54 そんな俺たちの日常
今日は53話、54話(最終話)の投稿です。
翌朝は、鳥の声で目が覚めた。
ごろりと寝返りを打つと、至近距離にセリスの愛らしい寝顔が見えて思わず叫びそうになってしまう。
そうだ、俺とセリスは昨日……
やばい、にやける。俺は世界一の幸せ者かもしれない。
セリスを起こさないようにそっとベッドから出て、風邪をひかないように毛布を掛けなおしてやる。
昨日色々無理させたし、今日は俺が朝食作っとくか。
普段食事を作るのはセリスの担当なので正直俺はあまり得意じゃない。
だが、軽い朝食くらいなら俺も問題なく作れる程度のスキルは持っている。
フライパンにベーコンと卵を落とし、後は買ってあるパンでいいか……と考えていた時だった。
背後に気配を感じたかと思うと、ぎゅう、と強く抱き着かれたのだ。
「……なんで先におきてるの」
振り返ると、不服そうな顔をしたセリスがぎゅうぎゅうと俺にしがみついていた。
だが、問題なのはその格好だ。
セリスは、裸に俺のシャツを軽く羽織っただけというとんでもないエロエロな格好だったのだ!
ぎゅっと強く抱きつかれると、昨晩存分に堪能させてもらった、たわわに実ったマシュマロパイの感触をダイレクトに感じてしまう。
そのままセリスはすりすりと体をこすりつけてきて、俺の理性は焼ききれそうになった。
まったく、一晩でとんでもないエロエロフに成長したもんだな!!
「おい、火使ってる時に危ないだろ」
わざとクールにそう言い返すと、セリスは俺の背中に顔を押し付けて小さく呟いた。
「だって……ちょっとでも長く、一緒にいたいんだもん」
やばい、もう卵とかどうでもいいわ。
ここでフライパンが焦げても知らん!!
俺はこのけしからんマシュマロパイを狩りに行くぜ!……とウキウキで振り返った時だった。
突如、ノックも何もなく庵の戸が開く音がした。
「たっだいま~!!」
「「うわあああぁぁぁ!!?」」
聞こえてきた声に、セリスがすごい勢いで部屋に引っ込んでいく。
呆然とする俺の元に、足音が近づいてくる。
「あーいたいた! ただいま~。元気にしてた?」
やって来たのは、もう懐かしい気すらするフィロメラさんとアリオンの二人だった。
なんで、なんでこのタイミングで帰ってくるんだよ!!
「どどど、どうしたんですか!? いきなり!!」
シャツの上に毛布をかぶったセリスが慌てた様子で部屋から飛び出してくる。
おい、そんな恰好してたら余計怪しいだろ!!
「あれー、お邪魔だったかな?」
「どれどれ、年寄りは退散するとしようかの」
「いやいやいや、ちょうど朝食作ったとこなんで食べてってください!」
若干焦げかけた目玉焼きを手早く皿に乗せテーブルに並べる。
フィロメラさんとアリオンはにやにやしながらその様子を眺めているようだった。
「帰ってくるなら連絡くらいくれればよかったのに」
「いやー、まだ途中。ただいいことがわかったから一旦戻ってきたんだよ、急いでね」
一口でベーコンを平らげたアリオンが、平然とそう告げた。
俺とセリスは思わず顔を見合わせる。
ちょっと待て、いいことって……まさか、セリスにかけられた呪いのことか!?
セリスが男に戻る。ずっとそう切望してきたはずなのに……なぜだか、焦燥が込み上げる。
くそっ、たった一夜であのマシュマロパイを手放さないといけないというのか……!?
「あっ、安心して。セリスの体を元に戻す方法はまだわかってないから」
「それはよかった……じゃなくて! じゃあなんなんですか!!」
ついうっかり本音が出てしまったが、特に誰からのツッコミもなかった。
俺の本心なんて、どうせみんなお見通しなんだろう。
少々恥ずかしくなってると、その場の空気を変えるように、フィロメラさんがふと真面目な表情で俺の方を見据えた。
「レヴァン、お主の変化じゃ」
「え、俺……?」
「前に言ってたじゃん。冒険者になった時は魔力が全然なかったって」
「あぁ……」
確かに、俺はここ最近急に魔法なんて使えるようになったんだった。
他にもいろいろありすぎて、その事について深く考えたことはなかったけどな。
そういえば……なんでそうなったんだ?
「セリスを元に戻す方法はまだわからない。だから、手持ち無沙汰に他の調査をしてみたんだ。ほら、フィロが瀕死の君たちに使った薬だよ」
「あの、ダンジョンで昔手に入れたっていう……」
「そうそう。空き瓶があったからその効果を調べてたんだ。そうしたらすごいことがわかってね!」
思わずごくりとつばを飲み込む。
一体、どんな効果があったんだ……!?
「あれさぁ、飲んだ者を古代種に変化させる薬だったみたい。すごいよ、超レアものだよ」
「……は? 古代種?」
駄目だ、さっぱり意味が分からない。
そもそも古代種ってなんなんだ?
