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30 受付嬢セリス

 ダンジョンで手に入れたアイテムは、売り払うとそれなりの金になった。

 家賃と今までのお礼にフィロメラさんにいくらか渡し、残りは貯金だ。

 うーん、やっぱりいつまでもここにいるわけにはいかないよな……。そろそろ家探しをするべきだろうか。


 それと効果のわからないポーション類はとりあえず保管しておく。

 セリスに飲ませたら男に戻ったりしないだろうか。でも効果がわからない以上不用意に飲ませるわけにはいかないよな……。


 サフィラはまたすぐにダンジョンに行きたいと張り切っていたが、あいつには食料品店の仕事もある。

 ダンジョンまで遠いのもあって、ここからダンジョンに向かい、また帰ってくるまで到底日帰りでは済まない。

 ダンジョン攻略に向かうのはそれなりに予定の開いてる時だな。

 それまでは、またちまちま依頼をこなす日々だ。

 庵の外で剣を振っていると、水を汲んでいたセリスがふと思い出したように声をかけてきた。


「そうだ、レヴァン。僕明日一日ギルドの受付やることになったから」

「なんだ、どうしたんだ?」

「リアナがどうしても外せない用事があるみたいで、クロエもサフィラも忙しそうだったから僕が代わることになったんだ」

「へー、まぁ頑張れよ……」


 ちょうど明日は何か依頼をこなそうと思ってたし、冷やかしに覗きに行ってやるか。



 ◇◇◇



 そして翌日、セリスは朝早くから出かけて行った。

 今日一日はあいつがギルドの受付嬢か。

 ……よし、ちょっとからかってやろう!



「あっ、レヴァン! 今からギルド行くのか!?」


 ぶらぶらギルドに向かって町中を歩いていると、雑貨屋の息子で不本意ながら俺の弟子となった少年、バシルが声をかけてきた。

 しかし師匠を呼び捨てとはいただけないな……。

 まぁ礼儀を叩き込むのはまた別の日でもいいだろう。


「そうだ。お前は仕事か?」

「そうそう、配達の途中!」

「へぇ、子供なのに偉いな」

「ふふん、俺は偉大な冒険者になる男だからな! こんくらいなんでもないんだよ!!」


 バシルは小さな体を精一杯反らすようにして胸を張っている。

 その態度はむかつくが、俺がバシルくらいの時はひたすらセリスと一緒にその辺を駆け回って遊んでいたような気がする。

 そう考えると偉いな。


「そうだ、今この町に他のとこから冒険者のパーティーが寄ってるんだよ」

「へぇ、どんな奴だ?」

「6人くらいのパーティーで、結構強そうだったぜ! なぁなぁ、レヴァンは冒険者同士決闘したりすんのか!?」

「いや、しないだろ……」


 キラキラした瞳でそう問いかけられ、俺は小さくため息をつく。

 バシルは俺とそいつらの決闘をお望みのようだが、俺としてはわざわざ喧嘩を吹っ掛けるような真似はしないつもりだ。

 少年よ、魔物相手ならともかく人間同士は平和が一番だぞ。


「あっ、やば! そろそろ行かないと!」

「じゃあな、仕事がんばれよ」

「レヴァンもな!!」


 やっぱり師匠に対するにしては生意気な口を利きながら、バシルは慌てたように走っていった。

 それにしても、冒険者のパーティーか。

 もちろん喧嘩を吹っ掛けるつもりはない。

 どのくらいここに滞在するのかわからないが、うまくいけば一緒に依頼に出たりダンジョン攻略に付き合ってくれるかもしれない。

 そんなことを考えながらギルドへ向かうと、ちょうど件の冒険者らしきパーティーが町の入り口の方へ歩いていくのが見えた。

 なるほど、以前の俺たちと同じように男ばかりのパーティーだ。

 装備を見る限り、それなりに経験を積んだパーティーに見える。

 挨拶くらいしようかとも思ったが、ちょうど今から出かけるような雰囲気だし邪魔するのも悪いだろう。

 まだこの町に滞在するならいずれその機会も訪れるはずだ。

 そう考え、そのままギルドの扉を開ける。


「おっ、いるな!」


 受付では、セリスがちょこんといつものリアナの位置に座っていた。

 こうしてみると、美人エルフの受付嬢って感じだよな。

 近づいていくと、セリスは少し照れたような顔をした。


「……なに、文句あるの」

「まだなんも言ってないだろ。まったく口の悪い受付嬢さんだな」

「嬢じゃないし……」


 セリスは小声でそう呟くと、照れたようにぷい、と顔をそむけた。

 その態度に苦笑しつつ、掲示板で手ごろな依頼を探す。

 今日は俺一人だし、ダンジョン攻略の疲れがまだ残ってるし採取依頼でいいか……。


 依頼書をセリスの元に持っていくと、セリスはどこかぎこちない手つきで処理をしてくれた。

 そこで、ふと先ほどの冒険者パーティーの姿を思い出す。


「そういえば、さっきよそから来た冒険者パーティーがここに来なかったか?」


 そう尋ねた途端、セリスの耳がぴくりと動いた。


「…………来たけど、それがなに」

「いや、どんな人たちなのかと思って……で、何怒ってんだよ」

「別に、怒ってないし……」


 セリスはどこか不機嫌そうに眉を寄せている。

 朝出かけるときは普通だったし、慣れない受付の仕事で緊張しているんだろうか。


「……迷宮都市でよく見た感じのパーティーだった。別に、取り立てて変わったところはないと思う」

「そうか、しばらくここにいるなら一緒にダンジョン攻略とか行けないかと思ってさ」

「えっ!?」


 別にそんなに変なことを言ったつもりはないのだが、セリスはどこか嫌そうな声を上げた。

 本当に、どうしたんだ?


「別に……僕とレヴァンとサフィラの三人でいいじゃん……!」


 明らかに嫌そうなその態度に、俺はすぐにその原因に思い当たった。


 ……以前も、俺たちは男だけのパーティーに所属していた。

 それがいきなりセリスが女になって、それでマノスのあの騒動だ。

 セリスが男だけのパーティー、もっと言えば男の冒険者に忌避間を持っていてもおかしくはない。

 ずっと一緒にいた幼馴染の俺や女であるサフィラは平気でも、よく知らない男と一緒にいればどうしても嫌なことを思い出すのかもしれない。


 ……駄目だな、俺は。

 またセリスを傷つけてしまった。


「……そうだな、俺たち三人だけで十分だ。前のボスも余裕だったしな」


 そう言うと、セリスはほっとしたように笑った。

 軽く小さな頭を撫でて、俺も冒険者ギルドを後にする。


 そうだ、急ぐことはない。

 ダンジョンの攻略だって、三人でゆっくり進んでいけばいい。

 この穏やかな町で、のんびり暮らすことがセリスにとってはいいはずだ。

 俺は、ただその暮らしを守っていきたい。


 ……しかし、嵐は突然訪れるものだということを、俺は忘れかけていた。


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