2章 20. 今日のドロシーはひと味違う
街へ戻る頃にはもう夕暮れになっていた。
俺達は冒険者ギルドへ赴き、帰り際に採取した薬草を換金して宿に戻った。
「さて、これからどうするか……」
「ゴブリンのこと?」
「それもあるけど、問題は研究所の捜索の方だな」
イル達には探すと言ったが、宛もなく街を歩き回っても見つかるものでは無い。
何か少しでも手掛かりがあればいいのだが……
「クウに頼めば移動はすぐじゃん」
「あー、なるほどね。それなら確かに時間は短縮できるか」
「ふふーん、どう?」
確かにクウがいれば移動は速くなるから、捜索できる範囲も広がる。
ドロシーのドヤ顔は腹立つが、それでもいい案なのは確かだ。
「助かったからその顔はやめろ」
「はーい」
「それじゃついでに聞くけど、建物に怪しい地下室があるかどうか調べる方法もあるか?」
「うーん……」
せっかくいい案をくれたのだから、さらに何か案はないか引き出してみることにした。
まぁ普段は食事のことしか頭にないから、期待はしない方がいいかもしれない。
でも今日のドロシーはいつもと違う。
何となくそんな気がした。
「地中に泥を流せば、下に建物があるかどうかくらいなら分かる」
「おぉ、まじかよ!」
「まじ」
ダメ元で聞いてみたのに、想像以上の案が出てきた。
いつもは戦闘か食事しか脳が無いのに今日のドロシーは違うぞ!
「じゃあ明日から早速頼むよ」
「いいけど……、高いよ?」
ドロシーに捜索の強力を頼むと、彼女は不敵な笑みを浮かべて、交渉してきた。
やはり今日のドロシーはひと味違う。
「そうきたか……、なら明日は好きな店で好きなだけ食べさせてやる、ってのはどうだ?」
「ふっ」
俺の提案を受け、ドロシーは静かに笑って手を差し伸べてきた。
交渉成立だ。
「よろしくな」
「任せて」
なんて馬鹿なことをしながら、明日の行動の方針を決めた俺達は眠りについた。
――
翌日、宿で朝食を食べた後、俺達は街へと繰り出した。
今回のメンバーは俺、クウ、ドロシー。
クウは存在が目立つので大きめのローブを買ってその中に隠れてもらうことにした。
ローブは咄嗟に購入したものだが、コレは今後も役に立ちそうだ。
「よし、じゃあそろそろやるか!」
「クウ!」
「うん!」
準備を終えた俺達は、いよいよ研究所探しを開始した。
「ドロシー、まずはこの辺から頼む」
「うん、いくよ」
最初に調べるのは俺達も泊まった宿場区周辺。
ドロシーは地面に手を付き、泥を流すことで早速調べ始めた。
泥の届く範囲は半径100mほどで、泥の進行が止まった所が、地下室のある建物ということになる。
これならいちいち建物を1つ1つ確認することなく、広範囲を一気に調べられるという作戦だ。
「ん、この辺の建物に地下は無いよ」
「おっけー、じゃあ少し移動するか。クウ頼む」
「クアッ!」
宿場区には地下室のある建物は無かった。それが分かったので、クウのワープで次の場所へ移動する。
次にやって来たのは、冒険者ギルドもある大通り周辺だ。
ここは人通りが多いので、目立たないように裏路地に避難してから行う。
「じゃあドロシー、また頼むよ」
「うん」
再びドロシーは地面に手をつき、泥を流し始めた。
その間俺は、誰かが裏路地に入って来ないように一応見張りをしておく。
「あっ」
しばらくすると、ドロシーは何かを見つけたようで、小さく声を漏らした。
「見つけたか?」
「うん、3つある」
「よし、じゃあ順番に調べるぞ。案内してくれ!」
「うん」
調べ始めてまだ少ししか経っていないが、早くもあたりを見つけた。
すぐにドロシーの案内のもと、その建物へと向かうことにする。
「ここか?」
「そう、ここ」
そうしてドロシーに案内された建物は、見た感じだと普通の武器屋の様だった。
店の中を覗くと、肌黒の厳つい店主が見える。
普通に考えたら、こんな所の地下で実験なんか行われていなさそうだが、カモフラージュの可能性もあるので、調べない訳にはいかない。
