24 塗り薬を作ります
起きたらいきなりレヴァンが沢に突っ込んでて驚いたけど、なんとか僕の採取は無事に終わった。
短時間だったけど昼寝もできたので頭はすっきりだ。
レヴァンには散々ああいう風に無防備に寝るのはやめろって怒られたけど、ああいう自然の息吹を感じられる場所で……何よりもレヴァンが傍にいると思うとどうしても安心して眠くなってきてしまう。
自分でも不思議だけど、少なくとも他の人と一緒の時はそんな風にならないので大丈夫だろう。
「もう、びしょ濡れじゃん。なんでいきなり沢に入ったんだよ」
「セリス、男にはやらねばならん時があるんだ……」
「えー」
帰り際にレヴァンに問いかけると、彼はなぜか真剣な顔をしてそんなことを言っていた。
駄目だ、わけが分からない。
僕も男だけど、いきなり沢に突っ込むのは意味わかんないなぁ……。
庵に帰ってすぐレヴァンを着替えさせ、僕は薬の作成に取り掛かる。
今回作るのは、フィロメラさん特性の塗り薬だ。別に誰かに頼まれたってわけでもないんだけど、作っておいて損はないだろう。
レヴァンとサフィラは相変わらずダンジョンに挑戦する気満々だ。
ダンジョン中ではどんな危険があるかわからない。怪我したときに傷薬がない!……なんて事態は僕も避けたい。
「よーし、頑張ろっと!」
僕は戦闘面ではどうしてもレヴァンやサフィラほどの活躍はできない。
だったら、二人をサポートするように頑張っていこう!
鍋に湯を沸かし、取ってきたハチの巣を溶かしていく。
溶け出た蜜蝋を掬い、濾して、余計なごみを取り除いていく。
フィロメラさんのノートの記述は丁寧で、初心者の僕でも何とかそれっぽい作業はできるからすごいものだ。
でもどうみても見た目より色々知ってるし、喋り方は不思議だし、一体あの人は何者なんだろう……。
……なんてことを考えながら何度もその作業を続けると、澄んだ黄色の蜜蝋が手に入る。
元々蜜蝋は雑貨屋で買うつもりだったけど、偶然とはいえハチの巣が手に入ってラッキーだった。
なんとなく、レヴァンと一緒にいると僕一人の時よりもいいことがたくさん起きる気がする。
案外、レヴァンってそんな能力があるのかもね!
さて、蜜蝋を容器に移し次の段階だ。
ゴマ油を薬精製用の釜に入れ、ひたすらぐつぐつと煮立てていく。
うっかり火事になったら大変なので、じっとその様子を見守る根気のいる作業だ。
その間に取ってきた植物を刻んだりしながら、僕はちらちらと釜の様子を伺った。
ちょっと心配だったけど、今のところ順調に薬作成は進んでいるみたいだ。
しっかりと加熱出来たら、蜜蝋とラードを加え更に煮立てていく。
ちゃんとできるかな、とドキドキしながら、額の汗をぬぐう。
ある程度煮立てたら、いよいよ採取してきた植物の投入だ。
レヴァンと一緒に採取したアンゼリカ。その根を布で包み、しっかりと縛り、釜の中に投入する。
こうすることでアンゼリカの成分が抽出される、とフィロメラさんのノートには記されていた。
ブクブクと泡が立ち、植物の独特の香りが漂ってくる。
十分に抽出できたら取り出し、次は一緒に取ってきた紫草の根を同じように抽出する。
またブクブクと泡が立ち、釜の中身が紫色に染まっていく。
十分に色がついたところで紫草の根を取り出し、後は釜の中身を濾していく。
そうしてできたものを冷やして、容器に入れたら……特性塗り薬の完成だ!
「うーん、見た目は大丈夫そうだけど……」
出来上がったものの形状や色はフィロメラさんのノートの記述とほぼ一致している。
あとは、ちゃんと効果があるかどうかだね!
