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1章 3.ドラゴンの次は魔法かよ!

 白ラインの男から受けた謎の攻撃のせいで体のあちこちが痛い。

正直こんな危ない状況からは今すぐ逃げ出したい気持ちで一杯だだったが、クウをこのままにするなんて無責任なことは出来ない。


何とかしてクウを助ければ。


「クウとは3日間生活してきて、もう俺にとって大切な存在なんだ。悪いがお前みたいな乱暴者にはやれないね」

 

 俺は男の警告を無視し、起き上がると地面を駆けクウの傍らまで滑り込んだ。


「クウ?ああ、そのドラゴンに名前をつけたのか。馬鹿なヤツだ、たかがドラゴンに名前をつけて飼い主気取りとは笑わせてくれる!」

 

 白ラインのローブの男は俺の言葉に腹を抱えて笑い出した。しかしそのおかげで先程の爆発もなかったのか、クウのもとまで辿り着けた。


「そうだ。たった3日だがこのドラゴン、「クウ」は俺が世話をしてきたんだ。クウはもう俺の家族だ。お前なんかには渡せない!」


「まあいい、貴様のような人間に構っている暇はない。だがそのドラゴンにまた逃げられても厄介だからな。邪魔をするなら死んでもらう」

 

 クウを抱えた俺は逃げ出そうとしたが、白ラインの男は右手見持った杖をこちらに向けて来た。


「クリエイト・ゴーレム!」

 

 白ラインの男が何かを言ったかと思うと、突然男の前の地面がボコボコと膨れ上がり始め、あっという間に高さ3mほどの土の山が出来上がった。

 その山から手が生え足が生え、次第に人の形になっていき、土山のてっぺんの突起した部分から赤い光が灯り、同時に重々しい咆哮が響き土の巨人が姿を現した。


「ドラゴンの次は魔法かよ!くそっ、クウ!掴まれ!」


「クアッ!」

 

 数日前にドラゴンに出会ったかと思うと、今度は魔法を目の当たりにした。もう何が起こっているのか訳が分からない。


 だが、逃げなくてはいけないことだけは分かるので、俺はクウを抱き寄せるとすぐさま肩に乗せると、そのまま全力で走り土の剥き出しになっていない森の中へと逃げこんだ。

 

 何よりもまず、この場から離れないとまずいだろう。3mものサイズの馬鹿でかい土の塊に追いかけられたら、一瞬で捕まって潰されるに違いない。その前に少しでも距離を取らないと。

 あれだけの巨体なら、木の多い山に入れば木が邪魔して自由に動けないだろう。


「くっくっく、山に入れば逃げ切れるとでも思ってるのか?なんとも甘い奴だ。やれ、ゴーレム」

「ゴオォォーーー!」

 

 男の命令により、遂にゴーレムが動き出した。しかもその動きは見た目からは想像出来ないほど機敏であった。

ゴーレムは人間さながらに走り出すと、あっという間に俺達との距離を詰めてきた。

 

 俺は何ふり構わず山を駆け出したが、突然後ろからドゴォン!と爆音が轟いてきた。

何が起こったのかと肩越しに後ろを振り向くと、なんともう既に、すぐ後ろではゴーレムが剛腕を振り、すぐ後ろの木を叩き折っていた。


「おいおい、嘘だろ……」

 

 たった一瞬でここまで距離を詰められてしまっては、逃げ切ることなんて到底出来ないと俺は悟ってしまった。

 すぐ後ろに迫ったゴーレムは右腕を振り上げ、俺達めがけハンマーのように振り下ろした。その腕は一寸の狂いもなく俺達に迫ってきた。


 死んだ。

 

