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53 幼馴染、親友、そして……

今日は53話、54話(最終話)の投稿予定です。

 結論から言うと、俺は一命を取り留めた。


「よくあんな状況で戦えましたね。もう少し遅かったら危なかったところです」

「前にダンジョンで拾った薬あるじゃん。あれ使ってみたらさっと熱引いてさ、びっくりしたよ~」

「こえーこと言うなよ……」


 エセリナとサフィラの説明を聞きながら、俺はまた脱力してベッドに転がった。

 その傍らでは、セリスがベッドに突っ伏すようにして眠っている。

 どうやらエリックを倒してぶっ倒れた俺は、すぐさま庵に運び込まれたらしい。

 エセリナの話では中々危ない状況だったようだが、サフィラの機転(?)でダンジョンで手に入れた薬を使ったことによって、なんとか回復したようだ。

 そういえば、前にもこんなことあったような……。


「んっ……」


 そんなことを考えていると、小さく声が聞こえ、ベッドに突っ伏していたセリスがもぞりとみじろぎした。

 すると、サフィラとエセリナが顔を見合わせる。


「じゃあ、そういうことで」

「邪魔者は退散しますので」

「え、はぁ?」


 それだけ言うと、二人はこそこそと音を立てないように庵を出て行ってしまう。

 なんだあいつら……とその後姿を見送ると、セリスがうにゃうにゃと何やら呟いているのが聞こえてきた。


「セリス?」

「はっ!」


 がばりと起き上がったセリスの大きな瞳が、俺を捕らえたのが分かった。


「お、おはよう……?」


 セリスは俺の言葉にも反応せずに、ただひたすらに驚愕したように目を見開いていた。

 かと思えば、翡翠のような綺麗な目からいきなりぶわっと涙が溢れ出したのだ。


「セリ――」

「レヴァンのばかああぁぁぁぁ!!」

「うぐぉ!!」


 体当たりするように思いっきりしがみつかれて、傷口がひどく痛んだ。

 それでも、飛びついてきた体をしっかりと抱きしめる。


「ばかっ! ばかばか!!」

「お前なぁ……」


 セリスはバカバカと繰り返しながら俺の胸に顔をうずめて泣いていた。

 とりあえず落ち着くように背中をさすってやる。

 セリスはひくひくとしゃくりあげながらも、涙にぬれた顔を上げた。


「もう、起きないかと思った」

「馬鹿、言っただろ。お前を置いてはいかないって」


 そう言うと、またセリスの目からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。


「ほんとに……?」

「あぁ、本当だ」

「絶対に……?」

「そうだ、約束する」


 どちらからともなく、腕を伸ばして抱きしめ合う。


「その……一応もう一回言っとく。お前が好きだ」


 俺を選ぶことで、お前は不幸になるかもしれない。

 いや……そんなことはさせない。

 俺と一緒にいることでセリスが幸せになれるように、俺が頑張らないとな。


「うん、僕も……レヴァンしか、考えられないよ。ずっと、昔から」

「俺はたぶんお前よりずっと早く死ぬ。それでもいいのか」

「……うん。レヴァンが、いいの」


 そんなこと言われたら……どうしようもないじゃないか。


「……わかった、セリス」


 もう一度強くセリスの体を抱きしめて、そっと囁く。


「ずっと、一緒にいよう」


 今までも、これからも、俺たちは同じ道を歩むんだ。



 ◇◇◇



 セリスの看病の甲斐もあって、数日後にはもう普通に起きられるようになっていた。

 さすがは魔女の弟子。薬作りの腕もどんどん上達してるな。

 時折ここを訪れるサフィラが教えてくれたのだが、エリックの消滅と共に奴のパーティーの女たちの洗脳もとけたようだ。

 リアナも、特に後遺症はないらしい。


 というわけで、セリスに支えられるようにしてギルドに赴くと、すぐにリアナが立ちあがり俺たちの方へと走ってきた。


「レヴァンさん、セリスさん! 大丈夫ですか!?」

