22 女の子はデリケートなんです
なんとかワイルドベアを倒して、俺たちはギルドへ帰還した。
扉を開けた途端、リアナが慌てた様子で近づいてくる。
「おかえりなさい! 大丈夫ですか!?」
「大勝利だって! ね? レヴァン、セリス!」
リアナはやたらと嬉しそうなサフィラとその後ろでぐったりした俺とセリスの様子を見て、何か察したようにあいまいに笑った。
報酬換算はサフィラに任せて俺とセリスが隅のテーブルについてぐったりしていると、あまり姿を見ないギルドのマスターがやってきて、エールがなみなみと注がれたグラスをどんっと置いた。
「飲め、俺のおごりだ」
「え、いいんすか?」
「ありがとうございます……!」
「マスター私もー!」というサフィラの声を聴きながら、俺とセリスは顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、俺たちの勝利に乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
乾いた喉にエールが染み渡る。
これだから冒険者はやめられないぜ!
「なんか、この瞬間が一番冒険者やってるって気がする……!」
「同感だな」
戦闘後の高揚も相まって、俺たちは勝利の美酒に酔いしれた。
◇◇◇
「うーん……」
翌朝、セリスは朝っぱらから何やらうんうんとうなっていた。
「どうした。便秘か?」
「違うよ! 何言ってんのさ!!」
ただの冗談なのにセリスの奴は顔を真っ赤にしてポカポカと殴り掛かってきた。
まったく、こいつ煽り耐性ないよな……。
「そうじゃなくて……昨日のワイルドベア、変だったと思ってさぁ」
「あぁ、執拗にお前を狙ってたな」
「なんで、だろう……」
どこか不安げな顔で、セリスはぽそりと呟く。
俺も思い返してみたが、今までダンジョンを攻略したり野生のモンスターと戦ったりする中で、セリスだけがあそこまで執拗に狙われたことはなかった気がする。
だったら、女になってからに何かが……?
「なぁ、セリス。ちょっと聞いていいか?」
「なに?」
「先に言っておくが、まったく他意はないんだ。お前、生理中だったり……うぐぉ!!」
別にやらしい意図はまったくなかったのだが、そう言った途端セリスは涙目になってエルフパンチを繰り出してきた。
「いってーな、なにすんだよ!」
「レレレレヴァンこそ何言ってんだよ! せ、生理とか……」
「そんくらいで照れるとかお前こそなんなんだよ」
「うるさいうるさい! レヴァンの馬鹿!!」
真っ赤な顔で殴り掛かってきたセリスの拳を受け止め、俺は驚くセリスに告げる。
「だから真剣な話をしてるんだって! 獣なら血の匂いに反応したりすんだろ」
「なんだ、ほんとに真剣に考えてたんだ……」
セリスはやっと落ち着いたように身を引いた。
こいつ、俺がスケベ心だけでそんなこと聞いたと思ってたのか……。心外すぎる。
「…………違う」
「え、なにが?」
「だから……その、せぃりちゅう……とかじゃないから!!」
セリスは泣きそうな顔でそれだけ言うと、ソファの上に置かれていたクッションに顔を突っ込んでじたばたし始めた。
特徴的な長い耳が真っ赤になっている。
「レヴァンよ、おなごにとってそれはデリケートな話題じゃ。不用意に口にするでないぞ」
言葉とは裏腹ににやにやしながら成り行きを見守っていたフィロメラさんがそう声をかけてくる。
彼女の方を振り返ると、思わずため息が出てしまった。
「おなごって……セリスは男ですよ?」
「今は乙女じゃ。乙女の扱いは慎重にな」
混乱を避けるために基本的にセリスが元は男だということはこの町の人には黙っているが、フィロメラさんには、セリスが女になった一連の経緯の話をしてある。
何か元に戻す方法を知っていれば教えて欲しいと頼んだのだが、彼女にも元に戻す方法はわからないようだ。
「はぁ、めんどくせぇ……」
「そう言うでないわ。女の扱いを心得てこそ一人前の男なんじゃぞ」
俺としては早くセリスに男に戻ってほしい。
ちょっと惜しいような気はするが、やっぱり男同士の方が色々気兼ねしないしな。
「ふむ、しかしここまでまったく元に戻る気配がないとなると不可思議じゃな……」
「なんとかならないんですか?」
「わらわの旧友をあたってみようぞ。何か知っているやもしれぬ」
それだけ言うと、フィロメラさんは優雅な動きで私室へと引っ込んでいった。
「うーん……」
手持ち無沙汰にクッションに突っ伏したままのセリスの耳をくすぐると、またしてもエルフパンチを喰らってしまった。
◇◇◇
「よっ、熊殺し!」
セリスと二人でギルドへ行くと、昼間っから酒を飲んで盛り上がっていた親父どもに囃し立てられてしまう。
「熊殺しって、なんか微妙だな……」
どうせなら竜殺しとかなんちゃらスレイヤーとかかっこいい二つ名で呼ばれたいものだ。
そう零すと、セリスはくすりと笑った。
「千里の道も一歩から、だよ。まずは地道にいかないと」
「はいはい、わかってるよ」
もう俺の怪我もかなり良くなっている。先日のワイルドベア戦では戦いの勘もだいぶ取り戻せていたし、そろそろダンジョンに挑んでもいいのかもしれない。
いつまでもフィロメラさんの所に世話になるのも迷惑だし、金を貯めて家を借りるのも視野に入れなければならないだろう。
「……何はともあれ仕事だな」
「そうそう、真面目にね」
セリスに背をつつかれ、俺は依頼書の貼られた掲示板に目を通し始めた。




