4 ずっと一緒だよ
引き続きセリス視点です
あとがきにイラストが出ますの苦手な方はご注意ください
その後のことはうまく思い出せない。
気が付くと、僕は一人部屋に閉じこもって膝を抱えていた。
脳裏に蘇るのは、理性を失ったように暴れるレヴァンの姿だ。
レヴァンは何も悪くない。ただ僕を助けようとしてくれただけだ。
だから、「ありがとう」と「ごめん」って言わなきゃ。
震える体を叱咤して、部屋の外へと飛び出す。
レヴァンを探して部屋を出てすぐに、パーティーのリーダーであるエリックの姿を見つけることができた。
「エリック、レヴァンは!?」
慌てすぎてつっかえそうになりながらそう問いかけると、エリックが振り返る。
そして、優しく笑った。その笑顔に少し安堵する。
エリックならわかってくれる。レヴァンの行動を咎めたりなんかしな――
「あいつならもういないよ」
「…………え?」
……何を言ってるんだろう。
レヴァンがいない? そんなはずない。
エリックはゆっくりと近づいてくると、慰めるように僕の肩を抱いた。
その手の生ぬるい温度に、ぞくりと背筋が震える。
「大丈夫。レヴァンもマノスも追い出したよ。もう君が怖がる必要はない」
「なに、言ってるの。レヴァンを追い出したって、どういう――」
「あいつは仲間を殺そうとした。そんな奴をパーティーには置いておけない」
「でもっ! レヴァンは僕を助けようとしただけでっ……!」
「どんな理由があろうとも、仲間を傷つけ殺そうとするなんて見過ごせるはずないだろう」
……駄目だ、何を言っても通じない。
その事実にショックを受けていると、エリックがそっと顔を近づけてくる。
彼は優しげな笑みをたたえていたけど、その目に宿る光は……マノスと同じだった。
「これからは、俺が君を守るよ、セリス。だから何も心配いらな――」
「……さい」
……違う。聞きたいのはそんな言葉じゃない。
「うるさいうるさい!!」
あぁ、こいつも同じだった。
力いっぱいエリックを突き飛ばすと、僕はいつものフードをひっつかみ外へと飛び出す。
嘘だ。信じない。
レヴァンがもうここにいないなんて信じない……!
レヴァンが僕の前からいなくなるはずがない。
レヴァンが僕を置いていくはずがない!!
僕の記憶をどこまでさかのぼっても、すぐにレヴァンの姿を見つけることができる。
それもそのはずだ。小さな村の、隣同士の家で育ったんだから。
きっと僕が生まれた直後から……いや、もしかしたら僕が生まれたその瞬間からレヴァンは僕の傍にいたんだろう。
エルフだとなじられいじめられていた僕にとって、友達と呼べるのはレヴァンくらいしかいなかった。
一つ年上の幼馴染の背中を、僕はいつも追いかけていた。
レヴァンは興味を持つものができるとすぐに突っ走っていったが、いつも少し行ったところで僕が追いつくのを待ってくれていた。
こうやって冒険者なんてやってるのも、彼が冒険者になりたいと言い出したからだ。
親友に置いていかれないように、僕はいつも必死だった。
でも、レヴァンはいつも僕を待っていてくれた。
だから、レヴァンが僕の前からいなくなる事なんてあっていいはずがない……!
もう陽が落ちている。いくらレヴァンでも、夜に街の外へ出て行ったりはしないだろう。
何も考えていないように見えて、彼がいつも自分や周りの安全を慎重に考えているのを、僕はよく知っている。
だったら、まだこの街のどこかにいるはずだ……!
僕もレヴァンもこの街で過ごすようになって結構な時間が経っている。
知り合いもいるし、彼らに尋ねると少しずつ彼の足取りが掴めてきた。
そして、たどり着いた街はずれの安宿。
そこで探していた人の姿を見つけると、僕は感情が高ぶって子供のように泣いてしまった。
レヴァンはやっぱりレヴァンだった。
あんなに冒険者になりたいって言ってたのに、あっさり出て行こうとするところもある意味彼らしいのかもしれない。
なのに、レヴァンは僕を置いていこうとしている。
……僕のためを思って言ってるのはわかる。
でも、レヴァンは大きな勘違いをしている。
僕は別に冒険者という立場にそこまで固執していない。
彼が思うほど、僕は今のパーティーにいたいとは思わない。
いや……むしろ、もうあんなところにはいたくない。
レヴァンもいないのに、あんな奴らの傍に居続けるなんて耐えられるわけがない。
僕はただ、いつものようにレヴァンの背中を追いかけていたいだけだ。
「置いて、いかないで……」
零れ落ちた言葉は、心の底からの本音だった。
だって、ずっとレヴァンの背中を追いかけていたから。
彼がいなくなったら、どうしていいのかわからない。
そんなの、想像もしたくない。
でも、レヴァンはレヴァンだった。
いつも、僕が一番欲しい言葉をくれる。
「一緒に来るか」
迷う気持ちはなかった。僕の思いが伝わるように、必死に何度も頷く。
僕はずっとレヴァンの背中を追いかけていたから。
レヴァンの行くところが、僕の行くところ。
昔のようにレヴァンが頭を撫でてくれる。
マノスに触れられた時は死にたくなるくらい気持ち悪かったのに、今は……すごく安心する。
きっとここが、僕のいる場所だから。
◇◇◇
そうして、僕たちの新たな旅は始まった。
レヴァンが適当に選んだ目的地は、グランウッド地方という遠く離れた辺境だった。
何もわからない新しい場所に不安がないわけじゃなかったけど、レヴァンに置いていかれるかもしれないと必死だった時に比べれば何も怖くない。
「グランウッドについたらどうする? 二人で木こりでもやるか」
「あはは、それもいいかもね!」
なんだっていい。これからもレヴァンの背中を追いかけていられるのなら、冒険者でも木こりでもなんだったいいんだ。
地図を眺めながらぶつぶつと何事か呟く背中を見ながら、僕はそっと微笑んだ。
……これからも、ずっと一緒だよ。




