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2章 11.魔蟲王・イル

 昆虫型の魔獣に囲まれた。

 理由は分からない。

 特に襲ってくる様子もなく、ただじっと俺達を眺めているだけだ。

 襲うでもなく、俺に懐いてくるでもない。こんなことは初めてで、俺はどうしたらいいのか分からなかった。


「ご主人様、全部倒す?」


「いや、向かってこないならまだ様子を見た方がいい」


「……分かった」


 一応了承はしてくれたが、まだ納得はいっていないといった様子だ。

 ただ俺としては、襲ってこない魔獣などを無闇に倒すのはあまり好きじゃない。

 それは元の世界で、平和にぬくぬくと育っていた影響もあるだろうが、すぐに変わるものでもないので仕方ない。


 そんな感じで、どう対応しようか決めかねていると、魔獣達の一部が動き出した。

 そのことに俺達は一瞬身構えたが、襲ってくるという訳ではなかった。

 俺達の目の前の魔獣が数匹両サイドに避け、ここを通れと言わんばかりに道を作ったのだ。


「これ、通れってことだよな……?」


「うん、そう見える」


 ポツリとつぶやいた俺の一言に、ドロシーは応えてくれた。

 虫の魔獣達もガサガサと蠢いて、ここを進めという感じで促してくる。

 目的は分からないが、最悪クウのワープで離脱も出来る。


「ここは従ってみるか」


「分かった」


「クウ!」


「ガウガウ!」


「!」


 俺の決断に他の面々も同意した様なので、俺達は慎重に虫の魔獣達の示す道を進むことにした。

 虫の魔獣達の間を抜けると、数匹のテントウムシの様な見た目の魔獣が目の前を飛んでいる。

 チラチラとこちらの様子を伺っていることから、ついてこいと言いたいのだろう。

 俺は黙ってそのテントウムシに従った。


 そうしてテントウムシ達の後について行くと、やがて木々が刈り取られ開けた場所に出た。

 所々に切られた木の幹があるのだが、切り口が雑で刃物で切ったようなものではなく、力業感のある無理矢理な痕跡だ。

 そして、その開けた場所に妙な魔獣がいた。

 案内をしていたテントウムシ達も、その魔獣の前で跪くような姿勢を取っている。

 虫だから真相は分からないが。


 それでその肝心の魔獣だが、そいつはなぜか人間のような体躯で2本足で立っている。

 と言っても人間と特徴が似ているだけで人間では無い。ドロシーの様な魔人とも違う。

 それは、背中に透けた羽根を生やし、人間のめとは別に、ハエのような大きな目が頭についている。

 手足は4本だが、足は鉤爪の様になっており完全に虫の足だった。

 手も指はあるが黒く刺々しい感じで、お尻からは蜂のような針もある。

 全身は灰色で所々黒光りしており、しかしその胸には人間の女性のような膨らみもある。性別は恐らくメスなのだろう。

 言ってしまえば、虫の擬人化だ。それも結構グロイ感じの。


「ど、どうもはじめまして。俺は灯って言います」


「……」


 人の形をしているので言葉も通じるのかと思い、とりあえず挨拶をしてみたが無反応だった。

 虫の彼女は、ただじっと俺達を、いや俺を見ていた。

 言葉も行動も無いまま時間だけが過ぎていく。

 気づけば俺たちのいる開けた場所より外からも無数の視線を感じた。

 ゆっくり周囲をみ渡すと、色とりどりの虫の魔獣が俺達を遠目に囲んでいた。

 この意味のわからない状況に、俺はかなり恐怖を感じ始めた。これほど目的の分からない生物と出会ったのは生まれて初めてだ。


 そうした沈黙が続く中、とうとう虫の彼女が口を開いた。


「なるほど、確かにそなたらの言う通り、惹かれる人間よの」


 虫の彼女は突然そんなことを呟き、その瞬間周囲の虫達がガサガサと騒ぎ出した。


「静まれ」


 しかし虫の彼女の一言により、辺りは一瞬にして静寂に包まれた。

 そんな中で彼女は、ゆっくりと俺達に近づいてきた。


「そう怯えるでない。そなたらに危害を加えるつもりは無い」