 ……と、そう思ったが運良く右腕は俺達を外し、すぐ右にある木を砕いた。

 たまたまゴーレムが足場にしていた倒木が砕け、バランスが崩れた結果右腕の軌道もずれたのだ。


 間一髪で助かった。しかし、俺達のすぐ横に振り下ろされた右腕は木ごと地面を砕き、その衝撃で砕けた土と共に俺達は吹き飛ばされてしまった。

 地面を数回転がったところでやっと勢いが収まったが、全身を強く打ち付けたらしく、痛みで立ち上がれない。

特に岩の礫の当たった箇所は腫れて血も流れ、動かすと激痛が走る。


「くっ、痛っ!……はあ、はあ、クウ大丈夫か?」


「ク、クゥー……」

 

 俺は木に寄り掛かりながら、咄嗟に抱き抱えたクウに呼び掛けたが、クウもかなりのダメージを受けたようで、もう既に瀕死に近い状態だ。


「なんだ、幻のドラゴンも空間魔法を使わなければこんなものか。ガッカリだな」

 

 白ラインの男は呆れたような物言いで、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてこちらに少しずつ近づいてくる。


(幻のドラゴン……?)

 

 白ラインの男の言葉は気になったが、今は逃げ切ることが最優先。何か突破口を見出さなければ死ぬだけだ。


「貴様も馬鹿な人間だ。こんなちっぽけなドラゴンを庇ったばかりに、無駄に命を落とすんだからな!」

 

 男は大口を開けて、腹を抱え笑い出した。俺達の状態を見て、もう勝利を確信しているのだろう。

 何だか、体の中からふつふつと何かが湧き上がってくる。全身に鳥肌が立って震えが止まらない。

だがこれは怖いからではない。あの男に対する怒りが体を震えさせるんだ。

 

 痛みで意識が朦朧とし体に力が入らない。だがそれがどうした?それでもクウを馬鹿にされたままは許せない。俺は怒りに身を任せ立ち上がった。


「……ふざけるな、誰がお前みたいな悪党に殺されるか。クウは俺が絶対に守り抜いてやる!その上でお前もぶっ飛ばす!」


「はっ、そんなボロボロの体でか?立つのもやっとな奴が何を言ってるんだか!」

 

 白ラインの男は額に手を当てて笑っていた。

 だが、はっきり言って、やつの言う通り立っているのがやっとで、今にも倒れそうな程だ。こんな状態じゃ勝ち目なんかあるはずがない。

何かこの場をひっくり返せるほどの逆転の一手はないかと周囲を見渡すが、そんなものが都合よく転がっているはずも無い。

 

 そして遂に何も出来ないまま、とうとうゴーレムが動き出した。


「さて、そろそろ茶番は終わりにしようか。やれゴーレム、その人間を潰せ!」


「ゴオォォォーーー!」

 

 白ラインの男の命令と同時にゴーレムは突進してきた。そのままの勢いで体当たりをされると思った俺は身を固めるが、ゴーレムは俺達の手前でジャンプした。

 突進ではなくその巨体で押し潰すのが狙いだった。あまりにも大きすぎる巨体は、空から天井でも降ってきているのかと錯覚してしまうほどで、逃げ場なんてどこにも無かった。


「ここまでか……。せめてクウだけは!」

 

 圧倒的な力の前に成すすべもなく、諦めた俺はクウを庇うようにだき抱えた。


「クアッ!」

 

 しかし、クウの叫び声が聞こえたかと思った瞬間、辺りに静寂が訪れた。


「な、何が起こった!?」

 

 恐る恐る顔を上げるとそこは森の中だった。慌てて上を見上げてもゴーレムは降ってきていない。

何が起こったか分からずクウの方を見ると、なんとクウはボロボロになりながらも、目を輝かせて俺を見せていた。

 

 山の奥の方から微かにゴーレムの影響で地響きが聞こえることから、完全に逃げ切った訳では無さそうだった。だが、どうやらすぐ近くの別の場所に一瞬で移動したみたいだ。


「くそが!どこへ消えやがった!?」

 

 男の叫び声から察するにこちらの位置の特定は出来てないみたいだ。


「よく分からないけどこれはチャンスだな。今のうちに逃げよう」

 

