21 激突、ワイルドベア!
セリスは持ってきたロープとあたりの草を使い、器用にスネアを作っている。
ハチミツといくつかの簡単な罠も設置して、あとは待ち伏せだ。
「お昼作ってきたんだ。今のうちに食べちゃおうよ。ほら、サフィラも」
「うわー! ありがとセリス~!!」
セリスが作ってきたのは、香草で味付けした肉やトマトやレタスをパンに挟んだサンドだ。
そう言えば朝早くからバタバタしてたな……と俺は思い出した。
きっと、俺たちの分も頑張って作ってきたんだろう。
「ありがとな、助かるよ」
有難く頂きがぶりと噛みつく。
じゅわりと口内で肉汁が溢れ、いい具合にハーブの効いた香ばしい味わいが広がる。
「おっいしー! いいなぁレヴァンは」
「俺? なんで?」
「いーや、私もセリスみたいなお嫁さんが欲しいなーって思って」
「だ、だから僕たちは全然そんなんじゃないからっ!!」
にやにや笑うサフィラに、セリスは真っ赤になって抗議していた。
まったく、不本意なのはわかるがそんな風に反応すればそういつを喜ばせるだけだぞ……と言いかけた言葉を、トマトと共に飲み込む。
またよくわからない所で興奮したセリスにエルフパンチを喰らうのは勘弁だ。
どこがそう見えるのかはわからないが、サフィラやクロエはよく俺たちのことを「夫婦」なんて呼んでからかってくる。
セリスはそのたびに子犬のようにきゃんきゃん反応しているが、そんな事実はないんだから堂々としていればいいと思うんだけどな。
きゃいきゃいと喧しい声を聞きながらの朝食を終え、俺たちはいよいよ待ち伏せの体制に入った。
ここから先は忍耐力の勝負だ。
いつもはやかましいサフィラも、さすが冒険者というだけあって獣のような目つきでじっとあたりを警戒している。
俺たちはそのまま、いずれ訪れるであろう時を待った。
そして、陽も落ちかけてきた頃……
真っ先に反応したのは、セリスだった。
セリスの特徴的な長い耳がびくりと跳ねる。
その反応で、俺はターゲットが近づきつつあるのを悟った。
サフィラが音を立てないように得物を構えた。俺も、いつでも飛び出せるように体制を整える。
そして、ワイルドベアは姿を現した。
……想像以上に、でかい。
真っ黒な巨体が、のしのしと音を立ててこちらへと近づいてくる。
そして、ワイルドベアは仕掛けられたハチミツの少し前で立ち止まった。
まさか、罠の存在に気づいたのか……?
俺はぐっと緊張で汗ばんだ手で剣を握り締める。
ワイルドベアはしばらく立ち止まっていたが、ハチミツの魅力には逆らえなかったんだろう。
一歩、足を踏み出した。
その途端、セリスの仕掛けたスネアが作動する!
「今だ! 一気に叩くぞ!!」
「おう!!」
俺とサフィラは一気に隠れていた場所から飛び出した。
ワイルドベアはトラップに掛かってもがいている。動きを封じられている今がチャンスだ……!
俺が先にワイルドベアの元へと走り寄り、軽く切りつける。
ワイルドベアは激高したように爪を振り上げ殴り掛かってきたが、素早く背後に飛びのいてその攻撃を避ける。
その隙に、サフィラが二撃目を叩き込んだ。
「二人とも、気を付けて!」
セリスの声が聞こえて、俺とサフィラは同時にその場から飛びのいた。
次の瞬間、岩場の上に陣取ったセリスの放った矢がワイルドベアの体に突き刺さる。
ワイルドベアは大きくうなり声をあげ、その鋭い眼光がセリスを捕らえた。
次の瞬間だった。
「えっ!?」
ワイルドベアがひときわ大きく暴れたかと思うと、奴は力任せに罠を引きちぎり一気に駆け出したのだ。
その先にいるのは……セリス!
「ちっ!」
ワイルドベアは巨体に似合わない俊敏な動きで岩場を駆け上りセリスへ攻撃を加えようとしたが、身軽さにかけてはセリスに叶うはずはない。
セリスは羽でも生えているかのようなしなやかな動きで岩場から飛び降りると、俺たちの方へと駆けてくる。
「まさかこんなに早く引きちぎられるとはね……!」
「とんだ怪物だな!」
ワイルドベアは獲物を逃したことが気に食わなかったのか大きな咆哮を上げると、再びこちらへと躍りかかってくる。
「俺が受ける! 二人は援護を!!」
すぐに二人からは了解の声が返ってくる。
俺はワイルドベアの注意を引こうとその進路上に立ちふさがった。
だが……
「はっ!?」
ワイルドベアは直前で進路を変更し、俺を避けるようにして一点めがけて駆けていく。
その先にいるのは……やっぱりセリスか!
「なんだこいつ……!」
セリスはすぐさま近くにあった木に猫のようによじ登った。
だが、ワイルドベアも負けじとセリスを追っている。
間違いない、あのワイルドベアは……セリスに狙いを定めている!
「セリス、俺の後ろに!」
「でもっ……!」
「いいから!!」
セリスは小さく頷くと、俺のすぐ背後へと下がった。
そのセリスを追って、ワイルドベアがこちらへと突進してくる。
「おらっ、ふざけんなよ!!」
奴の振り下ろした一撃を、力任せに剣で弾く。
その途端、ひゅっと風を切る音がした。
背後から飛んできた矢がワイルドベアの片目に突き刺さり、ワイルドベアは狂ったように暴れだした。
だが、片目がつぶれて錯乱した状況なら避けるのは苦じゃない……!
「もう一発!」
セリスの放った矢が今度はワイルドベアの眉間に突き刺さる。
ワイルドベアが痛みに大きく仰け反った瞬間――
俺とサフィラが正面と背後から同時に斬りつけ、ワイルドベアの息の根を止めた。
俺たちが飛びのくと、ワイルドベアはそのまま地面に倒れ伏す。
しばらく様子を見たが、もう完全にこと切れているようだった。
「はあぁぁぁぁ……」
安心してずるずると地べたに座り込んでしまう。
実力的には大したことのない相手だが、少人数でかかるのはやっぱきついな……。
今まではパーティー単位の行動が当たり前だったから、その時の意識のままだといろいろと危ないだろう。
一度、動き方を考え直さねば。
「やったー! 勝利勝利!!」
サフィラは嬉しそうに剣をくるくると回している。
……こいつは余裕そうだな。
「いえーい!!」
一人ではしゃぐサフィラを尻目に、俺とセリスは顔を見合わせて苦笑した。




