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1章 4.俺の拳をお前に届けた

 2回目もワープで攻撃を回避された白ラインの男は、怒りで顔を赤くしていた。


「クソガキ共がちょこまかと逃げ回りやがって!無駄な足掻きは止めてとっとと殺されればいいものを!」

 

 顔から湯気が出そうなほど苛立っており、目は充血し血走っている。


「次で終わらせてやる!サーチ!」


 白ラインの男の魔法により、一瞬で俺達は見つかってしまった。だがもう逃げも隠れもしない。来るなら迎え撃つだけだ。


「見つけたぞ!ゴーレム、今度こそ息の根を止めろ!」


「ゴォォォーーー!」


 男の命令でゴーレムは俺達に向かって一直線に走り出してきた。

 ゴーレムの走る場所は、次々と木がなぎ倒されるので分かりやすい。


「いいかクウ、ギリギリまで引きつけるぞ。」

「クアッ!」

 

 できるだけ声を潜めて、俺はクウに指示を出した。

 ゴーレムの大地を砕く足音は次第に大きくなっていき、目の前の木々が薙ぎ倒されて遂にゴーレムが姿を現した。

 頭部からはは赤い輝きが迸り、さっきまで以上の異様なまでの殺意が伝わってくる。


「まだだ。もっと引きつけるんだ」

 

 俺は冷静にゴーレムを前にしてクウが焦ってワープを使わないよう、体を撫でて落ち着かせた。


 今すぐ走り出したい気持ちはある。

 だが、クウの能力を最大限活かすなら逃げる訳にはいかない。気持ちをぐっと抑え、ゴーレムの動きに俺は集中した。

 

 そして遂にゴーレムは右腕を後ろへ引き、俺達目掛け渾身のストレートを飛ばしてきた。

 だが俺はその瞬間を待っていたのだ。ギリギリまで堪えた俺は、すぐさまクウに合図を出した。


「ここだ!ワープを使え!」

「クアァ!」

 

 クウがワープを発動させた瞬間、ゴーレムの右ストレートは見事にワープホールの中に消えた。


 当然俺達にストレートが届くことは無い。そしてその右ストレートの行先は、ゴーレム自身だった。

 ワープの出口はゴーレム自身の頭部。奴は自分の頭めがけて渾身のストレートを放ったのだ。

 

 自らの攻撃をモロに受けたゴーレムは、頭部を粉々に粉砕させて激しい衝撃音と共に後ろに倒れ、頭部と右腕は粉砕し破片が飛び散った。


「ゴオォォォ……」

 

 頭を失ったゴーレムはか細い唸り声を上げ、最後には残骸の山だけが残った。


「ふぅ、上手くいったな」

「クウッ!」

 

 俺はクウの頭を強めに撫で、良くやったと褒め倒した。上手くいったのは、クウが攻撃の瞬間まで堪えていてくれたおかげだ。

 ピンポイントでワープホールを出せたのも大きい。


「よし、残るはあの白ラインの男だけだな。また変なのを出される前に、一気に畳みか掛けるぞ!」


「クアッ!」

 

 俺はクウに次の作戦を指示し、位置を特定されないようすぐさま別の場所へとワープした。


「馬鹿な、ただのガキと手負いのドラゴンごときに俺のゴーレムがやられるなんて……」

 

 白ラインの男は有り得ないと小さく呟き、額に汗を滲ませていた。

 その表情には先程まであった苛立ちは薄れ、焦りと共に少し青ざめてきていた。


「とにかく落ち着け、相手は伝説のドラゴンなんだ。ゴーレムがやられてもおかしくはないじゃないか。それならゴーレムよりも強い魔法を使うまで――がはっ!」


「よしっ!」


 奇襲成功。ゴーレムがやられて油断してる今のうちに、クウのワープで男の真後ろに出ても気づかれることなく攻撃出来ると考えたが、どうやら見事に的中したみたいだ。


「な、なぜ貴様がここに……、まさか、ワープして来たというのか!?」

 

 完全に不意を付いてのボディブローは、防ぐ術なく男の横腹をブチ抜いた。

 男は痛みで混乱して、思考が鈍っているようだ。


「クウは俺が守る。お前なんかにやるわけにはいかない!」

 

 拳を構え、もがいている内にとどめを刺そうとしたが、殴った勢いのせいか白ラインの男との間には思ったより距離が出来てしまい、すぐに攻撃の届く距離ではなかった。

 男はふらつきつつも後ろに向かって走りだし、俺との距離をさらに広がった。


「クウ!頼む!」

 

 だが、そんな距離はまるで意味が無い。

 クウに呼びかけると目の前に黒い穴が現れたので、俺はその穴に向けて拳を突き出す。


 するとその瞬間、白ラインの男の顔面に鈍い音と共に強い衝撃が走り、地面に転がった。


「ば、馬鹿な……、これだけ離れたはずなのになぜ攻撃が当たる……?」

 

