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Imitation Memories  作者: かけた升c
1/3

序章

新連載開始させていただきます。

現在連載中の「由衣ちゃんとして!」も同時進行していきますので、よろしければそちらもご一読ください。


〝いつも通り〟の一日。

 つまらない毎日、同じことの繰り返しで内海悠太はうんざりせずにいられなかった。しかしどうすることもできずに〝いつも通り〟を抱え込んで自転車で家路を急いだ。そのまま〝いつも通り〟家に着くはずだった。しかし、彼の〝いつも通り〟は、信じられないほど脆く崩れ去った。


 いつも通る一車線のアスファルト道路を公園を横目に走って行く。

公園は滑り台にブランコ、鉄棒とレギュラー揃い。気にも留めないはずだった。しかしこんな時間に人がいた。スーツを着た中年の男性と一人の制服の少女がどうやら揉めているようだ。普段の悠太なら特に気にも留めない、勿論仲介なんてこともしない、でもこの時は違った。それが自分にとって大きくに思えた。

 うんざりした日常から少しでも離れることができると思えた。自転車を止めて急いで暗雲たちこめる二人のもとへ向かう。

「どうかしたんですか?」とぼくは緊張しながら、しかし期待をこめて訊いた。

 長い沈黙

 刹那、男性がぼくの腕を掴んだ。

「えっ!!」

 突然のことで理解するのに時間がかかった。理解ができた瞬間、体が固まった。男性

はぼくにナイフを向けていた。少女の目が曇り、咄嗟に身構えた。

 ぼくも含めて少女も明らかに動揺しているようだった。するとナイフを向けている男性が言い放った。

「こいつを救うか、救わないかはおまえの勝手だ。救いたくば、おまえの命と引き換えだ」

 数秒の間もなく、

「大丈夫、落ち着け、私」

 少女はそう呟いた。

 え……ぼく、死ぬの……。

 死にたくない、死にたくない、死にたくない……。無意識に湧き上がる想い。

「いやだ、死にたくない」

 想いは言葉になっていた。そうだ、こんなところで死ぬのはぼくだって御免だ。そのときだった

‘ドンッ’

 ぼくの背後からした重い音、とたんにぼくを掴んでいた男性は地面に倒れ伏した。驚きとっさに背後を振り返る。そこには、また一人の少女がいた。

「何で助けないの?!」とぼくを助けてくれた? 少女が言う。

「鮮花が来なかったらちゃんと助けてたよ、私の戦略が台無しだよ――、それに助けに来るの遅いよ」

 制服の少女は納得いかない顔をしてぼくを見ていた。返す言葉が見つからない、それより……ぼくは横たわったままの男性の方に目をやる。

「あぁ、そうだ、沙音あとの処理はまかせたわ」と言うと鮮花という少女は公園から何もなかったかのように出て行った。

「まったく、のどかさんはなんで私と彼女を選んだのかな?どうしてアビリティってああいう人ばっかりなんだろ、私やっぱり、アビリティに向いてないのかな?」と呟いていた。

「あ、あの・・・」

 ぼくは沙音と呼ばれていた少女に声をかけてみた。

「うわっ!」

 少女はぼくのことを忘れていたようだった。

「あのもしかして、今の聞いてた?」

 こちらも驚いて言葉が出ない。

「あ、そだ」

 沙音はついさっきまで、ぼくにナイフを向けていた男性のもとに近づいたかと思う

と、指を男性の額に当てた。

「!?」

 どういうことだ。

 沙音の指先がわずかに光る、その光はとても不規則で線のようなものだった。

「よし、カンリョー!あなた、名前は?」

「今のはなんだったんだよ、この人は誰? 今の光は何?」

 もういろいろおかしかった。

「あれ、普通の人だったの、ん~これはデリートするしかないよね」と言って沙音は立ち上がれず座り込んだぼくの方に歩みを進めた。〝デリート〟この言葉がここにいるべきではない、そう察知せずにはいられない、そうと決まったときの行動はとても早かった。一目散に公園を出る、自転車に飛び乗った。


 「あ、逃げた!!」

 沙音は呆然と自転車に飛び乗り、遠ざかっていく彼を見送った。

 そのとき、倒れていた男性が意識を取り戻した。男性は辺りを見回して、やがて公園を去っていった。

「あ~あ、メンドクサ~」

 誰もいなくなった公園で少女が無意識に呟いた。


 着いた。全速力で突っ走った家までの帰路、さすがに追いかけてくる者はいなかった。あわてて、扉を開ける。そこには、毎日見慣れた光景、どうやらいつものように誰もいない。両親は仕事でもう2,3ヶ月も姿を見せていない。

