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42 怒りの果てに

今日は41、42話の2話更新です。


※胸糞悪い描写がありますのでご注意ください!

「ずっと考えたんだよ、どうすればてめぇらを一番苦しませられるか、ってな」


 マノスは呪文書スクロールを手に、血走った笑みを浮かべている。

 今すぐ殴りつけてやりたいが、呪文書スクロールの効果で起き上がることすらできない状況だ。


「一人ずつ順番に殺してこうかと思ったが……まずは、お楽しみだな」


 マノスは踏みつけたセリスの体を仰向けにすると、その首元にショートソードを突きつける。


「っ……!」

「暴れんなよ。暴れると手元が狂うからな!」


 マノスのショートソードがセリスの肌に押し当てられる。

 ……次の瞬間、奴の剣はセリスの纏っていた服を切り裂いた。


「……下衆が!!」

「お高くとまってんじゃねぇよ! 役立たずエルフが!!」


 侮蔑するようにそう吐き捨てたセリスの頬を、マノスが思いっきり殴りつけた。


「……めろ…………!」


 必死に止めようと腕を伸ばすが、その腕も見えない鉛に纏わりつかれるように地面へと縫い留められてしまう。


「あの時、てめぇがおとなしくしてればこんなことにはならなかったのによぉ。男の癖に女みたいに騒ぎやがって」


 痛みに呻くセリスの服を引き裂きながら、マノスがそう吐き捨てた。

 ……やめろ、それ以上セリスを傷つけるな。


「前から鬱陶しかったんだよ。いつも金魚の糞みたいにレヴァンにくっついてるだけの能無しが。てめぇなんかこんなことでしか役に立たねぇだろ」


 セリスが何か言ったような気がしたが、その意味は聞き取れなかった。


「……どうせレヴァンとはヤリまくってる癖に、純情ぶってんじゃねぇよ」


 ……こいつは、何を言ってるんだ。

 俺とセリスは、そんな関係じゃない。

 俺は、セリスを傷つけるような真似はしていない。


「…………レヴァンは、」


 セリスは、それでもマノスを睨みつけていた。

 こんな絶望的な状況でも、セリスの心は折れていなかったんだ。



「レヴァンは、お前みたいな屑とは違う」



 はっきりとセリスはそう口にした。

 怒り狂うかと思ったマノスは、驚いたようにセリスを凝視した後……俺の方に視線をやった。

 そして、虫唾が走るほどの気味の悪い笑みを浮かべのだ。


 ……やめろ、それ以上はやめてくれ。


「へぇ、そういうことか……」


 マノスは何度か俺とセリスに交互に視線をやった後、おかしくてたまらないといった様子で笑い出した。


「はは、これは傑作だ! レヴァン、お前何考えてんだ? セリスなんてこんなことでしか役に立たねぇだろ!」

「だ、まれ……!」

「はぁ……残念だったな、二人とも」


 マノスは打って変わって優しくセリスの頬を撫でると、ゆっくりと口を開く。


「俺は知ってんだぜ、セリス。可哀そうな種族だよなぁ、エルフの女ってやつは」

「なに、を……」


 マノスはまるで恋人に愛を囁くようにセリスに顔を近づけ、言葉を発した。



「エルフの女は、処女を捧げた相手に一生隷属するんだろ」



 ……なに言ってんだ、こいつは。

 俺にはわけがわからなかったが、セリスは驚いたように目を見開いている。

 まさか、本当なのか……!?


「そうなったら、てめぇは一生俺の奴隷だな、セリス」


 その言葉を聞いた途端、全身から血の気が引いた。

 駄目だ、今すぐマノスを止めなくては……!

 必死にのしかかる圧力を押し返そうとしたが、体をほとんど動かせない状況は変わらない。


「レヴァンには抱いてもらえなかったのか? かわいそうに……」


 マノスがねちっこい声色でセリスに囁きかけている。

 俺のことはいいから早く逃げろ、と口に出そうとして、俺は愕然とした。

 セリスは声を押し殺して泣いていた。

 その虚ろな、それでも美しい瞳からは、はらはらと涙が零れ落ちている。


「そんなに泣くなよ。喜べよ。大好きなレヴァンの目の前で女にしてやるんだからよぉ!!」


 マノスは狂ったように笑うと、セリスの服を引きちぎり体をまさぐり始めた。

 セリスはまるで抵抗する気力を失ったかのように、なされるがままになっている。


「や、めろぉぉ……!!」


 頼む、動いてくれ……!

 のしかかる圧力に抗って起き上がろうとすると、体がメキメキと嫌な音を立てた。

 でも、それが何だって言うんだ、

 たとえここでばらばらになったって、今すぐマノスをぶち殺さなきゃいけないってのに……!