 地面に転がり、血反吐を吐きながら虚ろな目で男は問いかけてきた。もう意識はほとんど無いようだ。


「クウのワープで俺の拳をお前に届けたんだ。クウの力ならどんなに離れた場所からでも近接攻撃を叩き込める。クウの能力は移動する為だけにあるんじゃ無いんだよ」


「ちっ、ガキだと思って舐めてかかっていたが、とんだ反撃をくらっちまったか、クソ……」

 

 白ラインの男はフラフラとした体で立ち上がり魔法を発動しようと動いた。


「させるか!」

 

 だが、白ラインの男が何かする前にとどめを刺そうと、俺は走りだした。


 しかし、白ラインの男の後ろの山から、突如何十人ものローブを着た集団が現れた。

 それを見て俺は足を止めざるを得なかった。これだけの人数の中に突っ込むなど自殺行為でしかない。


 その集団の先頭の3人はローブに赤、黄、青のラインが入っている。おそらくそいつらは幹部クラスの連中だろう。


「あの馬鹿、先走ったくせにやられてやがるぜ」


 黄ラインの男は、白ラインの男のやられっぷりを見て嘲笑っている。


「まったく、勝手に行動するからこうなるのだ。手柄しか考えていない愚か者が」


 青ラインの男は呆れた様に溜息をつくと、白ラインの男を鋭い眼光で睨みつけた。


「だ、黙れ……、こんなガキすぐに俺が仕留めてやる!」


「黙るのは貴様の方だ。お前の処分は後回しだ、まずはドラゴンの捕獲を優先する」


「「了解!」」

 

 真ん中にいる赤いラインの入った男の掛け声と共に、幹部を中心に後ろの男達が一斉にクウを狙って動き出した。


「くそっ、お前達もクウが狙いかよ!」

 

 ローブの集団はいっせいにクウ目掛け走り出したので、俺はすぐさまクウの前に立ち塞がった。


「ん~?なんだこのガキは?邪魔くせぇ、消し飛ばしてやるよ!」

 

 しかし、俺がクウの前に立つと、黄ラインの男は右手の杖を俺に向けて先程の男と同じ爆発魔法を発動させた。


「ぐわぁっ!!」

 

 俺の前で魔法は炸裂し後方に大きく吹き飛ばされたが、幸いすぐにクウを抱き抱えていたのでバラバラにされずに済んだ。


「次から次に何なんだよ……!お前ら何でそこまでしてクウを狙うんだ!」


「貴様に答える義理はない」


 赤ラインの男はじりじりと間合いを詰めながら、杖を俺に向けた。恐らくまた魔法を発動させるのだろう。

 俺はクウを強く抱きしめ、放さないように身を縮めるがそれもいつまでもつかも分からない。


(何とかしてこの場から逃げないと!)


 しかし、俺が逃げる手段を考えていると、突如クウがうねり声を上げて、眩しいほどに白く輝き出した。


「クアァ」

   

 クウは俺の腕を跳ね除け上空へと羽ばたき、山のより遥か上まで上昇した。


「クアァァァァ!!!」

 

 山を一望出来るほどの高さまで上昇したクウは、その瞬間これまで聞いたことのないほどの叫び声を上げだした。


「ク、クウ!!」


 怒りで苦しんでいるような激情の声だが、しかし俺にはその声が恐怖で怯えてるように聞こえた。

 やがてクウの叫び声に呼応するように、頭上に超特大のワープホールが出現した。

 しかもまだまだ大きくなっている。


 ふと後ろを振り返ると、ローブを着た男達もクウに釘付けになって俺の事など忘れている様子だった。それに先頭のラインの入った幹部達は、歯ぎしりして冷や汗をかいている。

 俺自身もそのワープホールに恐怖している。この山全体など軽く飲み込んでしまいそうな程、巨大なそのワープホールに。


「クウ、お前はいったい……」

 

 クウの突然の行動に俺はただ、見ていることしか出来ない。


 やがてワープホールの拡大が収まると、ワープホールは下にある全ての人、物を区別なく吸い込み始めた。

 山に生えている木々や岩、ローブの男達も。そして当然その中には例外もなく俺も含まれてた。


「うわあぁぁーー!」


「くそっ、またこれかよ……!」


「ぐ……!だが、これで元の世界に戻れるか!?」


「ちっ、もう少しで捕まえられたというのに……」

 

 吸い込まれる直前、ローブの男達から何やら声が聞こえたが、上手く聞き取ることは出来なかった。

 

 俺はあっという間にクウのすぐ側まで吸い寄せられた。だが、そこでようやくクウが既に力を使い果たして気を失っていることに気付いた。


「クウーーー!」

 

 俺はクウの方へ精一杯手を伸ばし何とか抱き抱えるはことは出来た。

 だがそれでもワープホールの吸引は止まらず、俺はクウと共に巨大な暗黒の穴の中へと吸い込まれて行った。


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