1章 30. 負ける気がしない
洞窟の外に脱出すると、俺達のいた洞窟内当たりから、紅蓮の柱が天高く登っているのが見えた。
「お前達無事だったか!」
その光景に俺達が唖然としていると、洞窟の入口から騎士団の面々がボロボロになりながら出てきた。
「みんな大丈夫!?しっかりして!」
アマネとマリスが急いで駆けつけ負傷した騎士に肩を貸すことで、全員なんとか洞窟から少し離れた森まで移動することが出来た。
「洞窟が崩壊したのが奥の方で助かったな。俺達は手前を重点的に捜索していたおかげで、崩落に埋もれる前に全員脱出出来たよ。まぁ、不甲斐ない事に、怪我人ゼロって訳にはいかなかったがな」
騎士団は青ラインの男達を無事倒し、洞窟内に進んだところで崩れた反動にのみ込まれたようだ。
ライノさんは仲間の安否を心配し、自分の不甲斐なさを恥じているが、そのライノさん本人がが騎士達の中で一番ボロボロだった。
恐らく仲間を庇い自ら犠牲になったのだろう。
「だが安心しろよお前ら、囚われていた魔獣達は全て避難完了してるぜ!」
「さ、さすが隊長ですね」
「ライノさん行動早いな……!」
ライノさんはボロボロになりながらも、親指を立ててドヤ顔で報告してきた。
彼らの後ろを見ると至る所に魔獣の檻があることから、どれだけ大変だったかが伝わり、マリスも俺も呆気に取られた。
「それで、洞窟内はどうだったよ?そっちは上手くいったのか?」
「はい、それがですね――」
回復薬を軽く飲み干したライノさんに、洞窟内でのことをマリスが報告をした。
そうしていると紅蓮に燃える火柱が、中心から膨張しだし最後には爆散した。
そして爆散した火柱の中から現れたのは、ドス黒い体に血のように真っ赤な炎を纏った、2本のツノが生えた、人型の化け物だった。
悪魔とかがいたら、あんな姿なのだろうなと思わせるような容姿だ。
その化け物の後ろでは赤ラインの男が、背中から炎を噴射して飛んでいた。
「結局瓦礫で死んだやつはいないか。まあいい、数が減っては折角こいつを召喚した意味が無いからな」
「な、なんだよあの化け物は!?」
「もう終わりだ、俺達はここで死ぬんだ……」
突如現れた圧倒的強者を前に、先程危機を脱したばかりの騎士達は絶望の声を上げだした。
だが、ここで諦めたら今までの全てが台無しになってしまう。それどころか敵にまたクウを捕られてしまうし、泥の魔人も操られる事になるだろう。
そんなだけは、なんとしても阻止しなくちゃいけないんだ。
「クウ、まだやれるか?」
「クアッ!」
クウは一点の迷いも無く、俺の前に出て戦闘態勢に入った。
「ご主人様、私も戦う」
「え、お、おう……。なら一緒にやるぞ泥の魔人!」
「うん」
泥の魔人も両手から泥をボタボタと垂らし、泥弾を撃つ体制に入った。
クウに泥の魔人も加わり、モンスターボックスの中にはまだマイラとプルムもいる。この戦力ならあの化け物ともなんとか渡り合えるはずだ。
「そういや泥の魔人、あの化け物が何か知らないか?」
「あれはブラッドデーモン。確かあの男の最強の召喚魔法」
一緒にいた泥の魔人なら、あの化け物の正体を知ってるんじゃないかと思い何となく聞いてみたが、意外なほどすんなりと答えてくれた。
ただ魔法に疎い俺は、それを聞いてもいまいちピンと来なかった。
だが、その会話を間近で聞いていたマリスが目を見開いて驚き出した。
「え!あれ、ブラッドデーモンなの!?」
「うん」
俺の横で聞いていてマリスは、目を見開いて驚いていた。
そして更にマリスの驚いた声に反応し、遠くで騎士の治療を手伝っていたアマネまでもが、一気に青ざめだした。
「嘘でしょ、ブラッドデーモンって言ったら、クリエイト系の魔法の中でも最高クラスじゃない!か、勝てる訳ないわ……」
