2章 5. ゴブリンの群れ
冒険者ギルドの会員証を受け取った後は、受付のお姉さんにカンタンな説明を受けた。
「冒険者にはそれぞれ階級があります。階級によって受けられる依頼の難易度が変わってきますのでご注意下さい。階級は下から順に、白→緑→青→赤→紫→銅→銀→金となります」
「俺達は白ってことですか」
「はい、依頼はあちらにございますので、選んだらこちらまでお持ち下さい」
受け取ったお姉さんが指し示す先には、大きな掲示板があり無数の張り紙が貼ってあった。
「分かりました。ありがとうございます」
「早く狩り行こ」
「分かったから落ち着けよ」
俺は逸るドロシーを宥めながら、掲示板の方へと向かった。
そこには魔獣の討伐依頼や薬草採取、道路の掃除や商人の護衛まで、様々な種類の依頼が無造作に並んでいた。
その中で、白階級の俺達が受けれる依頼は5つあった。
清掃系が3つ、薬草採取が1つ、そして常時募集しているタイプの魔獣討伐が1つだ。
「俺はこの街の採取にするか。ドロシーはどうする?」
「私はこれ、魔獣を狩るやつ」
「おっけー、じゃあ受付に戻るか」
「うん」
俺達は掲示板から依頼書を剥がして、カウンターまで戻った。
「これをお願いします」
「え、2枚ですか?青階級までは受けられる依頼は1つまでなのですが、バラバラでいかれるつもりですか?」
受付のお姉さんは、俺達がバラバラに依頼を受けることに驚いていた。
初心者が一緒に来たのだから、同じ依頼を受けると思ったのだろう。
「はい、俺は採取でこいつが討伐です」
「初めての討伐で1人は危険だと思いますけど……」
「はは、心配ありがとうございます。でも大丈夫ですから」
「そ、そうですか。なら、両方とも受注致しますが、達成出来なかった場合は違約金が発生しますので、ご了承ください」
「了解です」
若干不安そうな顔の受付のお姉さんに見送られながら、俺達は冒険者ギルドをあとにした。
その間、ガラの悪い冒険者に絡まれるなんていう、テンプレが起こることも無く、俺たちは街を出た。
「これからどうするの?」
「俺はプルムと一緒に薬草を探すよ。ドロシーはクウとマイラも連れて行ってもらえるか?」
「クウ達も?」
「ああ、クウ達は街では自由に出来ないから、森では好きにして欲しいんだ。悪いけど面倒見てやってよ」
「分かった」
「ありがとう」
俺はクウとマイラをモンスターボックスから出すと、ドロシーに預けた。
2匹とも狩りは得意だし、ドロシーを手助けしてくれるだろう。
まぁ底まで強力な魔獣とは戦わないだろうが。
「それじゃ、また夕方頃にここで合流ってことでよろしくな」
「うん」
「クウ達も楽しんでこい」
「クウー!」
「ガウガウ!」
奏して俺とプルムのチームと、ドロシー、クウ、マイラのチームの2手に別れて、それぞれの依頼達成のために俺達は森の中へと向かった。
――
ドロシー達と別れてから、俺とプルムは迷いの森の浅い所を進んでいる。
「さて、薬草探しとかやったことないけど、頑張ろうぜプルム」
「!」
俺は肩に乗るプルムを撫でながら、森を見渡した。
この迷いの森は奥へ進むほどに、迷路のような複雑な構造になっている。
さらに最深部では幻惑魔法が発生していて、そこを抜け出すには幻惑魔法に対する対策が必須である。
と、俺達は森の詳細に関して、受付のお姉さんからは事前に注意を受けていた。
「つまりは、無策で森の奥まで足を踏み込むと、一生森をさ迷うことになるって訳ね」
「!」
俺がさっき受けた説明をプルムにも話してやったが、その内容にプルムは少し怖がって震えていた。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。奥まで行かなきゃいいんだからな」
「!」
「ドロシーがこのことを忘れて無いかが、唯一の不安要素だがな……」
「……!」
俺の心配気な顔に、プルムも同情するように震えてくれた。
しかし、ドロシーに関しては本当に心配だ。