「あぁ、そっちは?」

「私は……正直よく覚えてなくて……」


 それはよかった。

 エリックの支配下に置かれかけたなんて、できれば記憶からさっぱり消去した方がいいだろう。


「もう歩けるようになったんですか。目覚ましい回復力ですね」


 ギルドの奥からエセリナが歩いてくる。

 その後ろには、あのエリックのパーティーメンバーたちもいた。


「ありがとな、あんたのおかげで助かったよ」

「いえ、私こそ魔神を討伐するチャンスを伺ってましたので。うまく事が運んでよかったです」


 そう言って、エセリナはにこりと笑った。

 たくましいな、こいつは。


「あの……私たちがご迷惑をおかけしたみたいで……」


 エセリナの後ろから、少女たちがおずおずと話しかけてくる。


「いや、悪いのは全部エリックの奴だ。あいつは俺たちとエセリナで退治したから問題ない」

「……解放してくださって、ありがとうございます」


 少女たちは昨日の態度が嘘のように、深々と頭を下げていた。

 そんな少女たちに、エセリナが声をかけている。

 彼女たちは、おそらく自分の意思に反してエリックの支配下に置かれていた。

 そのことを考えると、俺はなんて声をかけていいのかわからなかった。


「しばらくは、私たちもこの町に駐留しようと思っています。御用がありましたら是非ともお声がけを」

「あぁ、そうするよ」


 そう言ってにこりと笑ったエセリナを見て、俺は頭が下がる思いがした。

 きっと、彼女たちのことはエセリナがなんとかしてくれるだろう。

 ここイスティアはのどかないい町だ。

 俺とセリスみたいに、しばらくここでのんびりするのも悪くはないだろう。

 なんてことを考えていると、ギルドの扉が壊れそうな音を立てて勢いよく開いた。

 思わずびくりと反応してしまう。


「あっ、レヴァンだ! もう起きても大丈夫なの?」


 ずかずかと勢いよく入ってきたのは、やはりサフィラだった。

 こいつはいつもぶれないな……。


「外の様子が気になるって聞かなくて、困っちゃうよ」

「えー、ちゃんとセリスの言うこと聞きなよ」

「お前らなぁ……」


 セリスとサフィラはくすくすとおかしそうに笑い合っている。

 そのいつもの空気に、俺は自分でも驚くほど安堵した。

 本当にいろいろあったけど、また穏やかな日常が戻ってきた。

 それが、一番だよな。



 ◇◇◇



 さて、俺とセリスはお互いの好意を確認したわけで、一応恋人という関係になったわけで……!

 そうして俺たちの日常はがらりと変化し……


 なかった。


 そりゃあそうだ。俺とセリスはほとんど生まれた時からの付き合いなのだ。

 なんていうか……セリスの顔見ると普通に今まで通りの対応になるんだよな。

 セリスだって俺が好きっていうのは、ある意味友情の延長線みたいなものでもあるんだろう。

 先に進みたい気持ちがないわけじゃない。だが……あまり俺ばかり先走ってもセリスを困らせるだけだろう。

 そう思い、俺はたまに湧き上がる欲望に打ち勝とうと秘かに奮闘していた。


 そんな風にのんびりと二人暮らしを続けていた、ある夜の食事の席でのこと。


「あのね、レヴァン」


 どこか勿体つけたように、セリスが話しかけてくる。

 先を促すと、セリスはもじもじとした様子で小さく口を開いた。


「あの……いろいろ、考えたんだけど、僕やっぱり……」


 何の話だ。さっぱり読めない。

 まさか、もう俺のことが嫌になったのか……!?

 この前の洗濯当番の時に、お前の下着を凝視してたのがばれたのか……!!?




「やっぱり…………レヴァンの、子供が欲しい」


「ぶはぁっ!!!??」



 突然の爆弾発言に、思わず口に含んでいたスープを吹き出してしまった。

 いつもだったら「汚っ!」と騒ぐセリスも真っ赤になって沈黙している。


「こ、子供っておまっ……!」


 コウノトリが運んできたり、キャベツ畑に生えてくるもんじゃないんだぞ!?

 いや、エルフはそうなのか!!?


