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2章 31. チェックメイト

 ドロシーと森の魔人が加わり、俺たちの陣営の戦力は圧倒的だ。

 対する騎士はイーしか味方はおらず、しかもそのイーも現在はイルと戦っている。

 しかしまだ、他の騎士の援軍が来る可能性もあるので、そうなる前に勝負を終わらせるのがベストだ。


「ふふん、同じ魔人と一緒に戦うなんて何だか久しぶりね!」


「そうなの?」


「まぁあんたは忘れっぽいから、覚えてないのも無理はないわね……」


「興味無いから」


「森の魔人は、昔ドロシーと一緒に行動してたのか?」


 前に聞いたドロシーの話だと、魔人の寿命は相当長いらしい。

 だからその長い歴史の中で、協力関係があったとしてもおかしくはないだろう。

 それにドロシーに続いて森の魔人にも出会ったのだ。

 その他に魔人がいても、何ら不思議ではない。


「かなり昔の話だけどね。ドロシー以外の魔人とも一緒に戦ったこともあるわよ」


「へぇー、魔人同士って結構仲良いんだな。魔人は結構沢山いるのか?」


「そんなことないわよ。それより今は戦闘中なんだからお喋りはここまで」


「ご主人様、行ってくる」


 魔人についてもう少し詳しく聞きたいところだったが、森の魔人の言う通り今は戦っている最中なので仕方ない。

 ドロシーは俺に一言そう言うと戦場へと駆け出し、森の魔人もその後を追う。


「よっと」


「くらいなさい!」


 ドロシーと森の魔人はクウの後ろに立つと、泥弾と木の枝の槍を乱射した。

 一見無造作に放たれる攻撃のように見えるが、その精度は正確で、近接戦闘をしているマイラを掠めることなく、寸分違わず騎士を襲った。


「ぐっ、また数が増えたか……!そろそろ不味いな」


 騎士は盾を駆使して泥弾と木槍を防ぐが、それでも圧倒的な物量の前にかすり傷が増えていく。


「マイラは一旦離脱して、クウはワープで援護しろ!」


「ガウガウ!」


「クアッ!」


 更に、クウのワープによって、泥弾と木槍が全方向から騎士を襲う。

 盾は一方向しか防げないので、完全には防ぎきれない攻撃だ。


「くそっ!」


 さすがの騎士も、この攻撃にはたまらず逃げだした。

 咄嗟に鎧で加速して横飛びに逃げたが、森の魔人の木槍が何本か足に刺さり、騎士の機動力を奪った。


「今だグラス、ホーン、ミルク突っ込め!」


「「「ブオオォー!」」」


 そこで間髪入れずに、グラス達の突進を浴びせる。

 騎士は咄嗟に動いたことで体制が悪く、グラス達の突進を避けられず正面から受けた。

 盾を展開して防いだが、先程の突進とは違い今回は足を負傷している。

 それが響いて騎士は踏ん張りが効かず、ホーンの角が上手く絡まって上空へと突き上げられた。


「ぐおぉっ!」


「今だドロシー、森の魔人、狙い撃て!」


「分かった」


「おっけー、任せて」


 無防備に空中に騎士が飛ばされたところで、ドロシー達魔人の集中砲火が襲う。

 超人的な身体能力を持つ騎士でも、空中に出れば身動きは取れない。

 盾で必死にガードしているが、見るからに痛手を負っている。


「よし、チェックメイトだ。クウ、ドロシー達の攻撃を拡散させ――矢!?」


 ここで一気に騎士を仕留めようとしたところで、どこからか無数の矢が降り注いできた。

 しかし、運のいいことに騎士を倒すために上を向いていた俺達は、すぐにその存在に気づけた。


「ご主人様も皆も、下がってて」


「泥の魔人、やるわよ!」


「うん」


 ドロシーと森の魔人は素早く俺達の前に立ち、両手を勢いよく地面につくことで、地面から巨大な壁を出現させた。

 泥と木々の壁は降り注ぐ矢を全て防ぎ、お陰で俺達は無傷ですんだ。

 しかし、騎士の男は仕留め損ねたし、援軍の騎士達も来てしまっただろう。


「ジェリアン先輩、ご無事ですか!?」


 ぞろぞろと数十人の騎士達が、隊長の元へと駆け寄ってくる。

 面倒な状況になったが、それ以上の衝撃が俺を襲った。

 やってきた騎士達を率いていたのが、エルフルーラさんだったのだ。


「エルフルーラか、助かったぞ」


「いえ、それより彼らは何者で……、え!?」


 ジェリアンと呼ばれた隊長の男に駆け寄ったエルフルーラさんが、周囲を見回したとき俺のところで目を見開いた。


「君は、灯君じゃないか!なぜこんな所にいるんだ!?」


「まぁ、色々とありまして……」


 慌てて色々と、事の顛末を説明しようと思ったがやめた。

 エルフルーラさんの後ろに並ぶ騎士達から異様なほどの殺気を感じ、話をしていられる雰囲気ではなかったからだ。

 戦いに関しては素人の俺ですら感じられる、背筋がこおりそうなほど怖気る殺気だった。

 べ、別にビビって喋れなくなった訳じゃないからな!


