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48 忍び寄る影

 エリックと二人で、席を外しギルドの外へ出る。

 エリックに絡んでいた女たちが恨みがましい目で俺を見てきたが、気づかないふりをした。

 ひとけのない建物の裏手にまでたどり着くと、エリックはそっと口を開いた。


「……安心したよ、君たちが頑張ってるようで」


 エリックは小さく笑ってそう口にした。

 こいつは元リーダーとして、俺たちのことを案じてくれていたのだろうか。


「まぁ、色々あったけどそれなりになんとかやってるよ」

「……君たちは、ずっとこのままこの町で暮らすつもりなのか?」


 ふと真剣な声色で、エリックはそう問いかけてきた。

 俺は……答えに窮してしまう。


 少し前までは、セリスと二人で、今までみたいにギルドで以来こなしたり、たまにダンジョンの攻略に出かけたり、町の人たちを手伝ったりして暮らしていこうと思っていた。

 だが……それは、セリスの為になるんだろうか。


 セリスのためを思うなら、もっと他の場所であいつの添い遂げる相手を探すべきなのかもしれない。

 俺は……あいつの傍にいない方がいいんだろうか。


「……君も、辛いだろうね。セリスとは昔からの友人なんだろう?」

「あぁ、生まれた時から一緒の幼馴染なんだ」


 隣同士の家で、一歳違いの幼馴染。俺たちはいつも一緒にいた。

 あいつのことなら、それこそあいつの両親にも負けないくらいよく知っている自信がある。


「……レヴァン」


 慰めるように俺の肩に手を置いたエリックが、真剣な表情で視線を合わせてくる。


「これから話すことは、戯れ程度に聞いて欲しい」


 そう言ったわりには、エリックの声色は真剣そのものだった。


「君たちと別れてから、いろんなことがあった。パーティーが解散したり、辛いこともあったさ。でも、その中で手に入れたものもある」

「手に入れたもの?」

「あぁ。レヴァン、ダンジョンって、不思議だと思わないか?」


 確かに不思議だ。

 男だったセリスがいきなり女になったり、俺もその不可思議な現象は間近で見ている。


「僕は幾度かダンジョンに潜るうちに、その中で……古代神という存在と相見あいまみえた」

「古代神……?」


 なんだそれは。

 俺も何度もダンジョンに潜っているが、そんなのは見たことも聞いたこともない。

 そんな存在が、ダンジョンの奥深くで待ち構えているのだろうか。


「僕はそこで古代神に認められ……祝福を受けた」

「祝福……」

「彼らは、『神人』と言っていたね。僕は新たな存在に生まれ変わったんだ」

「はぁっ!?」


 思わず凝視してしまったが、見たところ俺の知るエリックと変わりはないようだった。

 生まれ変わったって……本当に?


「あぁ、生まれ変わったていうのは言葉の綾かな。セリスの同じようなものだよ。変化した、という感じかな」


 なるほど、セリスもダンジョンのよくわからない力で男から女になってしまった。

 エリックもそれと同じで、今までのエリックからその「神人」とやらに変わったんだろうか。


「あるいは、進化……というべきかな」

「進化……」

「『神人』は人間を超えた力を手にすることができ……永い時を生きる種族なんだ」


 思わず息をのんだ。

 永い時を生きる種族……。

 ……エルフと、同じだ。


「そんな単純な話じゃないことはわかってるんだ。だが……ずっと、君たちのことが気にかかっていた。僕でよければ、君たちの力になりたいんだ。だから……」


 エリックの声が、耳から頭に染みていく。

 その視線から、目が離せなくなる。



「セリスを、僕に任せてくれないか?」



 ◇◇◇



 ……レヴァンが帰ってこない。

 もう外も暗いのに、せっかく夕食作ったのに。

 一体どこで何やってるんだよ僕の幼馴染は!!


「…………はぁ」


 なんて、何から何までレヴァンのことばっかり考えてる自分に嫌気がさしてくる。

 レヴァンだって、たまには僕から離れて自由にやりたいはずだ。

 僕に、彼を束縛する権利なんてない。


 ……今、レヴァンはどこで何をしてるんだろう。

 ギルドに行くって言ってたし、サフィラと一緒にいるのかな。

 それとも、あのエリックのパーティーだろうか。

 ……あのパーティー、女の子ばっかりだったな。


 レヴァンは、僕に他の相手を探せと言った。

 裏を返せば、レヴァンだってもう僕のお守りはやめてちゃんとした女の子と遊びたいのかもしれない。

 そうだ。僕なんかよりも、普通のかわいい女の子と一緒にいた方が楽しいに決まってる。

 ……なんかそう思うと、こうして彼の夕食を作って待っている自分が惨めに思えてくる。


「……食べよ」


 どうせ待っていてもレヴァンが帰ってくる保証はないんだ。

 僕だけでも夕食を食べて……余った分は捨ててしまおう。

 そう考えた時、こんこんと軽く庵の扉を叩く音がした。


 ……レヴァンが帰ってきたんだ!

 さっきまでのずぶずぶ底なし沼に沈んでいくような暗い気分が一気に吹き飛んで、僕は慌てて立ち上がって駆け出した。


「もう、遅…………ぇ」


 照れ隠しに文句を言いながら扉を開けて、僕は固まってしまった。

 そこにいたのは、ずっと待っていたレヴァンじゃなかったのだ。


「やあ、こんな時間に悪いね、セリス」


 そこに立っていたのは、僕の以前所属していたパーティーのリーダー……エリックだった。

 さっと彼の背後に視線を走らせたけど、レヴァンはいない。

 彼のパーティーの女の子の姿もない。


「……レヴァンは」

「彼ならギルドだよ。僕の仲間が一緒にいるから安心だ。彼も楽しそうにしていたよ」


 その言葉に、再び心が沈み込んでいく。

 ……やっぱり、僕はレヴァンの邪魔なのかもしれない。


「レヴァンとはいろんな話をしてね、その中でセリス……君の話も出たんだ」


 いきなり自分の名前が出て、思わず肩がびくりと跳ねてしまった。

 ……レヴァンはエリックのことを信頼してるみたいだけど……僕は、どこか彼に胡散臭いものを感じていた。

 マノスの件の直後で混乱していたとはいえ、こいつは何も悪くないレヴァンを追放した張本人なんだ。

 だから……あまり彼と二人では話したくない。


「レヴァンは君のことを心配している。君はエルフだから……いずれレヴァンとは別れなくてはならないだろう」


 目を背けていた現実を突きつけられ、まるで崖から突き落とされたような気分だった。

 僕とレヴァンは、ずっと一緒にはいられない。

 そんなの、認めたくなんてないのに。

 僕は、たとえ寿命が、成長速度が違っても……それでもレヴァンと一緒にいたいのに……!


「セリス、僕はダンジョンの英知に触れ、『神人』という種族に生まれ変わったんだ。人を超えた力を持ち、悠久の時を生きる種族にね」


 いきなり、エリックはそんなよくわからないことを言い出した。でも、そんなことは僕にとってはどうでもいい。

 ……だから、なんだっていうんだろう。



「セリス、君さえよければ……僕と共に、悠久の時を過ごさないか?」



 エリックは、優しい笑みを浮かべてそんなことを言いだしたのだ。


 …………はぁ?


あけましておめでとうございます!

本編はあと数話になりますが、このままノンストップで行きたいと思います。

ぜひぜひ最後までお付き合いください!

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