「あれ、知らない?」
「古代種というのは、遥か昔の文明の民のことじゃ。現在残っているダンジョンを創り出したのもその古代種だと言われておるな」
「なんなんですか、その古代種って……」
なんかやばそうな種族だってことはわかる。
自分でも気づかないうちに、俺はとんでもないものになってたのか!?
「ダンジョンの中見ればわかるじゃん。あれって今の僕たちでは到底理解できない仕組みで動いてるよね。古代種って、ものすごい魔力を持ってるし寿命もすごい長い。だから古代種になれる薬なんてよっぽどじゃないと見つからないんだよ。たぶんみんな欲しがるだろうしね」
「まさかわらわもそんなものが棚の奥に眠っていたとは思わなんだ」
「いやいや……」
そんな軽く言わないでくださいよ……!
でも今、寿命が長いって……。
「よかったじゃん。セリスはエルフだし、同じようにあの薬を飲んだなら多少は変化してるんじゃない?」
「でも……」
「まぁこれからも二人で仲良くやりなよ。僕たちは次のダンジョンに出発するから」
「引き続き留守を頼むぞい」
それだけ言うと、二人は立ち上がり風のように去ってしまう。
慌てて追いかけてたが、庵の外に出た時には既にその姿は消えていた。
「…………まじかよ」
色々言われすぎて、すぐには理解できそうにない。
ただ、一つだけ強く頭に残った言葉がある。
――古代種は長命種族
そうだとしたら……
呆然と突っ立っていると、背後から強い力で抱き着かれた。
「セリス……」
セリスはまた泣いていた。
振り返り、俺も強くその小さな体を抱きしめ返す。
「こうやって一緒にいよう。百年後も二百年後も」
「うん……!」
涙ながらに頷いた幼馴染と唇を重ねる。
俺のセリス、ずっと俺が傍にいる。
これからもずっと、一緒だからな。
セリスと二人で町へ向かう道すがら、そっと俺の手に細い指が絡みついてきた。
驚いて振り向くと、セリスは長い耳を真っ赤にして俯いている。
……はぁ、まったくどこで覚えたんだよ。こんなに俺の心を攪乱するスキルをよぉ!!
その俺より少し小さな手を握るようにして繋ぎなおすと、セリスは「えへへ」と小さく嬉しそうな声を上げた。
まるで小さな子供の頃と同じように、その内に潜む想いは変わったけど、俺たちはこれからもずっとこうやって一緒に歩いていくんだろう。
森を抜ける直前に、どちらかともなく手を放す。
町に足を踏み入れると、すぐに見覚えのある元気な姿が近づいてきた。
「あっ、レヴァン! エルフのねーちゃん!」
そこにいたのは、一応俺の弟子である生意気な少年バシルと、彼の妹のエリアだった。
「お前また大怪我して寝込んでたんだってな! 修行が足りねーんじゃねぇの!?」
「誰が『お前』だってー!!? 生意気なガキにはたっぷり礼儀を叩き込んでやらないとな!!」
小さな頭をぐりぐりすると、バシルはキャンキャンとまるで犬のように暴れていた。
その傍らで、エリアがおずおずとセリスに話しかけようとしていた。
「セリスおねえちゃん。あ、あのね……」
「ん? どうしたの?」
中腰になりエリアと目線を合わせて、セリスは優しく続きを促している。
「あの、私……おにいちゃんみたいに、セリスおねえちゃんの『でし』になりたいの……」
もじもじと、小さな可愛らしい女の子はそう口にしたのだ。
セリスは一瞬驚いたように目を丸くしていたが、すぐに優しくエリアの頭を撫でていた。
「もちろん、大歓迎だよ。こんど一緒に薬作ろうか」
「うん!」
なんか、見ているだけで微笑ましくなる光景だ。
だが、そんな気分は俺のクソ生意気な弟子によってぶち壊される。
「なーあー! そろそろ俺もダンジョン連れてってくれよ!」
「はあ? お前まだガキだろ」
「ガキじゃねぇ!! すぐにレヴァンよりでっかくなってやるからな!!」
まったく、口の減らないガキだ……とため息をつくと、通りの向こうから雑貨屋の親父が走ってくるのが見えてきた。
「オラァ! 何さぼってやがる!!」
「やべっ、父ちゃんだ! エリア逃げるぞ!!」
「うん! セリスおねえちゃん、レヴァンおにいちゃん、またね!!」
そのまま二人はバタバタと駆けていき、その後ろを雑貨屋の親父が怒鳴りながら、だがどこか楽しそうに追いかけていく。
少し騒がしい、この町の日常だ。
「……よし、俺たちも行くか」
「そうだね」
くすりと笑って、俺たちは再び歩き出した。
「あっ、おふたりさーん! 相変わらず仲いいね!!」
そのままギルドへ直行!……と思っていたが道中で運悪くクロエに捕まってしまった。
まったく、いつもいつも騒がしい奴だ。
「クロエ、あのね……」
「うんにゃ?」
セリスはどこか恥ずかしそうにクロエに近づくと、その耳とでごにょごにょと何か内緒話をしているようだった、
クロエは驚いたように目を丸くすると、俺の方へ視線をやり……そして、にやーりと笑った。
……その顔だけで、なんとなく何の話をしたのは察しがついてしまうんだな。
「いやー、やるじゃん! 私はレヴァンはやればできる奴だと思ってたよ!!」
ばんばんと力強く背中を叩かれ、俺は思わず咳き込んでしまった。
まったく、こういうガサツなところは姉にそっくりだな!