「奴は魔人と魔獣を統べる危険な存在だ。すぐに排除しろ!」


「なんだと!どういう意味だこの野郎!」


「見ろ、あんな野蛮なやつを野放しにはしておけん。矢を構えろ!」


「くそっ、どうあっても俺を悪者にしたいらしいな……!」


 ジェリアンの号令で、騎士達は一斉に弓に矢を番え始めた。


「ちょっと待って下さいジェリアン先輩、彼は悪人なんかではありません!きっと何か事情があるはずです!」


「黙れエルフルーラ!事が起きてからでは遅いのだ!」


 こんな状況でも庇ってくれるとは、エルフルーラさんはなんて優しい人なのだろうか。

 しかし、それでも最悪なことには変わりない。


「ほらみなさい、魔獣だの魔人だの、人間はそれだけで私達を敵とみなすのよ」


 ジェリアンとエルフルーラさんが言い合いをしだした時、森の魔人も疑念の目で俺に問いただしてきた。


「今は状況が悪いだけだ。ちゃんと説明すれば理解してくれるさ」


「そんな人間いるわけないでしょ!」


「いるよ。少なくとも俺は、ちゃんと理解してくれる騎士を知ってる」


 少なくともライノ隊の面々は、魔人や魔獣だとしてもすぐに敵とは判断しない。


「ふ、ふん!そんなの極一部の変わり者だけよ!大半はああやって私達を敵として見てるのよ!」


「大丈夫だ、俺が何とか説得してみせる!」


「そんなこと言って、どうせあなたも最後には危なくなったら、私達を裏切るんでしょ?」


「そんなことはない。今は俺を信じてくれ!」


「……分かったわ。でも危なくなったら、容赦はしないからね」


 どうにか森の魔人を宥めた俺は、皆を庇うように1歩前に出た。

 ここは唯一の人である俺がどうにかするしかない。

 だが大丈夫だ、今回の首謀者はジェリアンであり、その事実は変わらない。

 きちんと話せば騎士達だって理解してくれるはずだ。向こうにはエルフルーラさんだっている訳だし。


「聞いてください!俺達はあなた方と敵対するつもりはありません!全ての元凶はそこの男、ジェリアンにあるんです!」


「なんだと!」

「貴様、我らの隊長を愚弄する気か!」

「騎士を悪呼ばわりするとは許せん!」

「悪人の言うことなど信じられるか!」


 状況を即座に打開するべく、俺は単刀直入にジェリアンが元凶だと言い放った。

 お陰で騎士達からは、罵詈雑言の嵐を受けることとなったが、これも俺の狙い通り。

 お陰で騎士達からの注目を集められた。

 ジェリアンが騎士を止めようとしたが、部下達は隊長が馬鹿にされたと思ってなかなか収まらない。

 これで口出しもしずらくなるはずだ。


「どういうことだ灯君!?」


「ジェリアンは密かに魔獣の研究をしていたんです。その実験内容は極悪非道で、魔獣を操るために人体実験まで行っている!俺の後ろにいる魔人もその犠牲者なんです!」


 俺はその後もジェリアンの非道の数々と、今回の首謀者だということを騎士達に伝えた。

 しかし彼らの顔は終始俺を鬼のやうな形相で睨んでおり、全く信じられていない様子だ。

 だがそれも仕方ないだろう。今この状況では証拠が無いのだから。


「ふざけるな!そんな話信じられるか!」


「証拠も無いのに適当なことを言うな!」


 どんな世界でも、犯罪を証明するには証拠が必要。俺には今それがない。

 でもだからといってみすみすやの雨を受ける訳にもいかないのだから、どうにかして説得するしかない。


「今ここには無いですが、彼の私室に入れば実験器具があるはずです!それにこの森にも今、彼の実験の犠牲となった魔獣が、彼の指示で暴れ回っている!」


「そんな……、ジェリアン先輩がそんなことするはずが……。いや、でも確かに生け捕りにされた魔獣の行き先は知らないが、どこかで研究が行われているという話が……」


 唯一エルフルーラさんだけが、俺の話に親身になって考えてくれてるようだ。

 彼女だけでも説得できれば、まだ勝機はある。


「今回森で暴れてる魔獣はゴブリンです!他の魔獣はただ防衛をしているだけで、それを指揮していたのは彼の生み出した魔獣なんです!」


「確かに、支部に運ばれていた魔獣は全てゴブリンだった。灯君の話が本当なら全て辻褄が合う……!」


「ぐっ……!」


 ここで反論をするといかにも怪しいからか、ジェリアンは中々口を出せずにいる。

 対してエルフルーラさんは、疑念が確信に変わりつつある様子だ。

 ここでもう一押し。イー辺りが乱入してくれば完璧なんだが。


「ええい!いつまでも戯言を抜かすな!」

「そもそも原因はそこにいる魔人だろうが!」

「そうだ!魔人を狙え!」


「なっ!?」


 騎士達は俺の話に何か思い至る所があったのか、それを隠すように慌てて再び武器を番え始めた。

 しかもその狙いは森の魔人だった。そのことから騎士の何人かもジェリアンの実験に協力していたのだろう。


 森の魔人は何も言わないが、背中からでも刺すような殺気が感じられる。

 そしてその殺気にあてられたのか、とうとう数人の騎士が矢を放ってきた。


「なによ、やっぱりダメじゃな――」


「させるかぁ!」


 俺は咄嗟に森の魔人の前に立ち、両手を広げた。


 その瞬間、俺は騎士の放った矢3本に貫かれた。


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