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9 僕のヒーロー

またセリス視点です

「おまえ気持ち悪いんだよ!」

「変な耳しやがって!!」


「や、やめてよ……」


 お母さんに頼まれたお使いの帰り、僕は運悪く意地悪な村の子供に見つかってしまった。


「さっさとでてけよ。化け物!」

「でーてーけ! でーてーけ!!」


 立ちすくんでいると石が飛んできて、僕は慌てて逃げるように走り出した。

 背後からはいつまでも囃し立てる声が聞こえてくる。

 それが怖くて、僕は無我夢中で逃げ出した。



 やがて、追い立てる声も小さくなって、聞こえなくなる。

 静かな村はずれの木陰の切り株に腰を落とすと、僕はほっと息を吐く。

 その途端、悲しさが押し寄せてくる。


「う、うぅ……うえぇ…………」


 なんで、なんでこんな目に合うんだろう。

 そっと耳元に触れ、人間とは違う長くとがった耳の形をなぞる。

 ……こんなもの、いらなかった。

 この耳は、嫌な言葉ばかり聞き取ってしまう。僕だって、他のみんなと同じが良かったのに……!

 どうしようもなく悲しくなって、涙が溢れてくる。

 そんな時だった。


「セリス? こんなとこで何やってんだ?」


 耳に馴染む声が聞こえた。

 顔を上げると、隣の家の幼馴染のレヴァンが僕を見おろしていた。

 その顔を見ると、安心してまた涙がぼろぼろと溢れてきてしまう。


「おい、また泣いてんのかよ」

「だってぇ……」

「今度は何言われたんだよ」

「ながい耳が、気持ち悪いって……」


 そんなこと言われたって、僕にはどうしようもないのに。


「ふーん、この耳がねぇ……」

「あ、ちょっ、くすぐった……あはは!!」


 レヴァンは何を思ったのか、僕の耳をこちょこちょとこしょぐってきた。

 何を隠そう僕はくすぐられるのには滅茶苦茶弱い。

 さっきまでの悲しかったこととかが全部吹っ飛んで、ただくすぐったさに身をよじる。

 笑いすぎてお腹が痛くなったころ、やっとレヴァンは僕を解放してくれた。


「別に、かっこいいじゃん。その耳」


 思いがけない言葉に顔を上げると、レヴァンは僕をからかうでもなく頭を撫でてくれた。


「……そう?」

「そうそう。なんかシャキーンってしててさ」


 その言葉に思わず笑ってしまう。

 そんなことを言われたのは、初めてだった。

 ……レヴァンは、僕を気持ち悪いとは思わないんだ。


 いつもそうだ。レヴァンは、僕の欲しい言葉をくれる。


「次そんなこと言われたら殴ってやれよ」

「……できないよ。僕、よわいもん」

「じゃあ俺に言え。俺が殴ってやるから」


 レヴァンはそう言うと自信満々に胸を張った。

 確かにレヴァンは強い。村の子供との喧嘩でも負けたところを見たことがない。

 ……いいな、僕もレヴァンみたいに強くなれたらいいのに。


「レヴァンはつよいんだね。うらやましいな」

「そりゃあ、俺はいつかSランク冒険者になるんだからな!」

「冒険者……? 冒険者ってなに?」

「それはな……」


 レヴァンは目を輝かせて「冒険者」の話をしてくれた。

 迷宮に潜り、強大な魔物を打ち倒し、見たこともない宝を持ち帰る人たち。

 親友は冒険者を目指すようになって、僕も同じように冒険者を目指し始めた。

 彼の話してくれた英雄譚に憧れたって言うのもあるけど、何よりも……レヴァンと、これからも一緒にいたかったから。


 僕の両親は、当然ながら僕が村の子供たちにいじめられていることを知っていた。

 両親はそんな僕に心を痛めて何度か他の集落へ移るか、と提案されたこともあったが、僕は決まってここにいたいと強く主張していた。

 だって、他の所になんて行ったらもうレヴァンとは一緒にいられない。

 いじめられるのは辛かったけど、それでも僕はレヴァンの――親友の傍にいたかった。


 一つ年上の幼馴染は、僕の憧れでヒーローだった。



 ◇◇◇



 随分と長い、夢を見た気がする。



 何故だか体がすごく重い。なんとか目を開けて、しばらくぼんやりして……そこで僕は、やっと気を失う前の状況を思い出した。

 僕が崖から落ちそうになって、助けようとしたレヴァンも一緒に落ちて、それで、僕たちは……


 レヴァン、レヴァンは!!?


