1章 23. 遅くなっちまった
ゴーレムとの戦闘を終わらせた俺は、マイラを肩に乗せながらマリスの元へと駆けつけた。
「マリス!こっちは片付いたのか?ってうわ!凄い血の量だな」
マリスの戦闘がどうなったのか気になり駆けつけてみると、そこには血溜まりの上に倒れ伏している白ラインの男がいた。
こんなに大量の血を流した人を見たのは初めてで、あまりのグロさに少し気持ち悪くなった。
「やあ、灯君こそ上手く倒せたみたいだね」
マリスは平然としたまま、剣を鞘にしまい白ラインの男に近づいていった。
俺と歳はそんなに離れていないはずだが、騎士だからこういう経験も慣れているんだろうか。
「確かに血の量は凄いけど浅く刺したつもりだし、すぐに止血すれば死ぬ事は無いよ」
マリスはそう言いながら、腰にあるポーチから包帯や回復薬等、治療道具ですぐに応急措置をしだした。
「そうか、それなら良かった。それじゃあそいつの措置が終わったらすぐに行くか?」
「いや、申し訳ないんだけど、この戦闘でかなり魔力を使っちゃったから、少し休ませてもらってもいいかな?」
マリスは冷静そうにしているが、魔力をかなり使ったってことは、白ラインの男もやはり強かったらしい。
俺の世界で戦った時は、不意打ちなどもありたまたま有利に戦えたが、真っ向から挑むとかなりの実力者だったようだ。
マイラも炎を吹いて、毒を使ってかなり体力を消耗しているし、ここは休んでから行くのが得策か。
「分かった。なら俺は川から水を汲んで来るから、マリスはマイラと一緒に休んでてくれ」
「ありがとう、助かるよ」
「ガウゥ」
マイラも地面に座り込んでヘトヘトなようだ。やはり無理をさせ過ぎたかもしれない。ここはゆっくり休んでいてもらおう。
洞窟の入口から少し離れた森の中で、俺達は一時休息を取っている。マリスからは携帯用の保存食を少し分けてもらえた。
「洞窟に入るとまた戦闘になるだろから、今のうちにしっかり休んでおこうね」
「ああ、まだ幹部クラスの敵は3人もいる訳だしな」
白ラインの男は倒したが、それでもまだ赤、青、黄のライン持ちが残っているので油断はできない。
それに泥の魔人とかいう、厄介な存在も気になる。
「ガウガウ!」
マイラはマリスに貰った携帯食を食べて少し元気がでたようだ。
マイラには今後も戦闘で無理をさせる場面が出てくるかもしれないから、少しでも体力を回復出来たようで良かった。
「さあ、そろそろ洞窟に入るけど準備はいい?」
「いつでも行けるぜ。なあマイラ」
「ガウ!」
そう言って目線を下げると、マイラも俺達の周りを走り回っており、体力は十分に回復したようだ。
たっぷりと休憩を取った俺達は洞窟前に戻ってきて、いよいよ洞窟内に潜入しようと1歩踏み込んだ。
しかし俺達の意気込みに反し、洞窟の中から大勢の人の足音が聞こえてきた。
「ま、まずい!」
「下がって!」
俺達は慌てて森の中へ隠れようとしたが間に合わず、15人程のローブを着た魔法使いの部隊と鉢合わせしてしまった。
その中には青いラインの入った男の姿もある。
「やたら爆発音が聞こえると思って来てみれば……、どうやらあのバカはやられたらしいな」
青ラインの男は呆れたように肩を竦め、やれやれといった感じで魔法使いの部隊を展開させた。
「どうするよ?こいつら全員倒せると思うか?」
「無理だね、あの幹部の男だけでも厳しいのに、この数の魔法使いまで相手にしてたら確実に死ぬ」
「だよな」
ここにきて絶体絶命のピンチを迎えた俺達は、なんとか一発逆転のチャンスを探ろうとするが、全く見つからない。
もう一か八かマイラの炎で全てを焼き付くそうかと思ったその時、後ろから怒号と共に巨大な一撃が敵に直撃した。
「うおらぁ!!」
巻き上がる土煙の中から姿を見せたのは、ライノさんだった。
「悪いお前ら、遅くなっちまった」
「隊長!」
ライノさんは魔力で青色に光る巨大な斧を片手に、後ろにいる俺達を庇うように仁王立ちした。
「灯君、マリス、大丈夫!?」
後ろからの声に振り向くと、そこには更にアマネがプルムの分裂体を抱えながら駆けて来た。
「プルム!よくやった、騎士団をちゃんと先導出来たんだな!」
「!」
プルムはぷるぷると震え、アマネの手の中から飛び跳ねて俺の胸に飛び込んできた。
俺はプルムをよしよしと愛でていると、アマネが少し悲しそうな顔をしていた。
プルムが離れて寂しいようだ。ホントに魔獣が好きなんだな。
「アマネもありがとう、プルムを信じてここまで来てくれて」
