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2 二人の旅立ち

 セリスは泣きながら俺の方を必死に睨み付けている。

 しかし勝手に……って言われても困るんだよな。


「なんでってそりゃあ……エリックに聞いてんだろ」


 セリスを守るためとはいえ、俺は仲間を殺しかけた。

 例え追放されなかったとしても、以前のようにはいられなかっただろう。

 出ていくのは当然のことだ。


「……聞いてない」

「え?」

「あいつは、何も教えてくれなかった……! この場所だって、街で聞き込みして、やっと見つけて……!」


 セリスはしゃくり上げながら途切れ途切れに言葉を絞り出している。

 その様子が少し可哀そうに思えて、昔の癖で頭を撫でようとそっと手を伸ばす。


 だが、その瞬間セリスは怯えたように身を竦ませた。


「あー…………」


 そういえば、こいつは俺がマノスを半殺しにした現場を目の前で見ていたんだった。

 ……俺のことを怖がって当然だ。


「その、悪ぃ……」

「…………ううん、レヴァンは悪くない」


 セリスはふるふると首を振ると、ぱっと顔を上げる。


「そうだよ。悪くない、レヴァンは悪くないのに……!」

「セリス……」


 ……色々あってセリスは混乱しているんだろう。

 せめて心配させないように、俺はなんとか笑顔を作った。


「最後にお前に会えてよかったよ、セリス」

「レヴァン、何言って……」

「これからは何かあったらエリックを頼れ。もし今のパーティーが嫌なら、他のパーティーを探してもいいんじゃないか」


 エリックは頼りになるし、マノスは俺と同じように追放されたらしいが、あんなことがあったらもう以前と同じパーティーにはいたくないのかもしれない。

 ここは冒険者が集まる街。セリスならばどこでもやっていけるだろう。


「……レヴァンは、どうするの」

「俺のことは心配すんな。どこかで元気にやってるさ」

「なんで、出てくんだよ……」

「これは俺のけじめだ。だから……」


 最後まで言うことはできなかった。

 セリスがものすごい力でしがみついてきたからだ。


「おい、セリス……」

「……かないで」

「え?」


「置いて、いかないで……」


 セリスは泣いていた。それはもうぼろぼろと泣いていた。

 涙と鼻水で可愛い顔が台無しだ。


 できるだけ怖がらせないようにそっと、セリスの背中を撫でる。

 セリスは怖がることなく、ますます強くしがみついてくる。

 ……こうしていると、幼い頃に戻ったみたいだ。


 思えば、俺たちは物心ついた頃から一緒だった。

 小さな村で、いつも一緒に遊んでいた。

 俺が冒険者になりたいと言い出すと、セリスも真似をして二人で冒険者ごっこに明け暮れた。

 村を出て本当に冒険者になると俺が言った時も、「レヴァン一人じゃ心配だからね!」とか言いながらセリスは一緒についてきた。


 ……もしかしたら、そういうことなんだろうか。


「セリス」


 呼びかけると、セリスはぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

 あぁ、やっぱり女になっても……こいつは俺のよく知るセリスだ。


「一緒に来るか」


 セリスは驚いたように目を見開いた後……何度も大きく頷いた。


 きっと、それだけでよかったんだ。

 対応を間違えなかったことに、俺はほっとした。



 ◇◇◇



「……で、どこ行くんだよ」

「それがな、全然決めてない」

「あはは、レヴァンらっしー!」


 翌朝、朝陽と共に俺たちは何年も冒険者として過ごした街を出た。

 もっとしんみりした気分になるかと思いきや、横でセリスがああだのこうだのうるさいのでそんな気分に浸る暇すらない。

 セリスは昨日あんなに泣いていたのが嘘のようにけろっとしている。

 その元気そうな様子に俺も安心した。


「さーてどうするか……」


 使い古した地図を開く。

 北か南か東か西か……どこでもいい。どこにだって行ける。


「いっそ一回村に帰るか」

「絶対ヤダ! こんなんで帰れるわけないだろ!!」

「だよなぁ……」


 さすがのセリスも女になった姿を郷里の人々に見られるのは抵抗があるようだ。

 まぁ、俺がセリスと同じ状況でも断固拒否しただろうけどな。


「よし、こういう時は……」


 地図を地面に広げ、その辺から一本適当に木の枝を拾って中央に立てる。

 そして、そっと手を離した。


「……グランウッド地方?」

「いかにもな田舎だな……」


 木の枝が指し示したのは、遠く離れた森林地帯だった。

 俺たちの故郷に勝るとも劣らない辺境の田舎だ。


「行ってみるか!」

「え、そんなんで決めんの!? まぁいいけど……」


 セリスは呆れたように苦笑したが、反対はしなかった。

 パーティーを追放されたというのに、俺はどこかすっきりした気分だった。セリスも、鼻歌なんて歌って上機嫌だ。

 顔を見合わせ、どちらからともなく歩き出す。


 こうして、俺たち二人の旅路は始まった。

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