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Imitation Memories  作者: かけた升c
3/3

冷然

 こんにちは、サブタイトルは今回登場する「のどか」というキャラクターの性格を表してみました。

 サブタイトル考えるの難しいですね……。

一方その頃―――


「悠太、遅い!!」

「ごめん、先行ってて」

「アビリティでは二人一組悠太だけ置いてけないよ」とは言ったものの二人の距離は離れていくばかりだった。


十分後―――


「いないねでも鮮花にあんなこと言われたんだもん、なんとしても私たちが先に、ね~悠太おかしな行動をしてる人を見つけたら言ってね」

 沙音は声のない背後に目をやる。

「え、悠太。ゆ~う~た~」

 背後には見知らぬ人々が絶え間なく行きかうだけだった。


 ぼくは沙音の追いつけず一人取り残されていた。今、取り巻いている現実を変えたい、その気持ちがぼくをこの非日常に招き入れた。しかし、今は昨日の男性にナイフの切っ先を向けられたこともあり、あの日の気持ちは薄れていくばかりだった。 その二つの感情が出した答えは彼女らの拠点である山瀬酒屋店に向かうことだった。


 山瀬酒屋店に着いた。相変わらず人がまともにいない商店街、悠太は取りあえず店のガラス戸を開ける、人の気配はなかった。地下へと続く隠し扉に向かう、階段を下りるとやっぱり本だらけと、突然。

「君は?」と声を掛けられた。声のした方へ目をやる。そこには二十歳くらいの男性が椅子に背をあずけ本を読んでいた。

「ぼくは、沙音っていう子の手伝いをしている内海悠太といいます」

 すると、男性は「そう、紙伝さんの手伝いか」

 男性は読んでいた本に再び目を落とした。悠太はそのとき察した。

「あ、あなたが山瀬さんですか?」

「そうだけど、君の思っている山瀬とは違うと思うよ」

「どういうことですか?」

「ぼくは隣町の山瀬、ここの山瀬はぼくの妹だよ。というかどうして君はのどかに会っていないの?のどかに会わないとこの場所には普通入れないはずだよ」

「あの、のどかさんってどなたですか?」

「失礼、のどかはぼくの妹の名前だよ。ちなみにぼくの名前は霊也、でどうして入れたんだい?」

「沙音に連れられて、それで入れました」

「なんだ、一度ここに寄ったのか。また質問で悪いけど、どうしてまたここへ?」

「沙音と人を追っていたんですけど、はぐれてしまって」

「なるほど、君の行動は正解だったようだね。ここで待っていれば紙伝さんやのどかも帰って来るはずだよ。それより、君は本を読んだりするかい?」

 男性、霊也は唐突に質問の方向を変えてきた。

「あまり読まないですね、でも学校の休み時間にときどき読んだりすることもあったり……」

「そうか」

 本を閉じて、霊也がまた話し出した。

「君はアビリティについてどこまで聞いているんだい?」

「記憶を消したり、悪い人を捕まえたりすると聞きました」すると、霊也は考えたような間を置いて「大体知ってるけど、詳細な部分は知らないようだね。この国のアビリティの存在意義はね、国家の秘密を護るためなんだ。まだ彼女たちが帰って来るまで時間がありそうだ、何か質問があれば答えるよ」

 悠太は手前にあった疑問を訊いてみた。

「国家の秘密って何ですか?」

「それはアビリティのほとんどが知らないと思うよ、ぼくたちは依頼主からの依頼をただ遂行するだけ無駄なことには手を出さない」

 そのとき悠太は思い出した。

「沙音は男性の記憶を消す理由をアビリティに都合の悪いことがあるからって言ってたんですが、それって何なんですか?」

「今、彼女たちがしていることは少し特殊なことなんだ」と霊也はしばらく沈黙した。

「実はこの地区にアビリティを悪用する人がいるかもしれないんだよ。紙伝さんたちは その人物を捕まえるために活動している、アビリティでもこういうことが起こらないようにしているんだけど、アビリティを習得して使いたくなるのはわかるんだけど。まぁ、ここは心の中の善と悪の戦いの話だね」