「レヴァーン、いるー?」
声を掛けるとすぐにレヴァンが顔を出した。
「どうした? 何かあったのか?」
「うん、ちょっと脱いでもらっていいかな?」
塗り薬の効果を試したくてそう告げると、レヴァンは動きを止めた。
それはもう、ぴたりと止まった。息をしているかどうか心配になるくらいだ。
「え、どうし……」
「セリス! お、お前何を作ろうとしてるんだ!?」
レヴァンはなぜか慌てた様子で僕の両肩をがしっと掴んできた。
「俺を脱がせてナニを採取するつもりなんだ!!?」
「え?…………えええぇぇぇぇぇ違うよ! 違うって!!」
「お前、絶対他の奴にこんなこと言うなよ!! とんでもない対価とか要求されるぞ!!」
「ちょっと待って! 絶対勘違いしてる!!!」
レヴァンがとんでもない勘違いをしているのが分かって、僕は瞬時に全身真っ赤になった。
違う、レヴァンを脱がせて何かを採取しようとしたんじゃない!
脱いでって言うのはそういう意味じゃない!!
何を言ってるんだ僕の幼馴染は!!
「く、薬はもうできてるからああぁぁぁ!!」
「ぐふぅっ……!」
とっさにパンチを叩き込むと、あわあわしていたレヴァンは勢いよく背後へとふっとんだ。
はっ、とっさのことで全力で殴ってしまった!
「ごめんね、ごめんねレヴァン!……あ、薬の効果試すのに丁度いいかも」
「お前のそのドライなところ……嫌いじゃないぜ?」
薬はもうできてるし効果を試すために脱いでほしかったと伝えると、レヴァンはやっと僕の言いたいことが分かったのか頷いてくれた。
服を脱いで上半身裸になったレヴァンの腹部には、さっき僕が殴った痕がついていた。
うわ、ちょっと痛そう……。
できたばかりの塗り薬を指に取り、レヴァンの体に塗りつけていく。
「ど、どうかな……?」
「……お前、他の奴に頼まれた時は自分で塗らせろよ」
「うん……?」
レヴァンはちょっと気まずそうな顔をして目を逸らしていた。
まぁ、痛くはないなら……それでいいのかな。
「ちょっとすーすーする」
「よかった。フィロメラさんのノートにもそう書いてあったんだ」
即座に効果が出るものではないし、さっき殴った所はこのくらいでいいだろう。
後は、他の箇所だ。
「この前ワイルドベアと戦った時、いくつか傷できてたよね」
「……気づいてたのか」
「当たり前。ほら、見せて」
この前ワイルドベアと戦った時、レヴァンは一番前で攻撃を受け止めてくれていた
剣と軽鎧でだいぶ緩和されたみたいだけど、さすがにすべての攻撃をよけ切れた訳じゃない。レヴァンが平気そうにしてたから何も言わなかったけど、多少の怪我は負っているはずだ。
せかすと、レヴァンはしぶしぶといった様子で怪我をした箇所を見せてくれる。
打撲……って感じだけど内出血をしたのか皮膚の色が変わっている。
そこにも、丁重に塗り薬を塗り込んでいく。
「……あんまり無理しないでよ」
「別にしてねぇよ。冒険者だったらこのくらい普通だろ」
「そうだけどさ……」
「あ、でも……」
レヴァンは顔を上げると、何でもない顔をして言い放った。
「お前の綺麗な肌に傷がついたらもったいないな」
綺麗な肌……?
誰のことを言ってるんだろう。ここには、僕とレヴァンしかいない。
僕と、レヴァンしかいない……。
…………綺麗って、僕のことか!!?
そう理解した途端、全身が沸騰しそうなくらい恥ずかしくなる。
き、綺麗ってなんだよ! それが男に、親友に言う言葉か!?
別に、似たようなことを言われたことがないわけじゃない。むしろありすぎるくらいだ。
でも……物心ついた時から一緒にいた幼馴染にそんなことを言われたことはなかった!!
「おい、セリス。どうし――」
「レヴァンのばかあああぁぁぁぁ!!!」
ついに恥ずかしさが頂点に達して、僕は再び彼にパンチを繰り出してしまったのだ……。