いつも元気なアマネがここまで怯えるとは、相当強い魔法なのだろう。
でもなぜだろう、今の俺達なら不思議と負ける気がしない。
「そうか……、とうとうラスボスが現れたってことか。なら心して掛からないとな。クウ、泥の魔人行くぞ!」
「グァッ!」
「分かったわ」
「え、ちょっ!」
怯えてる騎士団を背に、俺達は先陣を切って駆け出した。
横にいたマリスが何かを言った気がしたが、今は構ってる暇はない。
まず、泥の魔人が先制で泥弾を連射した。操られていた時とは違い、自分の意思で放った泥弾は寸分違わずブラッドデーモン目掛けて発射された。
「小賢しい。防げブラッドデーモンデーモン」
「カシコマリマシタ」
ブラッドデーモンは片手を前に突き出し炎の渦で盾を作りだした。泥弾は全て炎の渦に飲み込まれ蒸発させられた。
だが、真横からも飛んでくる泥弾には気付かなかったようで、ブラッドデーモンは泥弾の強襲を受けた。
「な、なぜだっ!?」
「クウカンマホウデス」
そう、クウにワープホールを繋いでもらい、泥の魔人の放った泥弾をいくつか、真横から出るように仕向けたのが上手くいったようだ。
「よし!そのまま全方位から攻めろ!」
「分かった」
「クウ!」
不意打ちに怯んでいる隙に一気に畳み掛ける。遠距離攻撃なら圧倒的にこっちに分があるのだから。
「くそっ、小賢しい真似を!一旦上昇するぞ」
「カシコマリマシタ」
そしてとうとう泥弾に耐えかねた赤ラインの男は、被弾を避ける為、上昇してやり過ごそうとした。
だが、それこそが俺たちの狙いだった。
「クウ、マイラ真上から燃やしてやれ!」
「クウ!」
「ガウッ!」
上昇する赤ラインの男達の頭上にワープホールを出現させ、真上からマイラの炎をお見舞いした。ここまでのコンビネーションは完璧だ。
がしかし、炎の使い手に対して炎は効果が薄かったようで、最後の炎はほとんど無傷だった。
「馬鹿が、俺達に炎は効かんぞ。このままこの穴を利用しろ!」
「カシコマリマシタ、フレイムクロウ」
赤ラインの男の命令で、遂にブラッドデーモンが動き出した。両手の爪に灼熱の炎を纏い、巨大化した腕で攻撃してきた。
ブラッドデーモンの炎の爪はマイラの炎を切り裂き、そのままクウのワープホールを逆に利用され、迫って来た。
「しまった!避けろマイラ!」
「ガウゥ」
炎を噴き出すため1番ワープホールの近くにいたマイラが、炎の爪に真っ先に狙われた。
咄嗟のことで体が硬直してしまったのか、マイラはすぐには動けない。
しかし、炎の爪がマイラの体を切り裂く直前で、流星のような速さで駆けつけたマリスが、盾を展開しこれを防いだ。
「クウ、穴を閉じろ!」
「ク、クアッ!」
クウは慌ててワープホールを閉じ、その直前にブラッドデーモンの炎の爪は消えた。
「マリス、助かった」
「うん、僕も戦うよ。一般人である灯君が真っ先に戦ってるのに、騎士である僕がただ見てるなんて真似出来ないからね。それにあいつの相手はまだ僕だからね!」
「そうだったな、なら俺達が隙を作るからトドメは任せたぞ」
再びマリスと共闘となり、こんなピンチな状況なのに俺は口角が上がっていた。
マリスのお陰で炎の爪を凌いだ俺達は、早速次の攻撃を仕掛けようとしたが、残念ながら敵の方が一手早かった。
「ブラッドデーモン、奴らを1人残らず皆殺しにしろ」
「カシコマリマシタ。フレイムアロー」
ブラッドデーモンは頭上に炎の球体を作り出し、そこから無数の炎の矢を降り注いできた。
「クウ!全てはね返せ!」
「クアッ!」
クウは無数に降り注ぐ炎の矢を全てワープホールで受け止め、的確に跳ね返した。
だがクウはこの連戦の中で、もう既にかなりの魔力を使っている。だからあまり時間はかけられない。
クウの魔力が尽きる前に手を打たなければ。