 もう時計の針は午前の2時をとっくに過ぎている。いろいろあったせいで、意識は朦朧としていた。明日も学校だ、それより、なにより眠い。


 朝、昨日のことは夢だ。そういう結論にたどり着いた。(違和感はあるが)そうじゃないとおかしい。あんなこと有り得ないと眠気の覚めない頭で考えながら、学校へ行く身支度をこなしていく。

 時計は六時三十分、そろそろ出発の時間だ。少し、いやかなり眠いが時間どおりに家を出る、扉を開いた瞬間、眠気が吹き飛んだ。目の前にいたのは、昨日の少女(確か名前は沙音)だった。やはり夢というわけではなかったようだ。

「おはよ~、結構がんばって探したんだからね」と彼女は笑顔でこちらに歩み寄り、人差し指と中指が額を触れた。驚きで今度こそ動けない。

「いくよ!!」

 脳に電気のようなものが走った、途端に意識が途切れた。


 目が覚めてまず目に入ってきたのはいつも見慣れた部屋の天井だった。少し頭が痛い。

「あ、起きた!」

 少女は驚いて、短く言った。

「なんで家の中に居るんだよ」

 自然と言葉が出ていた。昨日といい、今日といい理解できないことが多すぎるとにかく、手前にあった疑問を彼女になげかけてみた。

「なんで、ぼくの家にいるんだよ?」

「そういえば君、名前は?」

 駄目だった。

「昨日のあれは何だったの?」

 もう少し具体的な問いを投げかけてみる。

「名前は?」

 ダメだった。話がかみ合わない・・・というのは避けたかった。

「内海悠太、で何で家に居るんだよ」

「だって、倒れたから」

 ……確かに、そうか……なら。

「なんでここ来たんだ?」

「あなたの記憶を消すため、でも消えなかった。う~~んん、何でなんだろね」

 記憶を消す? 彼女は端的にそう答えた。記憶を消すそんなこと……。

「できるわけないだろ!!」

 そうできるわけない、しかし彼女、沙音はこう言った。

「それが、できるんだよ~。そうだ私の仕事手伝ってくれない?」

 なんか急すぎないか? しかし、ぼくの望んだ非日常がそこにある気がした。そのへんな遊びにつきあうくらいの時間はいくらでもある。

「わかった、手伝うよ」


「だから……は……で……だから……する……だけど……のときは……だから……するの」

 彼女から大まかな説明を訊いた。簡単に言うと人の記憶を操作するのが仕事らしい。ちなみに今はガレージ通りでもある商店街を彼女と歩いている。この辺に住むぼくでさえ、ここにはほとんど立ち寄らない。と彼女はガレージの開いている店に入っていった。“山瀬酒屋店”看板にはそう記していた。

 そこは何の変哲もない酒屋だった。

「早く、こっちこっち」

 彼女が手招きする先には地下へと続く隠し階段があった。彼女はぼくを呼んでからその階段を下りていった。ぼくもその後に続く。

 その部屋は本がとにかく多い。その本のせいでとても狭いように思われた。

「ここが私たちの本部、まぁご覧のとおり狭いし、ほとんど誰も来ないけど」

「ここではどんなことをするの?」

「え~と、寝たり……寝たり、まぁそんなところ」

「寝てしかないし!!」

「まぁ、ここはそんなとこ、みんないろいろあって、ここにはあんまり来ないんだよね。まぁ、というわけで今日の仕事を発表します!!」

 彼女の顔が少し真面目になる。

「ターゲットは二十七歳の男性。この市内で一人暮らしをしているみたい」

「で、その人をどうするの?」

「記憶消す、っていっても私たち、アビリティにとって都合の悪い記憶や悪いアビリティの人たちが荒らした記憶とかね」

そういえば、今更だけど訊かなきゃならないことがあった。

「なんでぼくの記憶は消えなかったんだ?」

「それは君が特別だから」

 彼女はそう一言言った。

 少しの間が空いて、彼女が言った。

「ごめん、嘘ついた、ほんとは私の力量不足なんだ」

 ぼくは呆気に取られた、だからこっちをじっと見ていたんだ。そのときぼくはどんな顔をしていただろう。

「どう、びっくりした?」

 はずかしくて声も出ない。

「でも、こうやって私といっしょに行動しているのは事実、いっしょにがんばろうね」

 彼女は笑顔で言った。

 ぼくはうなずいた。

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