18 薬師見習いセリス
セリス視点です
(注)あとがきにイラストが出ます
材料がそろったので、さっそく薬の作成に取り掛かる。
フィロメラさんはダンジョンで拾った怪しげな薬だけじゃなく、ちゃんと自分で薬を作り町の人たちに頼りにされているようだ。
簡単な薬とはいえ、僕だって任されたのだから失敗はできない。
乾燥させた薬草やその根を刻み、乳鉢に入れ乳棒でごりごりと砕いていく。
けっこう力のいる作業だ。フィロメラさんはあんなたおやかな見た目で、意外と力持ちだったりするのかな……。
根気よくごりごりしているとやがて粉のようになってくる。額の汗をぬぐい、僕も次の作業に取り掛かる。
リンゴを細かく切り、専用の釜に入れ、レモン汁やハチミツを加えてコトコトとじっくり煮込んでいく。
本来の薬の作成なら別にこの作業は必要ないらしいのだが、フィロメラさんはわざわざ飲みやすくするために工夫をしているようだ。
そういうところが、みんなに慕われてるのかな。
焦がさないように気を付けてかき混ぜていくと、やがてドロドロになって甘い匂いが漂ってくる。
ここで、粉状にした薬の材料を投入だ。
甘草、シナモン、葛、生姜……溶けやすいように少しずつ投入して、根気よくかき混ぜていく。
とんでもない結果にならないかとドキドキしたけど、うまく混ざってくれたようで安心した。
少量を掬って味見してみたが、薬の独特の味がうまく甘味に掻き消されている。
……よし、成功だ!
「はぁ……緊張した」
作業的には簡単なものだが、初めての作業は中々緊張するものだ。
それでも、なんとか成功してくれたようでほっとする。
あとは、仕上げだな。
棚から薬瓶を取り出し、零さないように釜の中身を掬い移していく。
いっぱいになったところで蓋をして、完成……ではない。
何故かフィロメラさんのノートには「薬瓶にはかわいい色のリボンを巻くこと」と図解があった。
引き出しからピンクのリボンを取り出し、形に気を付けて瓶に巻き付けるようにして縛っていく。
そして完成したものは、薬というよりはまるで誕生日のプレゼントのようだった。
……いったいどんな人がこの薬を取りに来るんだろう。
ちょっとだけわくわくしてしまう。
「よーし、後片付けもしないとね!」
自分に言い聞かせるようにそう口にして、僕は後片付けの作業に取り掛かった。
◇◇◇
「ただいまー」
「おかえり! 依頼はどうだった?」
夕方近くになってレヴァンが帰ってきた。
今日は簡単な討伐依頼に行く予定だと言っていたので怪我をしていないか心配だったが、見たところ元気そうでほっとする。
「サフィラと一緒にゴブリン退治。あいつの戦い方知ってるか? まさに猛獣だぜ」
「そ、そうなんだ……」
サフィラは中々可愛らしい顔をしているが、なんとなく仕草から豪快な人物だというのは伝わってくる。
戦い方も、中々ダイナミックなようだ。
「前に話してたワイルドベアの討伐依頼だけどさ、サフィラと一緒に行くことになったんだ。お前も一緒に行こうぜ」
「僕も?」
「あぁ、ダンジョンに潜る前にお互いの力量とか癖とか知っといた方がいいだろ?」
レヴァンはそう言うとにかっと笑う。
その途端、心の中のもやもやが晴れていくような気がした。
……そうか、僕は不安になっていたのかもしれない。
レヴァンとサフィラは同じ冒険者同士、なかなか気が合うようだ。僕も冒険者だけど、レヴァンとサフィラはタイプが似ているのか、なんとなく思考まで似通っているような気がする。
だから……僕なんかよりもサフィラの方がレヴァンの理解者になれるんじゃないか、そんな風に心のどこかで感じ取っていたのかもしれない。
でも、レヴァンは僕のことをちゃんと考えていてくれた。
それが、すごく嬉しい。
「うん、行くよ。久しぶりに暴れたいかも」
「はは、頼もしいな」
僕だって二人に負けてられない。もう二度とクライミング・プラントに蹂躙されるような情けない真似はできないんだ……!
