任務
新連載開始させていただきます。
現在連載中の「由衣ちゃんとして!」も同時進行していきますので、よろしければそちらもご一読ください。
今は午後一時くらい今思ってみれば、こんなわけのわからない説明を聞いて、さらに記憶まで消されそうになったのに手伝いをするとは、改めて自分の好奇心にはびっくりさせられる。
「どうしたの?ボーとして」
彼女、沙音が声をかける。
「そういえばガッコーには電話したの?」
「あ、忘れてた」
急いで学校へ電話を入れた。特に何も言われなかった、ぼくのとこは気にしていなかったらしい。
「ターゲットはこの駅から仕事場に行くみたい、そこを捕まえて不要な記憶を消す」
「不要な記憶って?」
「だから私たちにとって都合の悪い記憶、もっと言うとアビリティの仕事を見た人の記憶とかね、あと昨日の夜、先に帰ったのが一応、私の相方」
「じゃあ、相方さんは何をしてるんだ?」
「さぁ」
即答だった。
「仲悪いの私たち。だから、仕事も取り合い、利益も取り合い。だから、あなたが今は相方かな」
“いいのかそれで・・・”と思ったがそれは口にださなかった。
「いた、追うよ悠太」
急いで彼女のあとを追う。ターゲットはなぜか駅を通りすぎて路地裏へと走っていく。
追っていった先、彼女はともに責務を果たすはずの少女を見つけた。相容れない仲の少女。
「遅かったわね。っていうかなんで昨日のあんたがいんの?」
当たり前の質問に沙音が答える。
「あなたの代わりよ、きっとあなたよりも私の力になってくれるはずよ」
「一+一=二、わかる、あなたが頑張ったところであたしには及ばないわよ。ちなみにあたしは千くらいね」
強いゲームのラスボスより……そんなことより、ぼくは言った。
「さっきの男の人は追わなくていいの?」
「あっ!!」
双方から声がした。
「早いもの勝ちだから、鮮花より早くさっきの人を捕まえるよ」
今頃だが制服の少女の名前を今更知った。まぁ、それはさておき、ぼくは彼女の背中を追った。
ターゲットを捕まえるのは意外と早かった。彼はこちらを見ていた。そして
「また邪魔が入ったか……」
あの日、彼女たちと出会った。あの日の男と同じオーラが感じられた。
「当たり前でしょ、あんたがこんなことしてるから」と言うと鮮花は彼に蹴りを入れた。男は倒れたまま動かない。
「じゃ、沙音よろしく」
彼女は踵を返しかけた、その背に沙音が問う。
「どうしてそんなに偉そうなの?」
「あなたはまだアビリティとしてはダメダメなんだから、そんな簡単な仕事が大切なのよ」
鮮花が言う。
「も~わかったよ」
今度こそ彼女は踵を返した。沙音が昨日と同じように男性の額に指をあてる。例によって電気流のようなものが光った。
「悠太!!捕まえて!!」
突拍子も無い沙音の言葉に驚いて沙音の方に眼を向ける。
オカルトなんてぼくは今まで信じていなかった。しかしこの光景はきっと受け入れなくてはいけないのだと思う。
「捕まえるって言っても、どうやって?」
「手づかみだよ!!」
沙音は先ほどまでの西健人に背中を向け、少し距離を空け、ぼくと向かい合う形になった。ぼくと沙音の間にやつはいた。
「怪我しない?」
「噛んだりはするよ、まえに噛まれたけど痛かった~」
「噛むのにどうするんだよ!?」
そこで沙音が“にやり”としたのをぼくは見過ごしていた。
「へ~、悠太これが怖いんだ。私なんて初めて見たときペットにしようかと思ったくらいだったのに」
沙音が悪戯に微笑んだ。
「わ、わかったよ」
どうやらぼくはここにきて覚悟を決めなければならないようだ。
「せ~の~で!!」
ぼくはやつに跳びつくため勢い強めに跳んだ。
「沙音!!そっち行った!!」
やつはぼくから逃げるような形で向かいの沙音のいる方に駆けて行く。
「やばっ!!いやっっぅ!!」
やつの退路をどうぞ、どうぞと譲る沙音、勢い付き過ぎて転げるぼく……。
「いたたっ」
「もうちょっと、我慢だよ~」
やつには逃げられてしまった、主に沙音が悪いとぼくは思う。
沙音がこんなときにタイミング良く絆創膏を持っていた。ぼくに絆創膏を貼ってくれる沙音が割と可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
しばらくすると男性は意識を取り戻した。男性は悠太と沙音を不審そ
うに見ながら路地裏を出て駅に向かっていった。
「追わなくていいの!!」
ぼくは瞬間そう言った。
「何あわててるの?」
彼女はいたって、冷静だった。どうやらぼくは何かとり違いをしているようだ。
「だって、あの男性を追ってたじゃないか」
「あの人は簡単に言うと操られてた、それを私が解いたの」
「つまりどういうこと?」
「この世界にはアビリティをいいことに使う者と悪いことに使う者がいるの、簡単に言うとだけどね。私たちは悪いことをする人を止めるのが仕事、鮮花もその一人」
「わかったけど、さっきの黒いのは何だったの?」
「あれはね、使い魔なんだって、私が訊いたときにはそう答えてくれた」
「じゃあ、誰か操っている人がいるの?」
悠太の問いに沙音は悲しげに首を横に振った。
「たぶん、いないんだと思うよ」
「あんまり知らないけど使い魔って誰かが操ってるんじゃないの?」
「きっとあの子たちは操られているうちに自我が芽生えたんだと思うんだ、私たちと同じ能力を使う人の中には使い魔を奴隷のように扱う人がいるみたい。それで自我が芽生えた彼らがそこに居座る意味は無い、なんてね」
そう言うと沙音は悠太に微笑みながら続けた。
「さっきも言ったけど私が使い魔を捕まえたときあの子は私の指を噛んだんだ、それはきっと必死の抵抗だったんだと思うよ」
「捕まえた使い魔はどうなるの?」
質問を聞いた沙音は胸の辺りを“ごそごそ”し始めた。
「えぇー」
ぼくは悲嘆なのか驚愕なのか声を上げた。
「どうしたの、急に?」
沙音は悠太の落胆の理由を気にせず胸の中から籠を取り出した。使い魔用の籠を悠太に見せながら言った。
「この中に入れてみんなのところに持っていくんだって」
「あぁ、そうなんだ……」
「だからどうしたの? 元気ないよ?」
先に言っておくがぼくは大きい方がいいとは思っていない、ただ胸だと思ったそれが鉄籠だった。
そんな悲しみをどう表現するのだろう。
「いや、大丈夫だよ。ただ籠が胸から出てきて少し驚いただけだよ」
「そういうこと!!」
沙音は何故かオーバーリアクションで納得した。
「悠太は男の子だから知らないのか、女の子の胸は四次元ポケットみたいなものなんだよ」
「えぇー」
これは驚愕の声? いや、断じて違う、こんなバレバレの嘘ぼくが信じるわけが無い。えっ、違うよね!?
「じゃあ、そろそろ行こっか」
沙音は籠を元あった胸に入れるとぼくの方に視線を寄越してきた。ぼくは疑惑の視線で沙音の胸を凝視した。
「今度はあっちに行くから」
彼女はそう言うと一息おいて「いくよっ!!」と声を掛けて走り出した。
「あ~も、あいつは男なんか連れてなにやってんだか、だから沙音とは組みたくなかったのよ。あーあ、なんか甘いもんでも食べるか、他の目標もあまり遠くには逃げていないでしょうし」と鮮花は独り言を漏らしながら、コンビニに入店していった。
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