卵雑炊
異世界キッチンも冬に向けて限定メニューなどを考え始める季節。
そんな今日は何やらあった様子。
ホールスタッフは一人欠けても回せないわけではない。
それについては今までのスタッフの尽力もある。
「失礼します」
「おや、イクスラサン、どうされマシタか」
「実は姫様が風邪を引いてしまいまして、今日はお休みさせていただけますか」
「なるほど、分かりマシタ、では治ったらで構いマセンよ」
どうやらエトが風邪を引いたとの事。
今は季節の変わり目でもあるのでこういう事態も想定はしている。
「それでお願いがあるのですが」
「なんでショウ」
「病人でも食べやすい料理があれば何か教えていただけませんか」
「病人でも食べやすい料理、なら卵雑炊なんかはどうデス」
「卵雑炊?」
「確か成分分析の機能がついていマシタよね、作るので覚えていってクダサイ」
「分かりました、ではそうします」
「おはようございます、あれ?アヌークとイクスラさん?」
「何かあったの?」
イクスラがアレッシオとリーザに事情を説明する。
二人はそれを聞いて、エトの分もしっかり回すと言ってくれる。
「おはよう、あれ?何かあったの」
「朝に弱いアヌークが一番に来てるなんて珍しいね」
「今日はエトサンとイクスラサンはお休みデス、他はしっかり頼みマスよ」
「そうなの?」
「ええ、姫様が風邪でダウンしてしまったので」
「そうなんだ、よくなるまでは無理はさせないでね」
「姫様はあれで頑固ですしね」
「そういえばこっちの世界の医学事情とかどうなってるんだろう」
「一応姫様も王族ですから、専属の医者などはついていますよ」
「あー、そこは流石王族だね」
「僕達平民とは違うよね、王族って凄いなぁ」
「出来マシタ、卵雑炊デス」
「ありがとうございます、ではいただきます」
アヌークの作った卵雑炊を食すイクスラ。
エトの料理の毒味などもしているからなのか、成分分析の機能がついている。
仮にも王族に友好の証として贈られたものがイクスラだ。
護衛などもそうだが、そういった機能はあるべきなのだろう。
「成分分析は完了しました、これなら姫様にも作ってあげられそうですね」
「あとこれを持っていってあげてクダサイ、プリンとゼリーデス」
「何から何まですみません、姫様も喜びます」
「でもこっちも風邪薬ぐらいは流石にあるか」
「一応国が定めてる保険に加入してれば医者にかかるお金は安くなるからね」
「そうなの?この国って何気に先進的なシステムなのかな」
「国王様としても国民を豊かにしたいという気持ちは強いのですよ」
「王様って凄いんだね」
「姫様は末っ子ですからね、ここで働きたいと言ったのも国にいても寂しいからなのですよ」
「王族の問題も簡単じゃないんだね」
イクスラの言う話も嘘ではないのだろう。
エトがあんな性格になったのも寂しさ故なのだと、美紗子は思っていた。
エトもここで一番懐いているのは実は美紗子だったりする。
イクスラとしてはここで働いているエトはとても楽しそうだと言っている。
「姫様は第一王女ですが子供としては第五子、王位継承は男児が優先されますから」
「男系一族って事か」
「それで国にいてもあまり構ってもらえなかった、かな」
「ええ、それで以前抜け出してここに」
「結果としてはよかったのかもね、楽しい事を見つけられたならさ」
「今の姫様はとても楽しそうにしています、以前までは不満そうにしていたのに」
イクスラは今のエトを見ているととても嬉しいのだという。
ここでとても活き活きと働くエトは心の底から楽しそうにしている。
美紗子によく懐いていて、姉のように慕っている事も。
上は全員兄という事もあってか、同性の年上というのはそれだけ嬉しいのだと。
一応由菜やリーザも年上ではあるが、美紗子がエトにとってのお姉さんなのだとも。
年相応なところを見せるのも王族とは言え年頃の女の子なのだ。
「では私はそろそろ失礼します、姫様が回復したら復帰いたしますので」
「しっかりと治してクダサイね」
「でも風邪かぁ、薬とかはきちんと出してくれるんだよね」
「うん、この国だと国の許可が出てない薬は違法だから」
「確か薬を専門にしてる部署があるって聞いたよ」
「意外と厳しいんだね」
「市販薬とかもあるけど国が定めた基準を満たしたものしか売れないし」
「こっちの世界って思ってるより福祉とかしっかりしてるんだね」
「みたいデスね」
「医者が国家資格だもん、王族なら専属の医者ぐらいそりゃいるよね」
「エトも早くよくなるといいね」
「さて、では回転の準備をしマスよ」
そういうわけでエトとイクスラは少しの間お休みに。
イクスラに教えた卵雑炊もエトは美味しそうに食べていたという。
来週には復帰出来るとの連絡がそれから入ったそうだ。