 重い体に鞭打って起き上がろうとすると、がちゃりと部屋の扉が開く音が聞こえる。

 反射的にその方向へ視線を向けると、そこには見たことのない女の人が立っていた。


「ほぉ、目覚めたか」


 その女性はゆっくりと僕の方へ近づいてくると、少し屈んで視線を合わせてきた。


「お主、自分のことがわかるか?」

「は、はい……あの、レヴァン……僕と一緒にいた人を知りませんか……!?」


 震えながらそう問いかけると、女性はにこりと笑って僕の横の方を指差した。

 つられてそちらを向くと、僕の寝ているのの他にもう一つベッドがあることに気が付いた。

 そして、そこに探している姿があった。


「レヴァン!」


 何とか手足は動いてくれたので、這うようにしてレヴァンの傍に近づく。

 レヴァンは、死んだように眠っていた。体のあちこちに包帯が巻かれており、痛々しい傷跡が見え隠れしている。

 何度も何度も必死に呼びかけたけど、レヴァンが答えてくれることはなかった。


「レヴァン、なんで……」

「そやつはお主を庇ったのか、お主よりも怪我がひどい。手は尽くしたが、目覚めるかどうかはそやつ次第じゃな」


 聞こえてきた言葉に、すっと背筋が寒くなる。

 そんな僕を慰めるように、女性はそっと僕の背中を撫でてくれた。


 僕たちを助けてくれた女性は、フィロメラさんという魔女だった。

 植物の採集をしながら散歩していた彼女は、崖から落ちて倒れていた僕たちを見つけ、ここで手当てをしてくれたようだ。

 彼女の話では、レヴァンが僕を抱きかかえるように倒れていたらしい。彼に庇われた僕はそこまでひどい怪我は負っていないが、レヴァンの方はあちこちに叩きつけられたのか瀕死状態だった。


 僕は、フィロメラさんが出してくれたお茶に手を付けることもできず、呆然と彼女の話を聞くことしかできなかった。


「峠は越えた。あとは意識が戻るように祈るほかない」

「…………はい」


 レヴァンは一命をとりとめた。でも……目覚めない。

 泣いてもどうにもならないとわかっていても、涙が止まらない。


「……お主は、あやつの傍についててやるとよい。声を掛け続ければ、いずれあやつにも届くじゃろう」

「……はい、ありがとうございます」


 気の進まないまま食事をとり、レヴァンの所へ戻る。

 レヴァンは、相変わらず死んだように眠り続けていた。


「……レヴァン」


 何で寝てるの。早く起きてよ。


「……ごめんね」


 レヴァンはずっと頑張ってたのに、僕のせいでパーティーを抜けることになってしまった。

 そのせいで、こんな目に合うなんて。

 ……駄目だ。また涙が出てきてしまう。


「……う、うぅぅぅぅ」


 どうしよう。もう二度とレヴァンが目覚めなかったら……。


「起きて! 起きてよ!! お願いだから……!」


 眠り続けるレヴァンに届くように、僕は何度も何度もそう呼びかけた。

 置いていかないで。一緒にいて。

 レヴァンがいなくなったら、僕は……!


 目覚めない幼馴染に縋り付くようにして、僕は涙が枯れるまで泣いた。



 それから何日も、レヴァンは目覚めなかった。

 僕はフィロメラさんの家事や仕事を手伝いながら、空いた時間はずっと彼の傍にいた。


 そして一週間ほど経った頃。やっとレヴァンは目を覚ましてくれた。

 その意外と元気そうな様子を見て、枯れたと思ってた涙がまた溢れ出してくる。


 フィロメラさんは未知の秘薬を使ったのでどんな副作用があるのかわからない、と言ってたけど、傍目にはいつものレヴァンのように見えて、僕は安心した。

 目覚めたと言ってもレヴァンの怪我はひどいもので、しばらくの間は療養が必要だ。

 フィロメラさんは好きなだけここにいていいとも言ってくれたので、僕たちはありがたくその申し出を受けることにした。

 僕は彼女を手伝いつつ、レヴァンの世話を焼く日々を送っていた。

 いつもは僕が面倒を見られる側なので、こういうのはちょっと新鮮だ。

 フィロメラさんは僕に簡単な薬の作り方を教えてくれたり、料理を教えてくれたりした。

 思えば故郷を出てからずっと、冒険者として常にダンジョンやモンスターに挑みギリギリの生活を送っていたので、こんな穏やかな時間は久しぶりかもしれない。

 退屈だと零すレヴァンをなだめながら、僕はどこか満ち足りた気分を味わっていた。


 そんなある日、フィロメラさんにお使いを頼まれた。

 この彼女の庵は小さな町の傍にあると聞いてはいたけど、実際に町に行くのは初めてだ。


「レヴァンの奴もつれてったらどうじゃ? あやつも暇を持て余しているようじゃからのぉ」

「そうですね……」


 僕も、初めての場所に一人で行くのは少し不安だった。

 レヴァンにとってもいい気分転換になるだろう。

 誘ってみると彼は一も二もなく行くと答えたので、そうして僕たちは二人で町に出ることになった。

 まだ本調子じゃないのかふらふらと足取りがおぼつかないレヴァンを支えながら、庵の外へと足を踏み出す。

 こうしてまた一緒に二人で歩けるのって、幸せなことなのかな……。

 心地よい空気を吸いながら、僕はそんなことを考えていた。

 

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