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20 ベアトラップ

「おっはよー! 今日はよろしくねー!!」


 翌朝ギルドへ向かうと、既にサフィラは準備万端という様子で待ちかまえていた。


「サフィ姉、レヴァンさんとセリスさんに迷惑かけちゃだめだよ」

「わかってるって! このあたりのことなら私の方が詳しいし、持ちつ持たれつってことで!!」


 妹のリアナに釘を刺されても、サフィラは少しも応えた様子がなく俺やセリスの背中をばんばん叩いてきた。

 まったく、朝っぱらからやかましい奴だ。


 とりあえず軽く作戦会議を開く。

 今回の依頼は、人を襲う猛獣――「ワイルドベア」の討伐だ。

 通常の熊よりも大きく凶暴で、迷宮に現れるモンスターにも引けを取らない強さを持つやっかいな害獣だ。

 リアナに確認したところ、例年この秋から冬にかけての時期になるとワイルドベアが現れるらしい。

 今年はまだ被害者はいないが、過去にはワイルドベアに襲われ重傷を負ったり、亡くなった人もいたようだ。


「サフィラ、ワイルドベアの討伐経験は?」

「前にベテランの狩人が中心になって討伐したことがあって、その時に一回だけ。でも、その時私がなんかする前に他の人に倒されちゃったんだよね……」

「なるほど。勝手はわかるが実戦経験としては微妙か……」


 ワイルドベアを見つけるまでの道のりはサフィラに頼ってもよさそうだが、そこから先は俺が中心になって動くべきか。

 俺もワイルドベアとは戦ったことはないが、迷宮都市でダンジョン攻略に明け暮れていた時は、よく似たようなモンスターを相手にしていた。

 基本的な戦法は心得ている。


「基本的に、俺が奴の注意を引き付ける。サフィラはその隙をついて攻撃、セリスは援護を頼む」

「わかった」

「りょうかーい」


 二人は反対意見を唱えることもなく頷いてくれる。

 セリスとはずっと一緒のパーティーでやってきただけあって、こいつの力量はよくわかっている。

 腕力はないが、素早い身のこなしを生かし影から仕留める暗殺者タイプだ。

 それに、戦闘以外の補助にも長けている。

 サフィラとはこの前のゴブリン退治で一緒になって、その戦い方を目にした。

 ……なんていうか、アマゾネスって感じだったな。


 サフィラとセリスなら、セリスの仕草や雰囲気の方がよっぽど女らしい気が……いやいや、こんなことを言えば双方から袋叩きに合ってしまうだろう。

 言わぬが花だな。


「よし、じゃあ行くか!」

「「おう!!」」


 こうして心配そうなリアナに見送られながら、俺たちはギルドを後にした。



 ◇◇◇



「あっ、そこ獣罠が仕掛けられてる。気を付けて」

「あっぶなー! ありがとね、セリス!!」


 うっかり草むらに隠れたベアトラップを踏みそうになっていたサフィラが、慌てたように立ち止まる。

 セリスは慎重にあたりの様子を探り、罠が仕掛けられている場合は的確に教えてくれる。

 その様子はどこか鬼気迫るくらいだった。


 こいつは宝箱の罠解除に失敗したことを気にしてたみたいだし、いつも以上に気合が入っているのかもしれない。

 セリスは本来なら優秀なシーフだ。その実力を十二分に発揮してくれるのならばありがたい。

 それにしても……


「多いな、罠……」


 俺たちは様子見がてらワイルドベアが出没するという山を歩いている。

 そこで気になったのが、罠の多さだ。

 ワイルドベアを捕らえたいという気概はいいのだが、これではうっかり俺たちまで引っ掛かりかねない。


「やみくもに歩くのは危険かもね。どこかにおびき寄せた方がいいかも」

「ていうかほんとにワイルドベアがいるのか?」

「いるよ、ほら」


 セリスはそう言って近くの地面を指差した。


「これ、熊の糞だ。来る途中にいくつか足跡も見たし、この辺にいるのは間違いないと思うよ」

「へぇ~全然気づかなかった!」


 サフィラが驚いたように目を丸くする。

 俺も、足跡までは気づかなかった……。


「あれだけの罠にかからないってことは、運がいいのか頭がいいのか……」

「発動した形跡のあった罠もあったんだ。もしかしたら引きちぎって逃げたのかも」

「うわー、やばいじゃんそれ!」


 サフィラはやばいやばいと騒いでいたが、その表情は興奮を隠しきれていなかった。

 こいつはとんでもない戦闘民族なのかもしれない……。


 このまま歩き続けるよりは待ち伏せをした方が効果的ではないかとセリスが提案し、俺もサフィラもその案に乗ることにした。



 しばらく歩いたのち、岩場に近い場所にたどり着く。


「……うん、このあたりがいいんじゃないかな!」


 セリスは慎重にあたりを調べ、にっこりと笑ってそう告げた。


「身を隠す場所も多いし、ある程度自由に戦える広さもある。岩に登れば緊急避難もできる」

「なるほどねー」


 サフィラが感心したように頷いたのを見て、セリスは荷物を下ろしごそごそと漁り始めた。


「あれ、確かハチミツ持ってきてたはずだけど……」

「あぁ、それなら俺の方に入ってるぞ」


 セリスが昨日用意していた荷物の中に、でかいハチミツの瓶があった。

 重いので俺のバックパックの方に入れておいたのだが、これで熊をおびき寄せるつもりなのだろうか。


「てっきり非常食かと」

「非常食は別に持ってきてる。ハチミツが食べたいならまた買ってくるから手出さないでよ」

「別にそこまで食い意地張ってねぇよ!」

「どうかな~? 昨日の夕飯だってレヴァンがつまみ食いして――」

「おまっ、サフィラの前で恥ずかしいこと言うなよ!!」


 俺にだってプライドはある。いくら相手が戦闘民族アマゾネスとはいえ、同年代の女子の前で恥ずかしい話を暴露するのはやめてくれ……!


 サフィラはぽかんとした様子で俺たちのやりとりを見ていたが、やがて合点が行ったように手を叩いた。


「夫婦喧嘩は犬も食わない!」

「「違う!!」」



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