 クウだけに聞こえるようにヒソヒソと話すと、腰を落として物音をたてないよう少しずつ移動した。


「すぐに見つけてやるぞクソガキ共が!サーチ!」

 

 しかし残念ながら、また魔法を使われてしまった。あれで簡単に俺達のことを見つけてしまうようだ。


「そこか、行けゴーレム!奴らを逃がすな!」


「くそっ、もう見つかったのか!」

 

 振り向くとそこにはゴーレムが、木を次々と薙ぎ倒して近づいて来ていた。


「クウ!こうなったらお前だけでも飛んで逃げろ!もう飛べるはずだ!」

 

 クウさえ生きていればあの男の目的も達成出来ないだろう。どちらか片方でも生き残れるならその方がマシだと考え俺は、クウを空へ飛ばそうとした。

しかしクウは俺の腕にしがみつき、さらに噛み付いてきた。


「クウ!」

「痛っ!何すんだクウ!?逃げろって言ってるだろ!」

 

 必死にクウを引き剥がそうとしたが全く離れる様子はなく、その眼は何かを訴えるように闘志で燃えていた。


「なんだよ……、俺にどうしろって言うんだ?」

 

 クウの眼力に押し負け、何か手でもあるのかとクウに問いかけたが、答えはない。

ただその鋭い眼で真っ直ぐに俺を見つめてくるだけだった。

 ゴーレムはもう既に、真後ろまで来ていた。


「しまった!もうこんなとこまで!」

 

 ゴーレムの存在に気付いた時にはもう遅く、既にゴーレムは両腕を振り上げ攻撃態勢に入っていた。


「ゴォォォーーー!」

 

 ゴーレムの両腕が頭上を覆い、視界が暗くなっていった。

 しかし次の瞬間、目の前が完全な闇に染まったが、どうもこれはゴーレムの両腕の影などではない。もっと深い完全な闇だった。


「クアァ!」

 

 そしてらクウの鳴き声が聞こえたと思った次の瞬間には、闇は消え視界にはまた森だけが広がっていた。

そして俺達の後方から地面に何かを叩きつけたような衝撃音が聞こえ、振り向いてみと土が数メートル上まで舞い上がっているのが見えた。

恐らくあそこはさっきまで俺達が居た場所で、この音はゴーレムが地面を殴った衝撃音だろう。

 

 どうやらまた他の場所へ瞬間移動したようだが、今のでこの現象が誰によるものなのか、どういう仕組みなのかがはっきりと分かった。

 どうやら瞬間移動はクウによるものだ。クウには瞬間移動の力があったようだ。

しかもこの瞬間移動は黒い円型の黒い穴を2箇所に出し、円から円へ移動している仕組みだった。

つまりは穴から穴へ一瞬で移動するワープホールという事だ。


「クウ、ワープが出来るなら遠くまで逃げることは可能か?」

 

 すぐに見つからないよう、出来るだけ小声でクウに尋ねた。


「クウゥ……」

 

 だがクウは力なく首を横に振った。どうやら逃げ切れる程遠くまでワープ出来ないらしい。

先程の移動距離から考えると、目の届く範囲にしか移動出来ないのだろう。


「いや大丈夫さ、これだけできれば問題ない。やっと希望が見えてきたな」

 

 俺は思考を巡らせ、今出来る手段を全て考え勝利への道を見出した。


「クウ、俺の言う通りにワープを使ってくれ。ここで奴らを倒すぞ。」


「クウッ!」

 

 クウからは力強い返事が返ってきた。その目には強い輝きがあり、まだまだ闘志は燃えていた。

どうやらクウがさっき噛み付いてきたのは、俺に諦めるなと訴えかけていたようだ。

俺自身、小さな希望が見えてきて、いつの間にか笑顔が戻っていた。


「よし、やるぞ!」


「クアッ!」

 

 気合いを入れ直した俺達は、一筋の勝利への希望の光に全てを賭けた。


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