そうメラメラと闘志を燃やした時だった。
コンコン、と庵の入り口の戸が叩かれる音が響く。
「俺が出る」
「あ、待って。たぶん薬を取りに来た人だと思う」
気がつけばもう夕方だ。
薬を取りに来る約束の時間になっていた。
慌てて玄関に向かい戸を開けると、そこには二人の子供が立っていた。
十歳くらいの少年が僕の姿を見て驚いたように目を丸くする。その後ろにいた少し年少の少女が、慌てたように少年の背中に隠れた。
「あんたら、魔女様のところにいるっていう……」
「悪いけどフィロメラさんは留守だぞ」
僕の後ろからやってきたレヴァンが少年にそう告げる。
僕は慌てて付け足した。
「もしかして、薬を取りに来てくれたのかな? ほら、これでよかった?」
さっき作ったばかりの薬瓶を見せると、少女が顔をのぞかせて目を輝かせた。
「エリアのおくすり……!」
「はい、どうぞ」
少し屈んで少女に薬を手渡すと、彼女は嬉しそうに受け取ってくれた。
なるほど、こんなに可愛らしいお客さんのためにフィロメラさんは色々工夫していたわけか。
「……なぁ、この薬ってあんたが作ったのか?」
少年に問いかけられ、僕はどきりとしてしまう。でも、嘘はつけない。
「……うん。ちゃんとできてるとは思うけど」
「じゃあ本当だったんだな! 魔女様が冒険者の弟子を取ったって!」
「えっ?」
……ちょっと待て、弟子? なんのこと!?
「すごい……おねえちゃんがエリアのおくすり、つくってくれたの?」
「う、うん……」
おねえちゃん、という響きに戸惑いつつも頷くと、少女は嬉しそうに笑った。
弟子って言うのは誤解だけど、喜んでもらえてよかったな……。
なんて内心で喜んでいると、ずい、と少年が一歩僕たちの方へ近づいてきた。
「あんたらすっげぇ冒険者なんだろ!? サフィ姉が言ってたぜ!」
「なんだ、サフィラの知り合いか」
「なあなあ、ダンジョンにも行ったことあるんだろ? 中はどうなってんだ!? すっごい強えモンスターとかいるのか!?」
少年は目を輝かせながら矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
その姿を見て、僕は不覚にも懐かしさに襲われた。
彼の姿は、昔……レヴァンが僕に冒険者の話をしてくれた時と同じだったからだ。
「おにいちゃん、あんまり遅くなるとママにおこられちゃうよ……!」
「ちぇっ、わかってるよ。あんたら、まだここにいるんだろ?」
「あぁ、そのつもりだ」
「また来るから、首洗って待ってろよ!」
明らかに使い方を間違っている台詞を吐きながら、可愛いお客さん二人は手を繋いで早足で帰っていった。
いろいろ驚いたけど、その姿に微笑ましい気分になる。
「あの子、冒険者に憧れてるのかな」
「みたいだな」
「なんか……昔のレヴァンみたい」
「そうかぁ?」
レヴァンが不服そうな表情を浮かべたので、僕は思わず笑ってしまった。
「じゃああの後ろにいた女の子はお前だな」
「僕はあんなに可愛くなかったよ」
「そうか? 十分可愛かったと思うけど」
レヴァンの何気ない言葉に、僕は絶句してしまう。
ちょっと待って、可愛いってなんだ!?
「腹減ったな、戻ろうぜ」
レヴァンは僕を置いて何でもないように庵の中へと戻っていった。
僕は、固まったままその背中を見ていることしかできなかった。
可愛い? 可愛いってなんだ!? 僕をからかってるだけなのか!!?
「っ~~!」
思わず顔を押さえてその場にしゃがみ込む。
いや、落ち着け。レヴァンのことだから大した意味はないはずだ……!
レヴァンが不思議そうに僕を呼ぶ声が聞こえる。
何故か熱くなった頬を抑えながら、僕は悪態をついて立ち上がった。




