51 悪夢の中で
今日は51、52話の更新予定です。
――長い夢を、見ていた気がする
気がつくと、僕は家を飛び出し走っていた。
何で走ってるんだろう? そうだ、今日はレヴァンと一緒に小川の向こうを探検する約束をしてるんだ。
楽しみだな。一人で村の外へ出るのは怖いけど、レヴァンと一緒だから大丈夫。
一歳年上の幼馴染は強いし、物知りだ。
今日はどんな発見があるんだろう。
わくわくしながらたどり着いた小川の橋の手前に、レヴァンはいた。
でも、レヴァンだけじゃなかった。
「うわ、来やがった!」
レヴァンと一緒にいるのは、村のいじめっ子たちだ。
いつもいつも、僕がエルフだってことをなじってくる、嫌な奴らだ。
彼らの意地の悪い笑みに足が竦んで、それ以上動けなくなってしまう。
「レヴァン……」
今日は、僕と遊ぶ約束だったよね?
そう思いを込めて呼びかけると、レヴァンは僕の方を振り返る。
その表情は、ひどく冷たかった。
「なんだ、来たのかセリス」
その冷たい声に、体がびくりと跳ねてしまう。
わけのわからない状況に、思考が停止してしまう。
レヴァンが、僕にこんな態度を取ることなんて今までなかったのに。
「探検はこいつらと行くことにしたんだ。お前は帰れ」
「で、でも……」
「お前は足手まといなんだよ」
告げられた言葉に、全身が冷たくなっていく。
「すぐ泣くし、弱いし、いつも俺に頼ってばっかで鬱陶しいんだよ」
……駄目だ、泣いたらますますレヴァンに嫌われるだけなのに。
「やっぱり泣いた! だっせー!!」
「じゃあなセリス。ついてくんなよ」
それだけ言うと、レヴァンといじめっ子たちは橋を渡って遠くへ行ってしまう。
その場には、ぐずぐず泣く僕だけが残された。
僕は……置いていかれたんだ。
◇◇◇
気がついたら、目の前には成長したレヴァンがいた。
それだけじゃない、迷宮都市にいた頃の、パーティーの仲間も一緒にいた。
「だから、お前はパーティーを抜けろ」
「ぇ……?」
いきなりそう言われ、戸惑ってしまう。
視線を下げると、豊かに膨らんだ胸が目に入る。
あぁ、これは僕が女の体になってからの出来事か。
でも、こんなことあったっけ……?
「ただでさえ使えないのに、女になったらますます足手まといだろ。シーフなら他にも優秀な奴がいくらでもいる。お前じゃなくてもいいんだ」
レヴァンの冷たい言葉に、体が凍り付く。
そうだ……うすうすわかってたことだ。
僕は、レヴァンのお荷物でしかないんだって。
でも、一人で出ていくなんて嫌だ。僕は、レヴァンとずっと一緒にいたいのに……!
「ま、待ってよ……!」
「村へ帰れ、セリス!」
「嫌だ!!」
嫌だ、一人でなんて帰りたくない。
レヴァンの傍にいたい。
ずっと一緒に、いたいのに。
「レヴァン、お願いだから……!」
「お前は使えないんだよ」
「お願い……!」
必死に縋りつくと、レヴァンは笑った。
「そんなに俺と一緒にいたいのか」
「うん……」
「じゃあ、役に立ってもらわないとな」
レヴァンはそう言うと、思いっきり僕を突き飛ばした。
「痛っ……!」
後ろに吹っ飛んだ体は、誰かに支えられる。
礼を言おうと振り向いて、僕は固まってしまった。
僕の肩を強く掴んでいたのは……最も会いたくない相手――マノスだった。
「俺が存分に使ってやるよ、セリス」
その言葉と共に、床に引き倒される。
「やだっ、やめて!!」
必死に抵抗したけど、僕の力じゃかなうわけがなかった。
マノスだけじゃない。エリック、それにパーティーの奴らまで、僕の方に手を伸ばしてくる。
手足を押さえつけられ、不快な体温が体を這いまわっていく。
嫌だ、気持ち悪い……。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……!!
「レヴァンっ……! レヴァン助けて!!」
マノスたちの向こうから僕の方を見下ろしているレヴァンに必死に呼びかける。
だが、レヴァンはただ冷たい瞳で僕の方を見下ろしているだけだった。
「お前なんてこんなことでしか役に立たないからな」
それだけ言うと、レヴァンは僕に背を向けて立ち去ってしまう。
嫌だ、行かないで、待って、助けて……
「いやだあああぁぁぁぁ!!」
それから、何度も何度もレヴァンに裏切られた。
レヴァンはいつも僕を傷つけ、置いていってしまう。
何度も何度も、僕の心は切り裂かれた。
もう嫌だ。何でこんな目に遭うんだろう。
……そうだ。レヴァンがいるからだ。
嘘つきな幼馴染、薄情な親友。
レヴァンがいるからこんなことになるんだ。
レヴァンさえいなければ、僕がこんな目に遭うこともないのに。
こんな思いをするくらいなら、出会わなければよかったんだ。
レヴァンがいるから、こんな悲しい思いをしなくちゃいけないんだ。
だったら……レヴァンを消せばいい。
◇◇◇
強く抱きしめられる暖かな感覚に、凍り付いた心が溶けていく。
「……ごめん。ごめんな、セリス」
「俺はここにいる。お前のすぐそばにいる」
「大丈夫、ずっと一緒だ。お前を置いていったりはしない」
あの悪夢とは違う、僕の知ってる優しい幼馴染がそこにはいた。
だから、すぐにわかった。
これが……本物のレヴァンだって。
だが次の瞬間、僕がしっかりと握り締めていたナイフがレヴァンの体に突き刺さっていることに気がつく。
それでもレヴァンは、僕を抱きしめてくれた。
こんな、どうしようもない僕を。
サフィラと……誰だかよくわからない子も一緒に戦ってくれる。
やっぱり、僕はレヴァンと一緒にいたい。
諦めたくなんかない。
レヴァンのことが……誰よりも大好きだから。
だから、もう一度ちゃんと伝えよう。
この……醜い化け物を倒した後に。