 自分でも知らぬ間に身構えてしまっていたようだが、虫の彼女は気にした様子も無くそんなことを言ってきた。

 彼女の態度に敵意が無いと感じたのか、ドロシー達は警戒を少し緩めだした。

 ただ、恐らく彼女の狙いは俺なので、俺は全く気を抜けずにいるが。


「そこの人間、そなた何者だ?」


 虫の彼女は、俺達と5mほどの距離まで近づくと、そう尋ねてきた。


「えと、ただの冒険者ですけど……」


「ふむ、そうか……。しかし何故我はそなたにこうも心惹かれるのだろうか。どうにも不思議な気持ちだ」


 俺に惹かれるということは、彼女が魔獣では無いある可能際は高い。

 しかし、マリス達から魔獣についての知識はある程度聞いていたが、喋る魔獣など聞いたことも無い。


「あなたは、どういった方なんですか?」


 俺は彼女の存在に疑問を持ち、なるべく刺激しないように尋ねた。


「我か?我はな、この森において虫達を統べる森の支配者一角『魔蟲王・イル』である!」


 イルと言うこの魔獣のことはよく分からないが、王様だと言うのでとりあえず謙っておくことにした。

 態度か気に入らないと言って襲われても困るからな。


「魔蟲王……、ということは王様でしたか。これは、知らなかったとはいえ失礼な態度をとってしまい申し訳ございません」


「いやなに、気にすることは無い。王とは名乗ってはいるが、この森の完全なる支配者という訳でもないからな。そう畏まる必要も無いぞ」


「わ、分かりました、イル……さん」


「さんもいらぬ。そなたのことはなぜか知らぬが気に入ってしまったのでな。気安く話すが良い」


「そ、そうですか……。あ、ありがとう?」


「うむ、それで良い」


 俺は動物に好かれやすい体質であるが、虫はそれほど好かれてはいない。

 それ程と言っても、それは動物と比べての話であり、一般の人と比べたら好かれはする。

 ただそれは些細なもので、夏に歩いていたらいつの間にか数匹の虫が服に付いていたとか、そんな感じの優しいものだった。

 だから俺はこの世界でも、虫とはいえ魔獣にはもしかしたら自分を襲う可能性もあるから、警戒していた。


 しかし、この森イルという魔獣を筆頭に、ここの虫達は他の魔獣と同様に、俺のことを慕ってくれるみたいだ。

 恐らく魔獣ということが起因なのだろうが、正確なことは分からないままだ。


「ふむ、見れば見るほど愛おしくなってくるな。ほれ、もう少しちこう寄らぬか」


「え?」


 イルは顔を若干赤く染めながら、口から糸を吐き出して俺を絡め取って引き寄せてきた。

 突然の出来事に対応出来ないでいると、もう既に俺は彼女の腕の中だった。

 一瞬で俺は捕まり、イルに抱き締められた。

 彼女の体は人間の様な柔らかさがあったが、しかしそれと同時に虫特有の硬いトゲトゲとした腕などの皮膚が刺さって痛い。

 あとなんか、さっきの糸のせいか体がねばねばしていて気持ち悪い。

 すぐにでも離して欲しい。


「クアッ!」


「ガウゥ!」


「!」


 痛さと気持ち悪さに耐えかねて引き剥がそうとした時、突然クウ達が奇声のような声を上げながら飛び出してきた。


「むっ、何だ貴様らは!?離れぬか!」


「クウッ!」


 まずマイラが、俺を掴むイルの腕に噛み付くことで解こうとし、プルムが間に体を滑り込ませて自慢の滑らかさで脱出を図った。

 イルはそんな2匹を苛立たしげに殴ろうとしたが、クウのワープによってそれは自分の頭に返ってきた。


 クウ達の態度にイルも戸惑い対応が遅れたのか、結局俺は3匹の連携により解放された。


「くっ、なかなか忠誠心の厚い従魔達よのう……」


「クウ!」


 イルは悔しそうな顔で称賛を送り、クウ達もそれを誇らしげに胸を張って受け取った。


(何だこれ?どういう状況だ?)


 俺が混乱しているのも他所に、ドロシーは周囲の虫たちを美味しそうだなといった顔で、見つめていた。


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