「あの、ちょっと質問いいですか?」

 悠太が訊いた。

「基本的な質問ですけど、アビリティって記憶を消す能力のことなんですか?」

「あぁ、紙伝さんからは聞いてなかったんだね。アビリティは記憶を操作する能力のことだよ、人によっては記憶を消す以外の能力を使えることもある。またアビリティとはこの能力を使う団体、のどかや紙伝さんのことを指すこともあるよ」

 霊也はそう説明した。


「ゆ~た~、ゆ~た~」

 街は相変わらずの人の波、皆それぞれの目的のため今日もこの人の波を進んでいく、この中に

もし悠太が居たとしても自分は見つけられる自信が無いと沙音は思った。

「どうしよう、さっきの場所に戻ろうかな? うん、そうしよ!」と呟き沙音は踵を返した。

 来た道を戻って行く、物心ついたときからこの街にいた沙音にはつまらない光景だった、しかしあの裏路地に近づくにつれて人波は途絶えついには視界に人の姿はなくなった。一名の不要な記憶は消すとができた、しかしこの街にはまだ記憶を操作されている人がいるのは確かなことだった。

 さっきの裏路地に着いたが人の気配は無かった。

「えっ!!」

 沙音が驚く、近くで足音がする音はこちらに近づいてきているようだ。

“来る!!”沙音は身構えた。

「うわっ!!なんだ沙音か、何そのポーズ」

 足音の正体は鮮花だった、沙音は鮮花にも指摘された変なファイティングポーズを解いた。

「で、沙音アビリティの悪用または使用者、被験者は見つかった?」

「なにも……それより悠太がどっか行っちゃって」

 鮮花はその言葉を聞くと一つ間を置いて続けた。

「あんた、馬鹿? もしアビリティの情報が世間に流れればどうなるか、見習いのあなたでもわかるでしょう、今でもこの地区は問題なのに沙音あなたはそこに油を注ぐのね。師匠がこれを聞いたら、ただじゃ済まないわよ」

