2章 30. 無鉄砲は勇気ではない
少し修正しました。
ストーリーに大幅な変更はありません。
(案内役のハチを追加)
ドロシーが森の魔人が下へ向かっている中、騎士との戦闘は激化していた。
クウとマイラの阿吽の呼吸の連携を相手に、騎士はこれを上手く捌ききり、致命傷を受けずにいた。
その動きも最初と比べると少しずつ無駄が無くなってきており、今では流れ作業のように凌いでいる。
「だんだん対応されてきてるな。そろそろ次の一手を打たないと」
木の影からその様子を見ていた俺は、クウ達を支援する為グラス達を出すタイミングを伺っている。
だが、騎士はクウ達と相手をしつつも常に俺を狙うように動いており、隙が少ない。
「ふむ、この魔獣共の動きもだんだんと読めてきたな。はあっ!」
「うおっ!」
クウ達との戦いに少し余裕のでてきた騎士は、隙をついて俺に肉薄してきて横薙ぎに剣を振るった。
咄嗟に地面に倒れ込んだことでその一撃は避けれたが、騎士は流れるように剣を振り上げ俺を斬ろうとしてきた。
一撃目を避けた時に地面に倒れたせいで、今は身動きが取れない状態になっている。
「うっ、しまった……!」
「覚悟ぉ!」
騎士はなんの躊躇いもなく、俺目がけ剣を振り下ろしてきた。
しかし、その剣は俺に届くことなく途中で消えた。
「クアッ!」
「クウ、ナイス!」
クウがワープで、剣ごと騎士の腕を別の場所へと移動させてくれたのだ。
クウのお陰で、ギリギリのところで命拾いをした。
「ガウアッ!」
「ちっ、面倒な魔獣共だ」
その隙を逃さずマイラが騎士に飛びかかり、騎士は慌てて高速なバックステップで距離を取った。
「このままじゃダメだな……、やるしかないか」
騎士は隊長なだけはあって、攻撃力、機動力、防御力、どの面も高水準だ。
このまま戦闘を続ければ、いつか必ず俺はやられる。
完全にお荷物状態だ。
ならばやれることは1つしかない。
体張って前に出て、自分で隙を作ってグラス達を突撃させる!
「クウ、マイラ、俺が囮になる!俺の後に続け!」
「ク、クウ!?」
「ガウガウ!?」
突然森の影から駆け出す俺に、クウとマイラは動揺を隠せなかった。
ただしそれは、クウ達だけではない。騎士も同様に俺の突然の行動に瞠目していた。
「丸腰で騎士を相手に突撃とは、無鉄砲は勇気ではないぞ!」
「うるせぇ!」
騎士は俺の行動に一瞬驚いていたが、すぐに冷静さを取り戻していた。
しかし、その時にはもう既に俺は騎士まで数mという距離まで迫っていた。
俺は叫び声を上げながら、ハンドボール選手がシュートを打つ時のように飛び上がって、殴り掛かった。
「そうか、ならば潔く死ぬがいい!」
飛びかかってくる俺を前に、騎士は腰だめに剣を構え、居合い切りの要領で剣を放ってきた。
だが、俺は騎士が剣を放つこの瞬間こそ狙っていたのだ。
「クウ、ワープだ!」
「クアッ!」
俺の合図で再びクウのワープが発動する。
しかし、今度の狙いは騎士の剣ではない。飛んでいる俺自身だ。
俺は目の前に出現したワープホールに文字通り飛び込んだ。
出てくる先は、騎士が剣を降り抜いてがら空きの左脇。
「ここだ……!出てこいグラス、ホーン、ミルク!」
「「「ブオオォ!」」」
騎士の左脇に着地地した俺は、すかさずグラス達を呼び出した。
グラス達はモンスターボックスから出てきた瞬間、騎士の脇目がけ鋭い突撃を加えた。
「ぐおぉっ!な、なんだコイツらはいきなり!」
「「「ブオオォー!」」」
グラス達の突然の突撃に対し、騎士は咄嗟に盾を展開し受け止めた。
だが、すでに攻撃態勢に入っていたせいか、上手く腰が入らなかったようで、軽々と吹き飛ばすことに成功した。
「ぐふっ……!や、やっぱタダではいかないか……」
しかし、俺も無傷ではすまなかった。
だがそれも当然だろう。
騎士の真横に丸腰で出現した俺はグラス達を呼び出すのと同時に、騎士から蹴りをもらい木に叩きつけられていた。
