このスタイルになった。
皆はこれで良いんだろうが、俺は肩が凝りそうだな。
「ご主人様、何遊んでるのー?」
「うっさい!」
前の方からドロシーの呑気な声が聞こえてきた。
申し訳ないけど、俺は今優しくできるほど心の余裕が無い。
すまんなドロシー。
「はぁ……、にしてもこれじゃ馬車の意味無いなぁ」
せっかくシンリーが増築してくれたのに、全員御者席にいるんじゃ全くの無駄だ。
そんなことを嘆きながら、俺達の旅は続く。