「心配すんなよレヴァン! 死ぬまで俺が使い倒してやるからよぉ!!」


 窓から入る月明かりに、セリスの白い素肌が照らされている。

 その時、セリスが俺の方に顔を傾けた。

 その涙に濡れ、絶望した瞳と目が合い……セリスは小さく口を開いた。



(…………ごめんね)



 ……なんで、お前が謝るんだよ。

 セリス、お前は何も悪くない。

 待ってろ、すぐに助けてやるから。

 お前を傷つけようとするやつなんて、すぐにぶっとばしてやるからな。


 ――急速に、頭がクリアになっていく


 原理を理解すれば、魔法の拘束を解くのは簡単だ。

 まるで薄手の衣を払うように簡単に、今度は立ち上がることができた。


「なっ……“グラビティ!!”」


 マノスが必死に呪文書スクロールを読み上げるが、一度弾いてしまえば難なく防御することができる。

 そのまま素手に風の刃を纏わせ……俺は殴り掛かってきたマノスの手首を切り落とした。


「うぎゃあああぁぁぁぁ!!」


 鮮血が噴き出し、マノスの絶叫が響き渡る。

 俺はどこか冷静に、その光景を見ていた。


「てっめええぇぇぇぇ!!」


 マノスが激高したように俺の方へ突進してくる。

 あの巨体にぶつかられたら俺もタダじゃいられないだろう。


 何かを考える暇もなく、俺は腕を突き出し突進してきたマノスの胸を貫いた。


「はっ……!」


 最期に、マノスは何かを言ったようだが、その意味までは聞き取れなかった。

 ずるりとその胸を貫いた腕を引き抜くと、マノスの巨体は床に倒れ、動かなくなる。

 溢れ出した血が、カーペットに染み込んでいく。

 ……あぁ、これはもう使えないな。


「……レヴァン」


 そのまま呆然と突っ立っていたが、セリスの弱弱しい声ではっと我に返る。

 視線を向けると、セリスは涙にぬれた目で俺の方を見ていた。

 何て言っていいのかわからないまま、一歩ずつセリスに近づく。


 ……果たして、手を伸ばしたのはどちらが先だったんだろうか。


「……ごめんね」


 セリスは泣きながら必死にそう繰り返した。

 馬鹿だな、お前が謝ることなんて何もないのに。


 俺たちはただ、互いのぬくもりに縋るようにひたすらに抱き合っていた。

 だが、やがて庵の外から派手な足音が聞こえてくる。

 足音は、一心不乱にこちらへ近づいてくるようだった。

 何が来ても守れるように、必死にセリスを抱き寄せる。

 だが、次に聞こえてきた声に安堵で力が抜けそうになってしまった。


「レヴァン、セリス! 無事!!?」


 扉を蹴破る勢いで、息を切らして入ってきたのは、俺たちのよく知るサフィラだった。

 サフィラは部屋の惨状に一瞬驚いたように目を見開いたが、服を引き裂かれたままのセリスと、床に倒れこと切れたマノスと、マノスの血にまみれた俺を見てすぐに何が起こったのかを察したようだ。


「……正当防衛だよ。私とバシルがそう証言する」

「サフィラ、俺は……」

「レヴァンは、セリスを助けたんだよ。だからそれでいい」


 サフィラは迷いなくそう答えた。

 そうして、俺とセリスをぎゅっと抱きしめてくれた。


 普段はとんでもない奴だけど、さすがは妹二人を支える姉だな……。

 サフィラは宥めるように俺たちの背中をぽんぽんと叩いていたが、やがて何かに気づいたように大声を上げる。


「あっ! すぐに町の自警団がここに来るから! セリス、その格好じゃまずいよ!!」

「えっ……!?」

「ほら、後は私たちが何とかするからレヴァンとセリスは引っ込んでて!」

「だが……」

「いいから!!」


 サフィラはセリスを俺の方に押し付けると、そっと耳元で囁いてきた。


「今は、セリスの傍にいて」


 やがて庵の入り口の方がにわかに騒がしくなってきた。

 おそらく、バシルとエリアが町の者たちにマノスのことを告げて、自警団……の中でもサフィラが先陣を切ってやってきたというところだろう。

 今のセリスを、人前に出したくはない。


「セリス、行くぞ」


 セリスの腕を掴み、開いていた一室に滑り込む。

 すぐに、何人かの気配とサフィラが何かを説明するような声が聞こえ始める。


 しばらく話声は続いていたが、やがて、その喧騒が遠ざかっていく。

 その間、セリスは俺の体に身を寄せるようにして小さく震えていた。


 人の気配がなくなったころ……俺は大きく息を吸って、なんとか声を絞り出す。


「……セリス」


 その声に反応して、セリスが顔を上げる。

 まるで、必死に泣くのを我慢するような表情を浮かべていた。


 ……言いたいことは色々ある。

 でも、なんて言えばいいのかわからないんだ。

 ただその存在を確かめたくて、そっと細い体を引き寄せた。

 その途端、セリスがものすごい力でしがみついてきた。


 きっと、我慢していたものが溢れ出してしまったんだろう。

 堰を切ったように大声で泣くセリスの体を、俺はずっと抱きしめていた。


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