しかしその甲斐あってか、俺はある意味で騎士の片足を奪っていたこともあり、グラス達の突撃がより効いたのだ。
「よ、よし、続けクウ、マイラ……!」
「クアッ!」
「ガウガウ!」
そこにすかさず、クウ達による追撃を加える。
騎士は突進のダメージがあるようで、まだ地面から起き上がる最中だ。
これなら一気に押し切れる。
「ぐうぅ、ま、まだだぁ!」
「クアッ!?」
「ガウゥ!」
しかし、これでやられる騎士ではなかった。
騎士は膝立ちになりながら、背負っていた弓を構えてクウとマイラを射抜いてきたのだ。
クウは突然のことで判断が遅れ、ワープに間に合わなかった。
幸いクウとマイラに矢は当たらなかったが、それでも近寄る隙を失ってしまい、その間に騎士は体制を立て直してしまった。
「くくっ、惜しかったな。残念ながら貴様の体を張った作戦も無残に散ったようだ。」
「く、くそっ!」
起死回生を狙った俺の行動も結果はあまり良くない。
俺の元に残っているのは、後はプルムと案内役のハチの魔獣だけ。
俺はもうボロボロで、今の状況でプルムを活かすのは難しい。
ハチは戦闘力は低く、戦いには向かないだろう。
グラス達が出たことで現状の戦力は強化されたが、でもグラス達の力じゃあの騎士には及ばず、恐らくクウのサポートがあっても犠牲が出る可能性が高い。
「どうやら貴様の切り札も意味は無かったようだな。この戦い私が勝たせてもらう!」
「ぐっ、させ、るかよ……!」
騎士は剣を構えながら、クウ達にジリジリと詰め寄ってくる。
俺はどうにかして立ち上がろうとしたが、疲労がかなり溜まっているのか、足に力が入らない。
(くそっ!もう打つ手はないのかよ!)
痛みで立ち上がることが出来ず、俺は地面を思い切り叩き砕けそうなほど歯噛みした。
いつも思っていたが、俺の体には魔力が無く、この世界では俺は無力だ。
少しでも強くなろうと思い、実は影でこっそり筋トレなんかもしてたが、そんなものは何の役にも立たない。
「ふぐっ、ち、ちくしょう……!」
俺には絶望的な状況をひっくり返す力なんて欠片も持っていない。
そのことが悔しくて、目の端に微かに雫が溜まる。
「まったく、これだから人間は。情けない声を上げてるんじゃないわよ」
「ご主人様、もう少しだから頑張って」
地面に突っ伏してるそんな俺の後ろから、今の状況とは真反対の明るい声が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこには2人の少女がいた。
ドロシーと森の魔人だ。
彼女達は俺の脇を掴むと、抱き上げて立ち上がらせてくれた。
「ほら、しっかりしなさいよ。まだ負けたわけじゃないでしょ!」
「ご主人様、後は任せて」
「ドロシー、森の魔人も……」
2人の顔を見ると、ドロシーはいつも通り無感情だがどこか嬉しそうであり、森の魔人は憑き物が取れたような晴れやかな表情をしていた。
「かっこ悪いとこ見せちまったな」
「大丈夫、ご主人様はいつも通り」
「どういう意味だよ!」
「どうもこうも、そのままの意味」
「俺はいつもめそめそなんかしてねぇよ!」
相変わらずドロシーは空気を読まず嫌味なことを言ってくるから、俺もそれに突っかかってしまう。
だが、そのおかげで俺も平常心を取り戻せた。
ドロシーも意外と気を使ってくれたのかもしれないし、終わったら飯でも奢ろう。
「ちょっと、ふざけてないで行くわよ!まだ戦いは終わってないんだから!」
「「はい、すみません」」
ドロシーもふざけ合っていると、森の魔人が若干キレ気味に間に割って入ってきた。
森の魔人もなかなか口がキツイが、それでも実力は相当なものなので、そんな彼女が味方になってくれるのは心強い。
「さぁ行くわよ!」
「ああ、頼むぞ2人とも!」
「うん、任せて」
ドロシー達のおかげで少し元気が戻った俺は、地面を踏み絞り立つ。
こうしてドロシーと森の魔人も戦場に加わり、いよいよ戦いは最終局面へと向かう。