とりあえず、店主に怪しまれる前に一旦店の裏手へとまわった。
「ここらでいいか。よし、出てこいプルム!」
周りに人がいないことを確認した後、俺はプルムを呼び出した。
その目的は、地下室を調べるため。
体の形や大きさを自由に変えられるというスライムの性質なら、建物の侵入も楽々こなせるという魂胆だ。
不法侵入になるから心が痛むが、こっちにももう時間はあまり残されていないので、背に腹は変えられない。
「!」
モンスターボックスから出てきたプルムは、小刻みに震えながら方に乗って頬擦りしてきた。
「よしよしプルム。それじゃこの中に入って地下室を調べて来てくれ」
「!」
プルムは体をビー玉くらいまで縮小させて、裏口の隙間から忍び込んだ。
後は地下で怪しい研究をしていないかどうか調べてもらうのを待つだけ。
しばらくはすることが無い。
「プルム上手くやれるの?」
「大丈夫さ、プルムは慎重な性格だし頭も良いからな」
「ふーん」
以前クウが攫われた時も、事前に発信機の様なスライムの欠片を付けておいて、後々追跡の時に役に立ったこともある。
戦闘面では、相手の体重移動を細かく観察し相手を転ばせるのも上手い。
薬草採取では、雑草を摘むことなんて全く無いし、頭の良さならドロシーを上回るんじゃないだろうか。
「!」
「あ、帰ってきたよ」
「おお、お疲れプルム!」
ドロシーと話をしていると、プルムは調べを終えて帰ってきた。
「どうだ?何か怪しい研究とかしてたか?」
「!」
俺の質問に対し、プルムは体を左右に振る。
どうやらここは研究所ではなかったようだ。
「そうか、ありがとうな」
「じゃあ次行く?」
「ああ、そうしよう」
プルムにお礼を言うと、武器屋をあとにして残り2つの建物へと向かった。
しかし、残りの建物は魔道具店と飲食店だったが、どちらも研究所とは関係が無かった。
「全部ハズレだったね」
「まぁそう簡単に研究所が見つかるはずもないさ。気を取り直してどんどん行こう!」
「分かった」
「クウ!」
1回目から上手くいくだなんて当然思ってはいない。
だから気を落とすことなく、すぐに次へと頭を切り替える。
プルムには1度モンスターボックスに戻ってもらい、再度地下室のある建物の捜索へと向かった。
その後俺達は、ワープと泥とスライムの体を駆使して街中の家屋を調べた。
その結果地下室のあった建物は、全部で21件であった。
しかし、残念ながらその中には今回の目的である、地下の研究施設は見つからなかった。
「ご主人様、無かったね」
「絶対街のどこかにあると思ったんだけどなー」
元々最初から、街を探すのが見当違いだったのか。はたまた単純に何かを俺達が見落としたのか。
どちらかは分からないが、それでもこれ以上建物を調べるのには、流石にリスクが大きすぎる。
という訳で1度捜索を中断して、作戦を立て直すこととなった。
「じゃあご飯にしよ」
「そうだな、何処でも好きな店にしていいぞ」
「やった」
あまり金の無駄遣いはしたくないが、約束は約束なので仕方ない。
実際ドロシーのお陰で捜査は大いに捗ったのも事実だし。
「この店にする」
「はいよ」
街を歩き、ドロシーは1つの店の前で止まった。
その店は肉料理が多めの居酒屋だった。
今の時間は昼を少しすぎた辺りなので、開いているのか疑問だったが、問題はなさそうだった。
ドロシーの店の扉を開けてどんどん奥へと進んでいく。
「で、何を食べるんだ?」
「にくー」
「いや、肉って言われても色々あるだろ……」
ドロシーはとにかく肉が食べたかったみたいで、この店を選んだようだ。
「じゃあご主人様が選んで」
「はぁ、分かったよ」
ドロシーに注文を託されたので、取り敢えずメニューを適当に開いて手当たり次第に大量に頼むことにした。
ドロシーは味とかよりも、量がある方がいいだろうからな。
「わぁー、いただきまーす!」
料理が届くと、ドロシーは眩しいほどの笑顔で食べ始めた。
その光景を見て微笑ましく思いながらも、俺は研究所が見つからなかったことに頭を悩ませていた。