あいつはかなり忘れっぽい性格をしている。そのくせ無駄に実力はあるから、うっかり森の奥へどんどん進んでいく未来しか見えない。
「……やめよう。余計なことを考えてると本当にそうなりそうだからな」
「!」
「俺達は薬草探しだけに集中しよう」
「!」
いくら考えてもドロシーに任せるしかないのだから、俺達は俺達の依頼に集中するべきだ。
「図鑑によると、薬草は水辺に生えることが多いらしいんだ。ということでプルム、水のある方を教えてくれ」
「!」
プルムには近くの水辺が分かる能力がある。だから俺は、プルムに案内を頼んだ。
すると早速、プルムは体から触手の様なものを伸ばし、道を指し示してくれた。
俺はそれに従い森の中を進む。
「おっ、川に出たか。さすがプルム、良くやった!」
「!」
プルムに案内されながら歩いていると1本の川に出た。
すぐに見つかったことに驚き、俺はプルムを撫でて褒めた。
プルムも嬉しそうに俺に身を寄せてくる。
「じゃあこの川の周辺で薬草を探すか」
「!」
俺とプルムは川辺に沿って、足元に生える草の中から薬草を探し始めた。
その際、プルムには25匹に分裂してもらい、広範囲を同時に探索している。
そのお陰もあってか、薬草は思ったよりも早く発見出来た。
「おお、これが薬草か!おい皆、見つけたから採取を手伝ってくれ!」
「!」
薬草を見つけた場所は、どうやら群生地体だったようで、半径10m程にわたり大量に生えていた。
これだけあれば依頼された量には十分足りる。
俺は分裂したプルム達に強力してもらい、早速薬草採取を、始めた。
「よし、もうこれくらいで十分だよ。ありがとうなプルム!」
「!」
プルムに手伝ってもらったお陰で、あっという間に薬草採取は終わった。
もう森でやることも無くなったので、街へ帰ろうかと立ち上がった。
しかし、プルムを抱きあげようとしたところで、背後の森から何かが近づいてくる気配を察知した。
「っ!何か来てる……!」
「!」
俺がその存在に気づくと、一瞬でプルムが俺の前に立ち塞がった。
恐らくもしもの時は戦うつもりなのだろうが、戦闘ではサポートがメインのプルムには荷が重い。
俺はプルムを抱き抱えて、じりじりと川際まで下がった。
足音のする方を一瞬も気を抜かず見つめていると、それは遂に姿を現した。
「ギシャー!」
「ギャギャギャ!」
「ギャシャー!」
そいつらは、身長120cm程で全身が緑、頭には小さな角を生やし、汚い腰布を巻いて手には木を適当に切り取って作ったような棍棒を持っている。
いわゆる、ゴブリンの群れだった。
ゴブリンの数は7匹程。それぞれが俺とプルムを囲むようにサイドに展開し、少しづつ距離を詰めてくる。
「ギャシャー!」
「あんまり、穏やかな雰囲気じゃ無さそうだな……」
目の前のゴブリン達から漂う雰囲気は、子どもの頃オレを攫ったサル達や、先日襲ってきたマッシュベアと似ている。
つまりは、こちらのことは一切考えず、俺を連れ去ることだけを考えてる自分本位な奴らという訳だ。
「参ったな、グラス達を連れてくるんだったか」
グラス達は旅での疲れが残っていたので、宿で休ませている。
お陰で現在、まともに戦える仲間はこの場にはいない。
逃げようにも、ゴブリン達に周囲を囲まれ、迂闊に動くことも出来ない。
万事休すかと思った時――
「ギャギャー!」
「ギャシャ!?」
「ギャギャギャ!」
「なんだ!?」
突然森の中から矢が飛んできて、ゴブリンの中の1匹の頭を貫いた。
ゴブリンと俺は慌てて矢の飛んできた方向に目を向けるが、何も姿は見えない。
しかし、今度は別の方角から数本の矢が放たれた。
「ギャギャ!」
「ギャッ!」
「ギャシャー!」
ゴブリン達はどこから飛んでくるか分からない矢に翻弄されて、次々と倒されていった。
そして気づけば、ゴブリンは残り2匹まで減らされてしまい、その2匹も慌てて森の中へと帰っていった。
「一瞬でゴブリンがいなくなった……」
あっという間の出来事に、俺は全く手も足も出なかった。




