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7 魔女の庵

 次に目覚めた時俺を覗き込んでいたのは、いつものセリス……ではなく、見たことのない妙齢の美女だった。


「うおぉぉ!?」

「ほぉ、思ったよりも元気そうじゃの」


 思わず飛び起きると、全身に物凄い痛みが走りまたベッドに逆戻りしてしまう。

 そんな俺を見て、美人は愉快そうな笑みを浮かべていた。


「お主、自分のことがわかるか?」

「……レヴァン。冒険者」

「ほほ、それだけしっかりしてれば十分じゃ」


 美人はベッドの脇にあった椅子に腰かけると、興味深そうに俺のことを眺めている。

 ……彼女は誰だ?

 というよりも、ここはどこだ?

 確か俺たちは、崖から落ちて…………


「セリス!?」


 そうだ、セリスはどうした!!?

 慌ててベッドから降りようとすると、ぱたぱたとせわしない足音が聞こえてくる。


「フィロメラさん!? 大丈夫で――」


 やってきたのは。まぎれもなくセリスだった。

 その姿を見て、自分でも驚くほど安堵した。

 セリスはちゃんと自分の足で立って歩いている。見たところ、大きな怪我もなさそうだ。


「セリ――」

「うわああぁぁぁぁん!!」


 呼びかけようとした瞬間、セリスがものすごい勢いで突進してくる。

 もちろん避けることもできず、俺は再びベッドに逆戻りだ。


「ちょ、重っ……いてててて!!」


 セリスがぎゅうぎゅうしがみついてくると、骨やら筋肉やら皮膚やらあらゆる場所が痛んだ。

 いやぁ、我ながら結構ひどい怪我を負ったみたいだ。

 セリス、お前もちょっとは労われよ!


「ほほ、若いのぉ」


 必死にセリスを引きはがそうとする俺としがみつくセリスを見て、謎の美人はころころと笑った。





「……つまり、俺たちは崖から落ちて死にかけてたところをこの人に助けてもらったと」

「うん。レヴァン、一週間も寝てたんだよ。もう、目覚めないかと……」


 そう言った途端、セリスの目にまた涙が溢れ出した。

 おいおい、お前涙腺緩すぎだろ!!


「フィロメラじゃ。お主、よく生きておったのぉ」

「ありがとうございます、フィロメラさん」


 俺たちを助けてくれた美人――フィロメラさんは、どこか不思議な雰囲気を纏う女性だった。

 不思議な紋様が織り込まれたゆったりしたローブを身に纏い、額や耳に彩られた雫型の宝石の装飾が動くたびにしゃなりと揺れる。見たところ魔術師って感じだな。

 年は二十代くらいに見えるが、その割に喋り方はどこか古風というか……変だ。

 まぁ、そして何よりめちゃくちゃ美人だ。


 どこか夢見心地でその姿を目で追っていると、セリスがずい、と俺の顔を覗き込んできた。


「どっかおかしいとこはない? 僕のことわかる?」

「おかしいって言われてもな……体中おかしいと思うぞ。あとお前のことは普通にわかる」

「ほとんど死にかけておったからの。この秘薬がなければ危ないところじゃったな」


 そう言って、フィロメラさんが俺に向かって古めかしい空の瓶を振ってみせる。

 もしかして……俺を助けるためにかなり貴重な薬を使わせてしまったのか?


「そ、それって大事な薬だったんじゃ……」

「よいよい。遠い昔にダンジョンで拾ってそのままになっておったからのぅ。効果の確認ついでに在庫処分ができて助かったぞい」

「え?」


 ダンジョンで得られるアイテムには、使ってみるまでその効能が分からないものも多い。

 効果の確認って……これもどんな薬かわかってなかったのかよ!

 そんな俺の心の叫びを見通したかのように、フィロメラさんはにやりと妖艶な笑みを浮かべた。


「どうせ放っておけば冥府に連れていかれてたんじゃ。良い拾い物をしたとでも思うがよい」


 この人、すごい美人だけど結構危ない人なのかもしれない……。

 それでも、結果として俺は彼女のおかげで助かった。

 しかも、一週間ここで世話してもらってたみたいだし、そもそも死にかけてた俺とセリスをここまで連れてきてくれたのも彼女みたいだし、親切といえば親切か……。


「……なぁセリス。お前は大丈夫なのか?」


 見たところ、セリスの怪我は俺よりもだいぶ軽そうだ。

 その疑問に答えてくれたのは、フィロメラさんだった。


「お主がかばったおかげでセリスは軽傷じゃ。まぁついでに秘薬は使わせてもらったが……」

「使う必要ありませんでしたよね!?」

「でも、そのおかげで早く良くなった気がするんだ」

「たぶんお前騙されてるぞ!」


 そう叫ぶと、セリスとフィロメラさんは顔を見合わせて笑った。

 ……まぁ、結果オーライか。

 俺とセリスは生きてる。助かったんだ。

 それだけで上々だ。



 ◇◇◇



 運よく一命をとりとめたが、俺が元通りに動けるようになるまではまだまだ時間がかかりそうだった。

 フィロメラさんは好きなだけここにいてもいいと言ってくれたので、申し訳ないけどその申し出を受けることにした。

 ここは、彼女が一人で暮らす魔術庵らしい。

 セリスなんかはただで置いてもらうのが悪いと思ったのか、あくせくとフィロメラさんの怪しげな実験を手伝っている。

 ……変な影響受けないといいんだけどな。


 落ち着いた頃地図を見せてもらったが、ここはグランウッド地方の端、小さな町から少し離れたところに位置しているようだ。

 いつのまにか、目的地のグランウッド地方に着いていたらしい。

 これからどうするかは……俺の体が治ってから考えればいいか。


 そして俺がなんとか歩けるようになった頃、セリスがうずうずとした様子で話を切り出してきた。


「この近くに小さな町があるみたいでね。フィロメラさんに買い出し頼まれたんだ。一緒に行かない?」


 正直に言うと、俺は暇を持て余していた。

 もちろん、行くに決まっている。


 そうしてフィロメラさんに長ーい買い出しリストを渡され、セリスに支えられるようにして、俺は久方ぶりに庵の外へ出た。



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