 鮮花がその現実を語った、鮮花の眼は沙音を真剣に、しかし冷酷に見つめていた。

「悠太はそんなんじゃない、のどかさんだって私のことわかってくれるはずだし……」

「やっぱりあなたとはうまくやっていく自信ないわ」と言うと彼女は先ほどコンビニで買ったマシュマロを食べ始めた。

「まぁ、どっちにしろ店に戻る時間みたいね、そこでそのことについても話してもらうわ」

 鮮花はそう言い放つと踵を返した、そのときだった。

「おい、鮮花、沙音偶然だな。お前らちゃんとやるべきことをしたからお喋りしてるんだな」

「えっ、師匠……」

「のどかさん……」

 二人はその後の言葉が無かった。

 ロングコートの女性がこの地区の代表である、山瀬のどかだった。のどかは鮮花のマシュマロを一つ口に入れると「あ~ぁ、話は後で訊くわ」

 そう言って彼女は裏路地を歩きだした。のどかの気だるげな声が残った二人の背中を押した。



「たっだいまっ!!」

 沙音の大きい声が誰もいない山瀬酒屋店に響く。

「何、誰もいないのに声張り上げてんのよ」と鮮花が小声でマシュマロをかじりながら言った。

 沙音と鮮花はその後ろにいるのどかを見つめていた、のどかは二人の視線を気にせずにハイヒールを‘ツカツカ’いわせて隠し扉の方へ

歩いていく、二人は何も言葉を交わさずにのどかの後に付いていく。


 のどかは階段を下りると目に入ったのは見知らない少年だった、次に目に入ったのはこの山瀬酒屋店のほとんどを埋め尽くしている本の持ち主、彼女の兄、霊也だった。

「兄貴、そいつ誰?」

 のどかがそっけなく霊也に訊いた。

「悠太君、そこにいるのがのどかだよ。のどか、紙伝さんはいる?」

「いるけど、誰なんだよこいつ?」

 のどかが言葉を終えたときだった、鮮花に続いて階段を下りてきた沙音が声を上げた。

「悠太ここにいたんだ、まぁまぁ探したんだからね」と沙音が鮮花を押しのけ悠太の下へ駆け寄っていこうとした時だった、沙音の頭上にのどかのこぶしが落ちてきた。

「沙音とりあえずおまえが元凶みたいだからおまえに訊く、こいつは誰だ?」

 のどかはその冷徹な眼で沙音を見据えた。沙音はのどかの冷たい声の後に少し間を置いてから声を発した。

「昨日の夜にターゲットと鮮花が接触したときに悠太が入ってきちゃって、ターゲットの不要な記憶は私が上手いことやりました!!」

 沙音が輝いた眼をした。鮮花は呆れ顔、のどかと悠太は真顔、霊也にいたっては聞いていない。

「で、そん後どうした?」

 のどかが先を促した。

「え~と、別に私がのろのろしてた訳じゃないんですが、悠太が自転車で逃げちゃって、そこからなんです!! 私の大捜索劇は!!」

 例によってこぶしが落ちてきた。

「その部分はいい、飛ばせ」

 のどかがうつむきながら言った。

「え~ぅ、わかりました……っ」

 沙音は眼に涙を溜めながらその先を話し始めた。

「どうにか見つけることができたんですが、のどかさんに教わった通りにやったんですが悠太の記憶は消えなくって、それで別に悪い人じゃないから仕事を手伝ってもらおうと思って、それでターゲットを一緒に探してたんですけどはぐれてしまって」

「沙音ほんとにあんた馬鹿ね、それを決められるのは師匠だけでしょう」

 鮮花が沙音を攻め立てた。

「沙音、素人にそんなこと手伝わせんな、あと鮮花おまえわかってたんだろ」

 のどかの言葉に鮮花は心当たりがあるように悠太には見えた。

「沙音、その記憶が消えなかったのは私が記憶を消す方法を教えなかったからだ」

 のどかが端的に告げた。

「でも、のどかさん。公園にいた男性の記憶は消せました、その男性も悠太にも同じようにアビリティを使いました、それにこの前も、今日だって」

 沙音が不思議そうに問いかけた。のどかが間髪いれずに言葉を進めた。

「沙音、今まで記憶を消してきた件とこの件何が違うかわかるか?」

 沙音は少し考えると口を開いた。

「わからないです」

 のどかはうなずいた、そして視線を先ほどから俯いている鮮花に眼をやる。

「鮮花、話してやれ」

「はい……」

 さっきから俯いていた鮮花が顔を上げる。

「今まであなたが師匠に教わっていた記憶操作は記憶を忘れさせるものではなくて記憶を元に戻すもの、記憶操作とはその名の通り記憶を操作するものそれに加えて腕のあるアビリティ使いになるとその記憶の上に記憶操作をされないよう鍵を掛けておく、沙音、あなたが今使えるのはこの街で暴れているアビリティ使いの鍵をこじ開けるものよ。だから何も手を加えられていない悠太君には効かないわけ」

 鮮花は言葉を終えたが沙音は“きょとん”としている。そのときだった。

「あ、あのぼくはどうなるんですか……」

 落ちた声音で悠太は誰にとも無く声をかけた。

「それが今の問題だ」

 のどかはうなずきながら続けた。

「鮮花、なんで沙音とこいつを放ってきた?」

 鮮花はダンマリしたまま、また俯いた。

「まぁ、いいや。悠太とか言ったな、付いて来い」

 のどかと悠太は階段を上がっていった。


 階段を上がると、のどかはガラス戸を開け悠太を外へと呼んだ。外は相変わらずの人通りの無さだった。大通りから少しずれただけなのだが商店街は沈黙を護り続けていた。

「あいつらが迷惑をかけたな、と取り合えず言っておく」

 のどかは短くそう告げると悠太の額に指を当てた。

「えっ」

 それは朝見た光景を丸写ししたかのようなものだった。ただその指先の光は何度か見たそれよりとても大きなものだった。

「さいなら」

 脳が途切れる感覚とともに悠太の意識は無くなった。

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