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3章 プロローグ

 砂漠の広がるクリサンセマム王国東端の地、最大のオアシス『サラジウム』。

 この場所では、多くの種族が共存している。

 通常の人間、体に獣の面影がある獣人族、そして魔人。

 彼らは互いに争うことなく、平和に日々を過ごしていた。


「リーダー!また出やがったぞ!」


 サラジウムにある1つの家に、犬耳をした獣人族の男性が慌ただしく訪ねてきた。

 犬の特徴をもつ彼は、獣人族の中でも犬人族という種族に分類される。

 彼は肩で息をしながら、リーダーと呼ぶ1人の男に駆け寄った。


「ちっ、また人攫いか」


「ああ!また帝国の奴らだ!」


「わーったよ。オレが出る」


 犬人族の男性の報告を受け、偉そうに豪華な椅子に腰掛けていた男が立ち上がった。

 彼は真紅の髪に、ドリルの様な形状の少し曲がった角を額から2本生やした、悪魔のような容姿の男だ。


「ああ、助かるよリーダー」


「気にすんな。俺達は仲間だろうが」


 犬人族の男性が深々と頭を下げると、角の男は彼の肩を軽く叩きつつぎらりと歯を剥き出して笑った。





 ――





 犬人族の男性に詳しい場所を聞いた角の男は、その場所目がけ一直線に地を駆けた。


 オアシスを抜けると、周辺はどこまでも続く砂漠地帯で、障害物などは無く目指す場所まで真っ直ぐ走れる。

 しかし、そこは砂漠である為、本来なら砂に足を取られてまともに走れないし、そもそも暑さで体力をあっという間に奪われてしまう。


「人攫い共め、俺の縄張りで好き勝手しやがって!」


 が、この角の男には砂漠のデメリットなど全く関係ない。

 彼は砂など無いかの様に、風のように走り暑さによる影響も一切出ていなかった。


「ん?あれか……!」


 砂漠を走り始めてわずか10分程で、角の男は人攫いの連中に追いついた。

 その目は獲物を狙う獣同然で、瞬く間に距離を詰めて人攫い連中に襲い掛かる。


「うらあぁぁ!」


「な、なんだグフッ!」


「どうしガバッ!」


 人攫いの人数は全部で5人で、その内後衛を務めていた2人が一瞬で角の男の餌食となった。

 角の男は髪の毛と同様に、真紅に燃え上がらせた爪で2人の胸を貫き、一撃で息の根を止めた。


「な、なんだ貴様は!?」


「どこから現れた!?」


「どこから?そんなもの街から走ってきたに決まってるだろうが」


「ふざけるな!街からここまでどれだけかかると思ってんだ!?」


「んなこたぁどうでもいいんだよ。それより攫ってったうちの連中、返してもらうぞ」


 鬼のような怒気を乗せた角の男の睨みは、帝国の人攫い連中を震え上がらせた。

 砂漠の中だというのに、寒気が押し寄せてくる。


「くっ!やるぞお前達!」


「「分かった!」」


 慌てて杖を抜いた3人は、それぞれ角の男目がけ魔法を放った。

 1人は爆発系の魔法で木っ端微塵に。

 1人は炎系の魔法で墨に。

 1人は風系の魔法で、風の刃で粉々に。

 三者三葉の魔法全てが、角の男を襲った。

 砂漠の砂が舞って、角の男の姿が見えくなる。


「や、やったか……?」


 人攫い連中の誰かがそう呟いた時、土煙の中に薄らとだが、人影が見えた。


「ダメだ!まだ生きてるぞ!」


「もう一度魔法を――」


「遅せぇよ」


 人攫い連中の1人が再び魔法を放とうとした瞬間、彼の頭は無くなった。

 比喩などではなく、彼は首から上が綺麗に跳ね飛ばされたのだ。

 角の男の手にはいつの間にか鞭がある。

 その鞭は、岩石の様な粒がいくつも連なった様な形状で、ポタポタと赤黒い液が垂れていた。


「よし、あと2人だな」


「ひ、ひいぃ!」


「ま、待ってくれ!俺達はただ、命令されただけで……!」


 人攫い連中の残り2人は、角の男には勝てないと確信したのか、恐怖の顔を張り付かせ命乞いをした。


「ダメだ。ここで逃がしたらお前達は何度でも攫いに来るんだろう?ならここで始末した方がいい」


「そ、そんなことは無い!」


「あ、ああ、もう二度とここには来ねえよ!」


「……いや、お前達はここで、って何してんだお前ら!?」


 角の男は彼らの命乞いに一瞬悩んだが、結局考えは変わらなかった。


「馬鹿が!ちょっとでも動けばこいつらの命はないぞ!」


 だが、人攫い連中もその反応は当然予想していた。

 彼らは角の男が一瞬悩んだ隙に、攫ってきた人達を人質にしだした。

 捕まっていたのは獣人族の子供達だった。彼らは涙目で怯えながら、角の男を見つめた。


「り、りーだー……」


「た、たすけてりーだー……」


「ちっ、どこまでもクズなゲス人間共が……!」


 人攫い連中の非道な行動に、角の男の怒りは限界を超える。


「はっはっは!これでもう手出しはできないだろ!」


「おら!大人しく武器を置け――ぎゃああああ!」


 人質を使うことで若干の余裕が出てきたと思った瞬間、人攫い連中の1人が地面から噴き出した紅蓮の炎に包まれた。


「お、おい!熱っ!な、なんだよ急に!?」


 突然の炎の出現に、もう1人の人攫いは困惑の色を隠せないでいた。

 捕まっていた子供達は、その隙に角の男の背後へと避難する。

 その顔には、もう怯えた様子はなく安心感から笑っている子達もチラホラといた。


「さて、後はお前だけだな」


「ひ、ひいいぃぃぃ!」


 角の男は不敵な笑みを浮かべ、最後の1人を睨みつける。

 大の男の情けない悲鳴が、だだっ広い砂漠に広がった。







 ――







 攫われた子供達を救出した後すぐ、獣人族の大人達が駆け付けた。


「りーだーありがとー!」


「りーだーつよーい!」


 子供達は角の男の周りを走り回りながら、飛びつきながら、無邪気な笑顔を振りまいていた。

 その様子を見て、角の男も気分が良くなり口を大きく開けて豪快に笑いだす。


「はーはっはっは!そうかそうか、オレは強いか!」


「うんー!」


「つよつよだー!」


「そりゃあ、なんたってオレは魔人だからな!」


「「まじんすごーい!」」


 そう、彼は魔人だったのだ。

 獣人族の人々にリーダーと慕われる彼の正体は、『溶岩の魔人』。

 灼熱の炎を統べる最強の魔人だ。


「リーダー、今回もありがとうございます!」


「おう、いいってことよ。困った時はいつでもオレを頼りな!この溶岩の魔人を!」


 深々と頭を下げて礼を言う獣人族の大人達に対し、溶岩の魔人は豪快な態度で頷いた。


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