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35 本音と建前

「いやー焦ったよ! てっきりぼくのいない隙にフィロをたぶらかそうとする間男かと」

「アホか。そもそもわらわが何をしようがお主には関係なかろう」

「またまた~、ぼくと君の仲じゃないか!!」


 あの謎の銀髪少年はフィロメラさんに冷たくあしらわれても、それでもデレデレと締まりのない笑みを浮かべている。

 ……なんだろう、これ。


「フィロメラさん、その人は……」

「こやつは、わらわの昔の仲間の一人じゃ。あれじゃ、パーティーメンバーという奴じゃな」


 昔……っていつくらいの話なんだろう。

 目の前の少年は、どう見ても俺より年下なんだが。


「えー、他にもっと紹介の仕方があるんじゃないの? 将来を誓った仲だとか、運命の相手だとか」

「お主のその話の通じなさは相変わらずじゃな……」


 ……なるほど、彼氏だとかなんとか言ってたのはこの銀髪少年――アリオンとか言ったっけか。

 彼の思いこみだったと言う訳か。

 世の中には面倒な奴が意外と多いんだな……。


「……で、見て欲しいって言うのはこの子でよかった?」

「ふむ、そやつもじゃが……もっと深刻なのはもう一人の方じゃな。そろそろ帰ってくるはずじゃが……」


 フィロメラさんがちらりと入り口の方へ視線を向けた時、ちょうどタイミングよく声が聞こえた。


「ただいまー」


 聞きなれたセリスの声だ。

 やがて足音が聞こえ、セリスが俺たちのいる部屋へとやってくる。

 そして、アリオンを見ると少し驚いたように目を丸くした。


「あっ、お客さんですか? そうだ、ちょうどリンゴ貰ってきたから剥いて……」

「……なるほどねぇ」


 アリオンはセリスを見て何か納得したようにうんうんと頷いている。


「これは厄介そうだ」

「あの……?」

「いや、気にするでない、セリスよ。こやつはわらわの昔の仲間で、お主にかけられた呪を調べるために呼んだんじゃ」


 なるほど、そういうことだったのか。

 そう言えば前に「昔の知り合いをあたってみる」みたいなこと言ってたっけな……。


「まぁ、今日はもう遅い。面倒ごとは明日にするぞい!」

「わーい、フィロのごはんが食べたーい!!」

「あっ、ぼく手伝います!!」


 厨房へ向かったフィロメラさんをセリスはぱたぱたと追いかけて行った。



 ◇◇◇



「それでさ、昔はよくパーティーでいろんなところを廻ったんだよね。天空の城とか海底神殿とか」

「極寒の地で危うく凍死しかけたこともあったのぉ」


 どうやらフィロメラさんとアリオンは以前同じパーティーに所属していたようで、そこで他の仲間と共にいろんな冒険を繰り返していたようだ。

 俺も冒険者の一人として、そういう話は聞いているだけで楽しくなってくる。

 それにしても、フィロメラさんとアリオンのパーティーはかなり色々なところに行ってたみたいだ。

 天空の城とか海底神殿とか……俺は全然行ったことない!


「へぇ、すごいんですね!」


 セリスも話を聞いて楽しそうに笑っている。

 いきなりフィロメラさんを誑かそうとする間男だと勘違いされて、やばそうな魔法で殺されかけて……アリオンはとんでもない奴だけどこうしてみるとそう悪い奴でもなさそうなんだよな。

 おそらく……今の話を聞く限りはアリオンは見た目通りの年齢じゃない。

 エルフみたいな長命種族なのか?


「あぁー、久しぶりにフィロの手料理が食べれて嬉しいよ、できれば毎日僕のためにスープを作って欲しいなーって」

「抜かせ。なぜわらわがそんなことをせねばならんのじゃ」

「うそうそ、僕が毎日フィロのためにスープを作るよ!」

「お主の料理は酷すぎる。不死鳥の火山でお主の料理に当たって全員が撤退を余儀なくされたことをわらわは忘れてはおらぬぞ……」


 フィロメラさんもかなり変わった人だと思ってたけど、アリオンも相当だな……。

 ある意味割れ鍋に綴じ蓋って感じか。

 まぁ口には出さないけど。


 その日、アリオンは庵に止まることになった。

 フィロメラさんは宿屋へ行けとぶつぶつ呟いていたけど、セリスがさっさと客間の準備を済ませたらアリオンはここぞとばかりに客間に入り込んでしまったのだ。

 まぁ、わざわざ呼んどいて宿屋に行けってのもちょっと失礼だよな。

 そんな常識が通じる相手なのかはわからんが。


「じゃあ君たちのことは明日じっくり見せてもらうから! おやすみ~」


 能天気な笑みを浮かべて、アリオンが客間へと引っ込んでいく。


「……まぁ、あんな奴じゃが知識と観察眼だけは確かじゃ。ダメもとで見てもらっても損はないであろう」


 やれやれと肩をすくめたフィロメラさんも自室へ引っ込んでいく。

 俺とセリスも顔を見合わせて、ほっと息をついた。


「ちょっと変わってるけど、おもしろい人だったね」

「……俺は殺されかけたけどな」

「え、なんで!? レヴァンなんか失礼なことしたんじゃないの!?」

「お前なぁ……」


 お前のその俺に対する信用のなさはなんなんだよ!

 大きくため息をつくと、セリスはくすくすとからかうように笑った。


「でも、僕はちょっとわくわくしてるんだ。もしかしたら、やっと元の体に戻れるかもしれないしね!」

「あー……」


 そうか、アリオンの力でセリスが女になってしまった原因と解決法がわかれば、セリスは元の男に戻る。

 俺だってそれを望んでいた。

 女なんて面倒だって、前みたいに気安い男同士の方が楽だって思っていた。

 それも間違いじゃないけど……


「…………」


 ついつい、視線が吸い寄せられる。

 窓の外を眺めながら明日の天気について話すセリスの……胸元に。

 ……いやいやいや!

 何考えてんだ俺!

 そういうのはやめるって決めただろ!!


「そうだな! お前がもとに戻ると思うとせいせいするよ!」

「なにそれー」


 そうだ、それが俺にとってもセリスにとっても一番いいはずなんだ。

 でも……心のどこかで残念に思うのは、確かなんだよな。


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