「そうだ、イチジクあげる! 一説によるとイチジクには媚薬効果があると言われていて……」
「ななな、何ってんのさ!!!」
「あはは、冗談だよ! でも二人で仲良く食べなよ~」
クロエはあはは、と笑いながら真っ赤になったセリスとなんて言っていいかわからない俺に手を振ると、スタスタと歩いていってしまう。
本当に、あいつはいつも一言余計なんだよな……!
「もう、なんなんだよ……!」
「お前をからかっただけだろ。ほら、行くぞ」
むくれるセリスを促し、再びギルドに向かって歩き出す。
それにしても、媚薬効果か……。
今度、二人で食べてみるか。
「……レヴァン、何考えてんの」
「んー、お前のこと」
「ば、ばかぁっ……!!」
セリスは真っ赤になってぽかぽかと俺を殴ると、そのまま照れたように走って行ってしまう。
俺も慌ててその後を追いかけた。
「お二人とも、来てくださってんですね!!」
「あっ、レヴァンにセリス! いらっしゃーい!!」
ギルドに入ると、すぐに受付のリアナとリアナに絡んでいたサフィラが声をかけてきた。
「ねぇ、次のダンジョン攻略はいつにする!?」
「もう、サフィ姉。レヴァンさんは病み上がりなのに!」
「えー、だらだらしてたら体なまっちゃうよ! ね?」
キラキラした瞳で迫ってくるサフィラに、俺とセリスは苦笑した。
でも、ダンジョン攻略もまだまだ先は長い。
サフィラの言う通り、体がなまらないように近いうちに行っとくか!
「ふふ、精が出ますね、お二人とも」
ギルドの一角でくつろいでいたらしき、エセリナも俺たちの方へ近づいてくる。
その後ろには、あのエリックの取り巻きとなっていた少女たちもいた。
だが、今日の彼女たちはどこかウキウキしているように見える。
何かいいことでもあったのか……?
「あのですね、やめるように言ったんですがどうしても聞かなくて……」
「レヴァンさーん!」
エセリナの言葉を遮るように、いきなり甘えたような声が聞こえたかと思うと、彼女たちのうちの一人、魔術師の格好をした少女が俺の目の前まで駆けてきた。
「レヴァンさんが私を助けてくれたんですよね! 感激です!!」
「え、いや……」
「是非今日は私と一緒に薬草採取に行きませんか!?」
「え……」
なんだこの状況は……
「えー、私と一緒にコボルト退治にいこうよぉ」
「ちょっと、コボルトなんてレヴァン君には小物すぎでしょ! ほら、お姉さんと一緒にトロール討伐なんてどーお?」
俺の両手に女盗賊と女戦士が絡みついてきた。
え、なんだこれ。
いきなりもモテ期到来なのか!!?
「ほら、皆やめなさい。レヴァンさんが困惑してるでしょう!……ところで私と一緒にゾンビ退治はいかがでしょうか」
「「「ちょっとエセリナー!!」」」
前後左右をきゃいきゃいとかしましい女の子たちに囲まれ、俺は激しく混乱した。
なんだこれ。ほんとになんだこれ……!
でも、案外こんなのも悪くな――
そうにやけかけた途端、ある一点から絶対零度の視線が突き刺さる。
おそるおそるそちらに目を向けると、そこではセリスがものすごい顔で俺の方を睨んでいた。
「あーあ、やっちゃったねー」
「レヴァンさん、浮気はダメですよ!!」
待てセリス、俺はお前一筋だ!……と弁解する間もなかった。
呆れたようなサフィラとリアナの声を合図に、セリスはまっすぐに俺の方へと突進してきたのだ。
「レヴァンのばかああああぁぁぁぁぁ!!!」
そうして、俺は久々に全力のエルフパンチを受けて、無様に吹っ飛ぶ羽目になったのであった。
……まぁ、こんな日常も悪くないな!
これにて完結です!稚拙な作品ですが、ご愛読ありがとうございました!!
といってもまだまだ「新婚編」「里帰り編」「不思議なダンジョン編」などなど書きたい話はたくさんあるので、そのうちちょこちょこ追加すると思います。
また見に来てやってください!
それと、新作「元・最強の堕天使は転生しても魔術を極めたい」も始めました。
お暇なときにでも覗いていただけると嬉しいです!




