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3章 2.イルがくれた虫

 イル達と別れた後、シンリーに案内されながら森を進んで小1時間が経過し、俺達はとうとう迷いの森を抜けた。


「おぉー、思ったよりも早かったな」


「当然よ、私の案内があればあんな森大したことないわ」


「さすが森の魔人だぜ」


「ふふっ、ありがとっ!」


 迷いの森で長い間暮らしてきたシンリーにとっては、あそこは庭みたいなものなのだろう。

 自慢げに笑う彼女は、幼さも相まってテストで良い点を取って自慢してくる子供のようで、可愛げがある。


「そういや、シンリーは仲間の魔獣に挨拶とかはよかったのか?何なら今から戻ってしてきたもいいけど」


「その必要は無いわよ。私はダーリンについて行くって決めた時にきっちり別れは済ませたから」


「そうだったのか」


「ええ、だから気にしなくていいわよ」


 シンリーは俺についてくる時に、既に挨拶は済ませていたらしい。

 本人の顔を見ても後悔の色は無いようなので、本当に気にしていないのだろう。

 ならこれ以上掘り下げる必要も無い。今は先のことだけを考えよう。


「ご主人様、あの山大きい」


「ああ、あれはハクラン山脈だよ。あそこに俺達の目指す渓谷があって、その先が砂漠地帯。そこがマイラの故郷さ」


 ハクラン山脈はこの国で最も巨大な山脈であり、その長さは2000㎞にも及ぶらしい。国の北端から南端まで伸びている。

 そんな山脈が2本並んでいて、その間にある渓谷を抜けると、広大な砂漠地帯に出るという訳だ。


「あれを登るの?」


「いや、あの山脈は所々に広い洞窟があるから、そこを通るんだよ」


「ふーん」


 山脈の説明をしても、ドロシーは相変わらず気の抜けた返事しかしない。

 おおよそ考えているのは、どんな生物が生息してるのかな、とかだろう。


「そんじゃそろそろクウ達を呼び出すかな」


 森を抜けた先は、滅多に人は通らないらしいので、クウ達が目立つこともないから自由にさせることにした。


「クウー!」


「ガウガウ!」


「!」


 クウ、マイラ、プルムの3匹は、モンスターボックスから出るやいなや、俺に飛びついてきた。

 イルからもらった幼虫も喋りはしないが、よちよちとゆっくりとした足取りで、俺の指に擦り寄ってきた。

 大きさはラップの芯くらいで、俺のいた世界の虫よりは遥かに大きく中々見慣れないが、それでも愛らしくはある。


「クウ?」


「ガウガウ」


「!」


「ああ、お前達にはまだ合わせてなかったか」


 この幼虫をもらったのはついさっきなので、クウ達のまだ知らない。

 これからこいつも旅の仲間となるのだし、ちゃんと紹介しておかないとな。


「皆聞いてくれ、こいつはさっきイルからもらった新しい仲間の……、えーっと、幼虫だ!」


 クウ達に紹介しようと抱き上げたが、俺自身この幼虫が何の虫なのか分からず困惑してしまった。


「ご主人様、そのまますぎ」


「そ、そうだな。名前付けてあげるか」


 しかし、イルは役に立つと言って意味ありげに笑っていたが、なんの虫になるのか分からないんじゃ、名前を付けるのも難しい。

 仮にチョウに成ると仮定して、アゲハなんて名前を付けた後、もし成虫がカブトムシとかそっち系だったら申し訳ない。

 だから出来るだけ無難な名前を付けてあげねば。


「黒い幼虫……、イルがくれた虫……、うーん、よし!こいつの名前はイビルでどうだ!?」


 イルという名前に、全身真っ黒で悪魔っぽい見た目から、イビルと名ずけた。


「ふーん、いいんじゃない?」


「さすがダーリンね!」


 ドロシーとシンリーは特に嫌な顔をすることもなく、イビルという名前に同意してくれた。

 まぁドロシーは何にも無関心だし、シンリーは俺のすることは大抵同意してくれるから、あまり参考にはならない。

 マリス辺りが聞いたら、また笑われるかもしれないな。


 そんな風に昔のことを思い出していると、幼虫がもぞもぞと動いて腕に擦り寄ってきた。


「おっ、お前も気に入ったか。なら良かった!」


 俺は擦り寄ってくるイビルを持ち上げて、嬉しそうにうねうねと動くのを眺めた。


「じゃあ今日くらいはよろしくなイビル!」


 返事はないが、頭を何度も上げ下げして頷いているから、イビルもよろしくと言っているのだろう。

 ともかくこれで、幼虫の名前はイビルに決まった。


「それじゃあ、そろそろいいかしら?」


「ん、どうしたシンリー」


「宿で言ったでしょ、この荷台をどうにかするって。皆一旦降りてもらえる?」


「そういやそうだったな。分かった、皆降りるぞ」


 宿を出る前に、シンリーは荷台をどうにかすると言っていた。

 しかし、俺はてっきり新しい馬車でも用意するのかと思ったが、そんな影はない。

 シンリーが何をするのかは分からないが、取り敢えずここは彼女の指示に従うことにしよう。


「よーし、皆降りたわね。それじゃあいくわよ!」


 シンリーは皆が降りたことを確認すると、両手を天高く掲げた。

 するもその手に導かれるように、地面から無数ノ木の根が生えてきて、荷台を包み込みだした。


「おおっ、凄いな!」


 荷台に巻き付いた木の根達は、荷台に壁を造り扉を造り、窓枠を造り、屋根を造り、あっという間に立派な馬車へと生まれ変わった。


「ふふーん、どう?見事なもんでしょー」


 最後に御者用の席を新たに造ったところで、シンリーによる荷台の大型リフォームは完了した。

 シンリーは腰に手を置いて、ドヤ顔で俺達の方へと振り向いてくる。


「これはほんとに凄いよ。驚いたな」


「うん、泥じゃ無理だよ」


 荷台の変貌ぶりに、ドロシーも謎の褒め方をしている。

 別に自分と比べる必要なんてないんだがな。


「ねぇダーリン、褒めて褒めて!」


「見事だよシンリー。ありがとうな」


 無邪気に突き出してくるシンリーの頭を俺は、優しく撫でてあげた。

 するとシンリーも嬉しそうに頬を赤らめて、満面の笑みを見せてくれる。


「クウ!」


「ガウゥ!」


「!」


 シンリーを褒めていたら、いつの間にかクウ達は馬車の屋根へとよじ登り、楽しそうに遊んでいた。

 荷台が新しくなって、彼らも興味深々なのだろう。


「よーし、それじゃあ荷台も馬車にリフォームされたことだし、そろそろ渓谷へ向けて出発するぞ!」


「うん」


「はーい!」


「クウ!」


「ガウガウ!」


「!」


「「「ブオォー!」」」


 俺の掛け声に皆も力強く同意する。

 イビルも声は出ないが、体を上下に揺らしてやる気は十分のようだ。

 こうして、俺達はシンリーのリフォームした馬車に乗り込み、渓谷へ向けていよいよ出発した。


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