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47 エリックのパーティー

 エリックと再会した翌日、朝起きた時からセリスはどこかぼぉっとしているようだった。


「今日はどうする? ギルド行くか?」

「……ちょっと、薬の勉強したいからここにいる」

「わかった。頑張れよ」


 勉強熱心なのはいいことだが、今日のセリスはどこか元気がないような気がする。

 あまり根を詰めすぎないといいんだけどな。

 フィロメラさんのノートを読みふけるセリスを見ながら、俺は庵を後にした。


 ギルドに向かい、いつものように代わり映えしない依頼を吟味していると、またもやギルドの入り口が騒がしくなった。

 思った通り、入ってきたのはエリックとその一団だ。


「やぁレヴァン。今日はセリスは一緒じゃないのか?」

「あぁ、あいつちょっとやりたいことがあるって家にいるんだ」


 とりとめのない会話をしつつ、二人で掲示板に張られた依頼書を眺める。

 エリックの連れの女たちは、少し離れたところでその様子を眺めているようだった。


「どうだい、久しぶりに一緒に行かないか?」


 エリックがにやりと笑いつつ一枚の依頼書を剥がす。

 なになに? 「リザードマン退治」か……。

 こんな辺鄙な場所では珍しくまともな依頼だ。


「いいぜ、行くか」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 今日はサフィラもいないし、俺一人で地味な依頼をこなすよりもエリックたちと一緒にリザードマン退治に赴いた方が楽しめそうだ。


「済まない、こちらの依頼を受けようと思う」


 エリックが受付にいたリアナに話しかけると、リアナは一瞬ぼぉっとしたように動きを止めていた。


「……リアナ?」

「あっはい! 依頼の受注ですね!」


 すぐにはっとしたようにリアナはわたわたと受付処理を始めてくれる。

 ……なんだ? 体調でも悪いんだろうか。


「よし、じゃあ行こうか」

「はいっ!」


 エリックの呼びかけに、パーティーの女たちは元気よく応えていた。

 自分以外は女だけのパーティーってちょっと居心地が悪そうだが、エリックに関してはそんなことはないのかもしれない。

 ……というか、セリスを女とカウントする今の俺もそんなに変わらないか。

 まぁ、うまくやっているのならそれでいいのだろう。



 ◇◇◇



「はああぁぁぁぁ!!」

「エリック様、ここは私が!!」


 ……俺の出番がない。

 依頼にあったリザードマンの巣にやってくると、エリックのパーティーの少女たちが勇ましくリザードマンの軍団と戦い始めた。

 なんていうか。鬼気迫る勢いだ。

 しかしエリック“様”か……。

 当のエリック自身は、特に気にすることなく指示を出したり、時折やってくるリザードマンと戦ったりしていた。

 こいつは案外大物なのかもな。


「すごいやる気だな……」

「あぁ、彼女たちの活躍にはいつも驚かされるよ」


 彼女たちはちらちらエリックの方を気にしながらリザードマンの群れをなぎ倒していく。

 うーん、なんていうか……

「エリックに気に入られたい」っていう気合がひしひしと伝わってくるんだよな。

 まったく、こいつは罪な男だ。


「お前、結構いい性格してるよな」

「はは、誉め言葉として受け取っておくよ」


 このまま何もせずに報酬だけ受け取るのも寝ざめが悪い。

 俺は少女たちを邪魔しないようにリザードマンと戦い始めた。

 振るうのは、この前ダンジョンで手に入れた白く光る剣だ。


「…………あなた」

「ん? どうした?」


 エリックのパーティーの、神官のような恰好をした少女がじっと俺を見つめたかと思うと、小さく声をかけてきた。

 だが、聞き返すと何でもないとでもいうように首を横に振ってしまう。

 何か言いたいことだもあったんだろうか。

 まぁいい。今は目の前のリザードマンに集中するべきだ。



 依頼の成果は……俺たちの完勝といってもいいだろう。

 心地よい疲労を感じながら、俺たちはイスティアの町へと帰還する。


「どうだ、レヴァン。久しぶりに一杯やらないか?」


 上機嫌なエリックがそう声をかけてくる。

 うーん、誘いに応じたいのはやまやまなんだが……


「悪ぃ、セリスが家で待っててさ」

「いいじゃないか、少しくらい。セリスだってわかってくれるはずさ」


 なんかそう言われると……そんな気もしてくるから不思議だ。

 セリスだってたまには俺がいない方がのびのびできるだろう。

 ここは、パーっと一杯やるか!




「ねぇエリック様、今日の私はどうでしたか?」

「私がリザードマン倒した所、見てくれてましたよね!?」

「あの魔法……エリック様を思って念じたんです」


 ……なんだこれは。

 甘えるように、何人もの少女たちがエリックにしなだれかかっている。

 その光景に、俺は苦笑いするしかなかった。


「……すごいですね、あの人」


 酒を運んできたリアナがそっと俺に囁く。

 それには俺も同意だな。


「よくやるぜ……」


 まぁ、今日はエリックの奢りだっていうし俺は酒に集中しよう。

 リアナに何か注文しているエリックを見ながら、俺はぐい、と杯をあおった。


「今日は随分酒が進むな、レヴァン」

「まぁな。こんな飲むの久しぶりだしな」

「……何か、悩んでることでもあるのか?」


 どこを見てそう思ったのかはわからないが、エリックが唐突にそう問いかけてくる。

 ……鋭いな。いくら酒をあおっても、俺の悩みは消えない。


 小さな悩み事はいくつか存在するが、その中でも俺を悩ませているのが……

 セリスのことだ。


「よかったら僕にも話してくれ。君の力になりたいんだ」


 そう言ったエリックは真剣だった。

 ……その声を聴いていると、ふと抱えている悩みを打ち明けたい衝動にかられ……気がついたら俺は口を開いていた。


「……セリスのことなんだけどさ」

「セリスがどうかしたのか?」

「あいつ……エルフだろ。このまま、ずっと俺と一緒にいるわけにもいかないだろうと思って……」


 俺だってできればずっとセリスと一緒にいたい。

 でも、俺は人間であいつはエルフだ。

 俺があいつを捕まえたままだと、俺が死んだ後、辛い思いをするのはあいつだ。

 できれば、長く、永くあいつに寄り添っていける相手を探してやりたい。

 そう考えただけで嫉妬心がわきあがってくるが、それをぐっと抑えつけた。


 ……そう。

 これは、セリスのためなんだ。


「そうか、そうだな……」


 真剣に俺の話を聞いていたエリックはふと考え込むようなそぶりを見せると、小さくつぶやいた。


「……少しだけ、二人で話さないか?」


 その何かを決意したかのような瞳に、俺は自然と頷いていた。



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