「そのスライム、プルムって名前なのね!可愛いわ!何か物凄い必死な様子だったから、灯君達に何かあったんだと思って飛んできたのよ」
「さすがアマネ先輩ですね。おかげで助かりました。これで奴らと互角に戦える!」
「その言い方はなんか嫌だけどまぁそれは後でいいわ」
アマネはマリスを若干睨みつつも槍を構えた。
そしてアマネの後を続くように、遅れながらもライノ隊のメンバーも続々とやって来た。
この戦力ならクウまでたどり着くのも時間の問題だ。
俺はプルムをモンスターボックスに戻し、洞窟の方へ目をやった。
「騎士共が、ぞろぞろと湧いてきて面倒な。お前達、洞窟の入口を固めろ!奴らの狙いはこの中だ。ここさえ死守出来ればいい」
騎士団が集まると、魔法使い達は青ラインの男を中心に弧を描くように、洞窟前に陣取ってしまった。
「総員突撃!竜の蹄を殲滅するぞ!」
「「「はっ!」」」
しかし騎士団はそんなことに怯む様子はない。
ライノさんの合図をきっかけに、騎士達は続々と洞窟前の魔法使い目掛け突撃しだした。
こうしていよいよ、騎士団と竜の蹄の戦いの火蓋は切って落とされた。
「よし、俺達も参戦するぞマイラ!」
「ガウ!」
俺もマイラと共に騎士達に加勢しようとしたが、ライノさんの手が俺達の道を塞いだ。
「まて灯、お前達はマリスとアマネと共にあそこに行け」
そう言ってライノさんが指をさした方向は、小川だった。
「あそこって、川じゃないですか?あんなところで何を?」
俺はライノさんの指示の意図が分からず困惑した。
「この洞窟の入口は全員でかかれば、制圧するのにそれ程時間は掛からないだろう。だが、それでは奴らがその隙にクウを連れて別の穴から逃げる可能性がある」
「だからって川に行って何をしろと言うんですか?」
時間がかかるのなら尚更全員でここを攻めた方がいい筈だ。
なのに何故このタイミングで戦力を分散させる必要があるのか。
「あの川の上流にもここよりは小さいが、洞窟があるんだよ。そして恐らくだがその洞窟はここのと繋がっている」
ライノさんの説明を聞いて、ようやくライノさんが伝えようとしていることが分かった。
「なるほど、ここでライノさん達が敵と戦ってくれていれば、敵の目はずっとここに向いたままだから、今なら洞窟内の警備も手薄になるってことですね」
「へっ、とっととクウを救ってこい!」
「はい!」
ライノさんの意図を理解した俺は、マイラをモンスターボックスに戻すと、マリスとアマネと共にすぐさま小川に走り出した。
「でも、この川の先に洞窟なんてあったかな?」
川沿いに走り上流を目指していると、ふとマリスがそんなことを呟いた。
「隊長の指示だしあるんでしょ。2人とも見逃さないでよ!」
「ああ!」
「はい!」
不安そうなマリスに檄を飛ばしつつ、俺達は川の隅々まで目を凝らしながら進んだ。
そして走り続け、やがて3m程の小さめの滝まで辿り着いた。
「滝か……」
「どうする?この滝の上に登って先まで進む?」
「いえ、それほど洞窟の出口が離れるとは思えませんし、この近辺を探した方がいいと思います」
滝を前にして立ち止まると、アマネとマリスが方針を決めだしていた。
だが、俺はこの滝に何か違和感を覚え、その会話に混ざる余裕はなかった。
「どうしたの灯君?」
「え?あ、ああ、どうもこの滝引っ掛かるんだよな」
「そうなの?」
「もう少しで何か分かりそうなんだが……、あ!」
滝に睨みをきかせてじっと観察していると、ようやく違和感の正体に気がついた。
この滝の周りには草木が生えていなかったのだ。
まるでつい最近、無理矢理この地に滝を作りだしたかのように。
「もしかしてこの滝って、魔法で作られものたんじゃないか?」
「どういうこと?」
「だって滝の周りに草とか苔とかが生えてないのは不自然だろ?」
「そう言えば確かにそうね……」
俺はマリスとアマネに思ったことを話しながらも、その怪しい滝の裏に顔を覗かせてみた。
するとそこには、見事に奥へと続く洞窟が見つかった。
「ビンゴだ!これが洞窟だよ!」
俺はそう言いながら滝の中へと体を滑り込ませ、その先にある洞窟に足を踏み入れた。
「本当、凄いわね灯君!」
「よく分かったね」
アマネとマリスは、俺が滝を見つけたことに対して素直に驚いていた。
俺としては、こういう展開は漫画や小説でよくあったので、ダメ元で覗いて見ただけだった。
だから思い通りにいっていて、自分でもかなり驚いてる。
「た、たまたまだよ。それよりも先へ進もうぜ」
「そうね」
「うん、ここからは慎重に進むよ」
こうしてマリスを先頭に、俺達は洞窟内に入った。