「む、無理ならいいけどっ……!」

「いや、無理っていうかその……」


 セリスは真っ赤な顔のまま、涙目になって俺の方を睨みつけている。

 その様子だと、何も知らないってわけじゃなさそうだ。

 まぁ、それもそうか。

 セリスだって、俺と同じ村で育ったんだしな。基礎知識にそこまで違いがあるとは思えない。


 セリスは長い耳の先っぽまで真っ赤にして、涙目でぷるぷると震えている。

 その様子から、相当の覚悟でさっきの発言をしたってことが俺にもわかった。

 セリスは男として生まれたが、今は女の体になっている。

 …………俺にはわからないが、子供が作れなくもないのかもしれない。


 子供、子供か……。

 俺はセリスよりもずっと早くいなくなる。だが、俺とセリスの間に子供が生まれれば、その子は俺が死んだ後もセリスの拠り所になるのかもしれない。

 いや……そんな言い訳はいいんだ。


 セリスが勇気を出してくれたのに、俺がヘタレてどうする!!

 ここは据え膳頂いておくべきだろ!!


「……わかった。今夜お前の部屋に行くから」


 そう告げると、セリスは真っ赤な顔で小さく頷いた。





 そして夜半過ぎ、大きく息を吸いセリスの部屋の戸を叩くと、小さく「どうぞ」と返ってくる。

 そっと戸を開けると、セリスはかわいらしい寝間着を着てちょこんとベッドの上に腰かけていた。

 いや、寝間着っていうか……ほとんどエロ下着だ。

 形こそ裾の短いワンピースのようになってるが、フリフリでスケスケな感じだ。


 ――今にもこぼれ落ちそうな、たわわな胸の谷間

 ――むしゃぶりつきたくなるような、魅惑のふともも


 少し離れた部屋の入り口からでも、そんな楽園パラダイスが、まるで俺を誘うかのようにお目見えしてしまっているのだ。

 おい、お前どこでそれを手に入れた!?

 この町であんなエロ下着が売ってる店があるのか!!?


「ど、どうかな……」

「いや、なんていうか……」


 昔からよく知るセリスが、あんなに泣き虫だったセリスが、エロ下着を身に纏い切なく俺の訪れを待っていた。

 なんという背徳感だ。

 欲望と理性がオーバーヒートを起こして、俺はまるで舐めるようにまじまじとセリスを凝視してしまった。


「ちょっとはやる気が出るかなって、思ったんだけど……」


 ちょっとどころじゃない、クリティカルヒットだ。

 まったく、いつから俺の親友はこんなにエロエロになってしまったんだ!


「やっぱり……似合わないかな……」


 俺が立ち止まったままなのを勘違いしたのか、セリスの声がだんだんと小さくなっていく。

 あぁ、これはいけない。

 今すぐダイブしたい気持ちを押さえて、俺は一歩一歩セリスの方へと近づいた。


「お前、いつからそんなやらしい子になったんだ?」

「レヴァンの、せいだもん……」


 そうか、俺のせいか。なら仕方ないな。

 セリスの隣に腰かけ、そっと艶やかな髪を撫でる。

 恥ずかしそうに顔を上げたセリスの頬に手を添えると、セリスは俺の意図を察したのかぎゅっと目を閉じる。


 そしてそのまま、俺はそっと大切な幼馴染に口付けた。


 初めて触れたセリスの唇は信じられないほど柔らかく、まるでこの世のものとは思えないほどだった。

 俺だって、女を抱くのが初めてなわけじゃない。

 だが……相手はずっと一緒だった幼馴染で、親友で、誰よりも大切な相手だ。

 そう思うと、俺まで緊張してきてしまう。

 そうだ、急ぎすぎてはいけない。

 ゆっくりと、優しく、丁寧に……俺は自分自身にそう誓った。


 そっと滑らかな肌を撫でると、セリスが熱い吐息を漏らす。

 幼い頃からよく知る幼馴染の、まだ知らない姿。

 何度も何度も、いろんなところに口付けて、触れ合って、少しずつセリスを産まれたままの姿へと戻していく。

 そして最後の砦に手を掛けようとすると、セリスは頬を染めながら熱っぽい瞳で俺を見上げ、小さく言葉をこぼした。


「う、うまくできないかもしれないけど……やさしくしてね……!」


 その瞬間、立てたばかりの誓いが音を立てて爆発四散した気がした。


「うおおぉぉぉ! セリス、好きだっ!!」


 もう我慢ならん!

 俺はすべてをかなぐり捨てて目の前の幼馴染へとむしゃぶりついた。


次回、感動の(?)最終回です!

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