表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/56

チョコレートに愛を込めて(前編)

バレンタインっぽい小話になります。

「ねぇねぇレヴァンさん、私の活躍見てくれました?」

「さっきコボルトを一撃で倒したの、すっごくかっこよかったです!!」


 昼下がりの冒険者ギルド。

 はしゃぐ女の子たちと、その子たちの囲まれる……僕の、恋人。

 もっとびしっと言ってやればいいのに、デレデレしやがって……!


「セリスさん、そんな仏頂面していては美人が台無しですよ」

「誰のせいだよ誰の!!」


 思わずきつい言い方になってしまったけど、僕に話しかけてきた少女――エセリナは少しも怯むことはなかった。

 むしろ不機嫌な僕を見て、にやついてすらいる。

 まったく、エセリナは神に使える神官のはずなのに、こんな俗っぽい性格で大丈夫なんだろうか。


 ――魔神エリックを倒して、僕たちの間の混乱状態も、やっと落ち着いてきた。


 エリックを倒して、エリックのパーティーの子たちの洗脳もとけて、それは喜ばしいことだ。

 でも、来る日も来る日も彼女たちはレヴァンに纏わりついている。

 一応、レヴァンって僕の恋人なんだけどな……!


「なるほど、セリスさんはハーレム反対派でしたか」

「それって賛成とか反対とかあるの!?」

「彼女たちは不本意にとはいえ、エリックのハーレムに加えられていましたからね。その感覚が消えていないんでしょう」


 うぅ、そう言われると僕も強く出られないじゃないか……。

 でも……やっぱり、嫌なんだよね。

 レヴァンに他の女の子が近づいてるのを見ると、どうしても不安になる。


 元は男の僕より、やっぱりああいう女の子の方がいいんじゃないかな、って。


「お悩みのようですね!」

「なんでそんなに嬉しそうなの?」

「他人の恋模様っていうのは、端から見てる分にはおもしろいものなんですよ」

「うわぁ……」


 それを本人の前で言うかなぁ……。

 ちょっと呆れる僕を尻目に、エセリナはキラキラと目を輝かせてにじり寄ってくる。


「大丈夫です、セリスさん。ここでバシッと正妻力を見せつけてやりましょう!」

「せ、正妻って……! 僕たちまだそんなんじゃっ――」

「甘ぁい!! ぼさっとしてたら取られますよ!!」


 そう言って、エセリナはびしりとレヴァンを取り囲む女の子たちの方を指差す。

 どの子も、かわいくて魅力的だ。

 そうだ。エセリナの言う通り、もしかしたらレヴァンが取られてしまうんじゃ――


「大丈夫です。私に秘策があります」


 エセリナはえっへん、と胸を張って、自信ありげな顔をしていた。

 ……信じてもいいのかなぁ。


「……君って、誰の味方なの?」

「もちろん今はセリスさんですよ」


 今は、っていうのが気にならないでもないけど……何もしないよりかは、彼女の話を聞いた方がいいのかもしれない。


「それで、秘策っていうのは?」

「ふふふ、乗って来ましたね。ここで話すと盗み聞きされる可能性もあるので、場所を移動しましょう」


 なんか彼女の思い通りになるのは癪だけど……僕は、その甘い言葉に乗ってしまったんだ。



 ◇◇◇



 そしてやって来たのは……僕とレヴァンが暮らす、フィロメラさんの庵だった。

 普段はレヴァンと一緒に座るテーブルに、僕とエセリナは向かい合っている。


「ここでいいの? そのうちレヴァン帰ってくると思うけど」

「私もお二人の愛の巣に長居するつもりはありませんよ」

「愛の巣って……でも、夕飯くらい食べていけばいいのに」

「いいんですか? 私に優しくするとずっと居座りますよ?」

「それは勘弁してほしいかなぁ……」


 まったく、この少女の言うことはどこまで本気なのかわからない。

 でも、たぶん落ち込む僕を励まそうとしてこんなことを言っているんだろう。

 ……なんてことを考える僕の前で、エセリナはコホンと咳払いをした。

 どうやら、やっと本題に入るようだ。



「セリスさん……バレンタインというものをご存知ですか?」



 にやりと笑ってエセリナは、そんなことを言いだしたのだ。


「バレンタイン……? ごめん、聞いたことないや」

「なるほど、地域によっては風習自体が伝わっていないのですね。ここ最近は認知度も高まってきたと思っていたのですが」


 ふむふむ、と、エセリナは興味深そうに頷いている。

 へぇ、そんな有名なものなんだ。でも、聞いたことないんだよなぁ。


「で、そのバレンタインってなんなの?」

「成り立ちは……面倒なので省略しましょう。端的に言うと、恋人たちがチョコを贈って愛を確かめ合う日です」

「へぇ…………」


 いやそこは成り立ちも話せよ、と思わないでもないけど、それよりも内容の方に興味を惹かれた。

 恋人、チョコ、愛を確かめ合う……


「……僕が、レヴァンにチョコを贈る…………?」

「えぇ、その通りです! レヴァンさんにはそれとなくバレンタインの話をしておきますので、セリスさんが自分の為にチョコを作ってくれたら、もちろん喜びますよ!!」


 そういう、ものなのかな……?

 でも、僕だってレヴァンが僕の為に何かしてくれたら嬉しいし、やっぱりそういうものなのかもしれない。

 レヴァンは、喜んでくれるかな……。


「ちなみに、そのバレンタインは三日後に迫っています」

「え、もうあんま時間ないじゃん」

「ご心配なく! 十分間に合いますので!!」


 まぁとりあえずはチョコを作る材料を集めようということで、エセリナは嬉しそうに僕を庵の外へ連れ出す。

 僕はチョコなんてほとんど食べたことないから知らなかったけど、どうやら特殊な豆を加工して作るものらしい。

 うーん、作ったことないけど大丈夫かな……。


 というわけで、やって来たのはクロエの食料品店だ。

 しかし、そこで問題が発生した。


「な、ない? 材料売ってないんですか!?」

「もう! そんな面白そうな祭りがあるって知ってたら絶対仕入れたのに!!」


 なんと、クロエの店ではチョコの材料を売っていなかった。ってことは、たぶんこの町のどこにも売ってないんだろう。

 どうやらクロエもその「バレンタイン」のことを知らなかったらしい。

 よかった。僕だけじゃなかったんだ……。


「これは由々しき問題ですよ! セリスさん!!」

「でも、作れないならどうしようも……」

「甘い! まだ三日もあります!!」


 うわ、嫌な予感が……


「材料の採取に行きます!! クロエさん、レヴァンさんには適当に誤魔化しておいてください!!」

「おっけ~!!」

「ちょ、待――」


 いってらっしゃーい、とニヤニヤしながら手を振るクロエに見送られ、僕は文句も言えずにエセリナに引きずられてしまう。

 聞けば、その材料の豆は深い深い山の中で採れるらしい。

 エセリナの計算では、不眠不休で行けば何とか間に合うんだとか。



 いったい君のその情熱はどこから湧いてくるんだ……!



後編は明日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