表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/56

31 はた迷惑な乱入者

 翌朝、今日はどうしようかと考えながらのんびりしていると、庵の戸を叩く音がした。

 フィロメラさんは朝から外出中で、今ここにいるのは俺とセリスの二人だけだ。

 フィロメラさんに何か用があったのだろうか、と扉を開けて、俺は驚いた。


「……な、なんだお前は…………!」


 開口一番、鎧を身に着け花束を手にした見知らぬ男がそう叫んだのだ。

 ……いやいや、お前こそ誰だよ!


「なんだ、フィロメラさんの客か?」

「フィロメラ? あの美しいエルフの名前か?」

「エルフ……?」


 フィロメラさんは美人だけどエルフじゃない。

 ってことは……


「レヴァン、どうしたの? お客さんは……っ!」


 声を聞きつけたのかセリスがやってくる。

 その途端、やってきた男は目を輝かせ、セリスは対照的に顔を歪ませた。


「あぁ、やはりここにいたのか……!」


 男は俺を押しのけると、ずかずかと上がり込み絶句するセリスに花束を差し出した。


「是非とも俺の元へ来てくれ!」


 …………なんだこれ。

 意味が分からずぽかーんとしていると、ひっと息をのんだセリスが素早く俺の背後に逃げてきた。


「む、無理無理無理……!」

「なぜだ! というよりもなんだ貴様は!」

「えー……」


 むしろ俺の方が聞きたい。

 いきなりやってきたお前は何なんだよ!


 ドン引き状態の俺とセリスに男は何やらぎゃあぎゃあとまくし立ててくる。

 さてどうするか……と頭を悩ませていると、外から何人かの声が聞こえた。


「トマシュ、何をやってるんだ!!」


 何人かの男がやって来たかと思うと、慌てたように花束男を取り押さえた。

 そして、その中のリーダー格の男がぺこぺこと俺たちに向かって頭を下げる。


「すまない、驚かせて」


 ……そこで、俺は気づいた。

 こいつ、昨日ちらっと見た冒険者パーティーの男だ。

 そうすると、今ここに集まっているのはバシルが言っていた今この町に滞在してるパーティーなのか……?


「昨日から諦めるよう言い聞かせていたんだが、誰かに君の居場所を聞いたらしく……すまなかった」


 さっぱり状況のわからない俺を置いて、リーダー格の男は済まなさそうにセリスに謝罪していた。

 セリスはじっとその言葉を聞いている。


「放せ! そいつが邪魔しなければうまくいっていた!!」

「だからやめろって!!」


 トマシュと呼ばれた花束男は、周囲に抑えられながらも憎悪を滾らせた目で俺の方を睨んでいる。

 おいおい、さっき初めて会ったばっかりなのになんなんだよその態度は!


「お前が彼女をたぶらかしたんだろう!」

「はあ? 意味わかんねーって!!」


 さっぱり状況が分からない。

 またあらためて謝罪に来ると告げ、リーダー格の男と仲間たちは花束男を引きずるようにして去っていった。

 ……本当になんだったんだよ。


「なんなんだよあいつら、なぁセリ――」


 セリスの方を振り返り、俺は驚いた。

 セリスはぎゅっと唇を噛んで、あのパーティーが出て行った扉を睨みつけていたのだ。

 かと思うと、セリスは視線を下げどこか切なげにため息をついていた。


「…………ごめん」

「いいや、別にいいんだが……なんだったんだ?」


 そう尋ねると、セリスは少し躊躇したような様子を見せた後……ぽつぽつと話してくれた。


「昨日、僕が代打でギルドの受付やったじゃん」

「そうだったな」

「それで、レヴァンが来るちょっと前に……あのパーティーが来たんだ」


 そういえば、俺がギルドに到着する寸前にあのパーティーの後姿を見たんだった。


「その、さっきの花束持ってきた奴が……あの……僕に、惚れたとかなんとかいきなり言い出して……昨日はすぐに退いてくれたんだけど」

「…………なるほど」


 ……そういうことだったのか。なんとなく事情が見えてきた。

 確かに今のセリスはかわいい。一目ぼれしてしまう気持ちもわからないでもない。

 大方町の誰かにセリスの居場所を聞いて、いざ来てみたら俺が出たから怒りだしたって所だろう。

 俺は理不尽にも巻き込まれた訳だな。


「……もう、意味わかんないよ」

「あんま気にすんなよ。あのリーダーはしっかりしてそうな奴だったし、あいつらもいつまでもここにはいないだろ」

「うん……」


 セリスはだいぶ落ち込んでいるようだ。

 まぁ、女になっただけでもわけわからないのに、いきなり初対面の奴に惚れられて居場所まで突き留められ迫られるとか、よく考えれば怖すぎるな。


「外、行くときは声掛けろよ。ついてくから」

「……ありがと」

「気にすんな。俺とお前の仲だろ」


 そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でると、セリスはやっと安心したように笑った。

 その笑顔に何かが溢れそうになるのをなんとか押さえ、一応剣の手入れでもしとくか、と部屋に戻る。


 ……俺はマノスやさっきの奴とは違う。

 絶対に、セリスを怖がらせたり傷つけたりなんかしない。していいはずがない。

 あらためて、自分にそう言い聞かせる。



 ◇◇◇



 そして翌日。

 昨日と同じ時間に、また扉を叩く音がした。


「……俺が出る」


 表情が曇ったセリスと不思議そうなフィロメラさんを制し、俺は警戒しつつ扉を開けた。

 果たしてそこにいたのは、昨日の花束男だったのだ。


「お前なぁ……いい加減にしろよ」

「いい加減にするのは貴様の方だ! 貴様が彼女をここに閉じ込めているのではないか!?」

「だから……」

「だいたい、貴様は彼女のなんなんだ!?」


 そう問いかけられ、一瞬返答に詰まってしまう。

 何故だろう。別に、答えにくいことなんて何もない。

 セリスは俺の幼馴染で、親友で、今もパーティ―を組んでいる仲間だ。


「俺は――」

「いいや、何だっていい! 彼女はお前に騙されているに決まっている!!」


 うわ、こいつはやべぇ……。

 そろそろ縛り上げてあのリーダーの所に返品するか……と考え始めた時、花束男はとんでもないことを言い出したのだ。


「彼女をかけて俺と決闘しろ!!」


 …………は?


「ちょ、何言って……!」


 決闘、という言葉を聞きつけたのか、奥からセリスがぱたぱたと走ってきた。


「ご安心ください! すぐにこの男をぶちのめしあなたを解放して見せます!」

「だから! 僕は――」

「……わかった、受けてやるよ。日時と場所を指定しろ」

「え、何言ってんのレヴァン!!」


 セリスが慌てたように俺の服を引っ張るが、俺は自分の発言を撤回はしない。

 なんていうか……そろそろ我慢の限界だ。

 この花束男も俺をボコボコにしたがってるだろうが、それは俺も同じだ。

 この勘違いストーカー男を合法的にボコってやりたくて仕方ないんだよな……!


「……明日の正午、広場で」

「わかった。俺が勝ったら二度とこいつに近づくな」


 花束男は頷き、来た時とは打って変わって静かに庵を後にした。

 さすがのあいつも、決闘で決められたことは守らざるを得ないだろう。

 セリスの苦労も、明日までだ。


「そんな、相手の実力もわからないのに……!」

「安心しろ、絶対に勝つ」


 セリスは不安そうにしていたが、不思議と俺の方はまったく負ける気がしないんだよな。

 むしろ、明日の決闘が楽しみなくらいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