シナモントースト
異世界キッチンの開店前の時間。
今日から新しいキッチンスタッフが追加されるとアヌークは言う。
そんな開店前にまかないの朝食を作るアヌーク。
そして他のスタッフも出勤してくる。
「ふんふーん」
「おはよう、アヌーク」
「由菜サン、おはようございマス」
「そういえば今日からキッチンスタッフが増えるんでしょ」
その事は由菜とアレッシオにも伝えてある。
そんな話をしているとアレッシオも正面から出勤してくる。
「おはようございます」
「おはようございマス、アレッシオサン」
「いい匂いがするね、何作ってるの」
「シナモントーストデスよ、開店前の朝ご飯デス」
「アヌークってそういうシンプルなやつの方が美味しく仕上げるよね」
「シンプルな料理は誤魔化しが利かないのデス」
「つまり調味料で誤魔化せないって事?」
「ハイ、プレーンオムレツやシナモントーストなんかはそんな料理デス」
「失礼します、ここでいいのかな?」
「おや、美紗子サン、待っていマシタよ」
「この人が新しいキッチンスタッフ?」
「えっと、行川美紗子です、今日からお世話になります」
「あ、えっと、アレッシオです」
「私は由菜だよ、二人ともウエイターをやってるよ」
「あ、うん、それでキッチンスタッフって文字通り料理を作るんだよね?」
新しいキッチンスタッフの行川美紗子。
彼女はアヌークが料理学校時代の知り合いの娘らしい。
ちなみにその知り合いはアヌークより歳上でもある。
その知り合いは当然プロの料理人であり、その娘の美紗子も料理の腕前はとても高い。
実家は二つ星の洋食レストランで、そこで料理を作っていた事もあるという。
そんな美紗子なら信頼もあるので、頼み込んで貸してもらったという。
店の事もありこっちの方が様々な勉強になると親は踏んだようだ。
そのため親友の頼みという事もあって二つ返事で許可を出したそうな。
「それで料理って何を作るの?ファミレスだよね」
「作り方は大体は分かってると思いマス、とりあえずメニューに目を通してクダサイ」
「分かった」
「それにしても美人だなぁ…」
「もしかしてアレッシオ、照れてる?」
「そ、そんな事はない…よ?」
「ふふっ、見た感じまだ年相応だもんね」
「美紗子は何歳なの?」
「今年18になったよ」
「知り合いの娘デスからね、料理の腕前は保証しマス」
「へぇ、そんなに凄いんだ」
「そうだ、なら挨拶代わりに簡単なものを何か一つ作ってもらえマスか」
「あ、うん、分かった、材料は好きに使っていいんだよね?」
「ハイ、好きにドウゾ」
「何を作ろうか、開店前だから手間のかからないもの…ならエッグトーストでも作ろう」
そうしてアヌークの横で卵を丁寧かつスムーズに調理していく。
ゆで卵の殻を剥きそれを潰してマヨネーズと和える。
そうして作ったエッグペーストを切ったバゲットに乗せてオーブンに入れる。
あとは焼き上がるのを待つだけだ。
その一方で先にアヌークのシナモントーストが完成する。
今回のシナモントーストはフレンチトーストのように作っている。
フレンチトーストの要領で焼き上げたトーストにシナモンを使う。
簡単に言うとフレンチシナモントーストである。
あとはフルーツヨーグルトとカフェオレ、サラダと冷製コーンスープ。
これが今回の朝食だ。
そこに美紗子のエッグトーストも加わる。
少ししてエッグトーストも焼き上がり開店前の朝食だ。
「それじゃいただきます」
「いただきマス」
「いただきます」
「神の恵みに感謝して、ここにその恵みを食す事をお許しください」
そんなわけで簡単ながら結構なボリュームの朝食をいただく。
これで結構重労働なので、きちんと食べないと体力が持たないのだ。
「ん、美味しい!」
「ふふっ、ありがとう」
「美紗子のエッグトースト美味しいね、流石はって感じかも」
「やはり美紗子サンも血は争えマセンね」
「一応家は二つ星の洋食レストランで、そこで手伝ってたからね」
「その二つ星ってなんなの?」
「分かりやすく言うと世界に認められたお店って事だね、一番いいのは三ツ星なの」
「へぇ、つまり美食機関みたいなのが認めたって事なのかな」
「その考えはいいデスネ」
「まあ間違ってはいないような」
「それで二つ星なんだね」
美紗子の家は二つ星の洋食レストランだ。
その審査などについてはアレッシオも興味深そうに聞いている。
「お店の審査っていうのは、気付かれないようにお客として来てこっそりやるんだよ」
「つまりスパイみたいに?」
「分かりやすく言うと覆面デスネ、調査員だと分からないように客になるのデス」
「それで気づいたら星がついてたなんてあるもんね」
「でも面白いね、そのやり方」
「それにしてもアレッシオは美味しそうに食べるね」
「うん、ここの料理って凄く美味しいから」
「そういえば持ち帰っているケーキなどは家族の反応はどうデス?」
「みんな嬉しそうに食べてるよ、下の子達は特に嬉しそうにしてる」
「アレッシオの家って何人家族なの?」
「えっと、僕が次男で上に一人と下に五人いるね、あとは父さんと母さんがいるよ」
「大家族だね、凄いな」
アレッシオの家は大家族のようだ。
家で母親が食事を作るのはもちろん、余り物を持ち帰ってそれも喜ばれている。
最初は不安だったらしいが、今では家の中でも稼ぎ頭なのだとか。
そもそもここの給料の銀貨十枚というのはこっちの世界でも高給取りらしい。
銀貨十枚も稼いでくる次男のおかげで、少しは贅沢も出来るようになったとか。
そんな給料を出すとかどんな店なのかと家族は興味津々らしい。
そんな話をしているうちに朝食を平らげる。
あとは食器を片付けて開店だ。
「さて、食器を片付けたら確認をして開店デスよ」
「分かった、お店の方を確認してくるね、アレッシオ、行くよ」
「あ、はい」
「私はキッチンだよね、注文の入った料理を作ればいいんでしょ」
「ハイ、客はランチやディナーの時間は特に多くなるのでその時が忙しくなりマスよ」
「分かった、これでもプロの娘だからね、アヌークの事もきちんと勉強させてもらうから」
「ハイ、期待してマス」
こうして新たにキッチンスタッフとして美紗子が加わる事になった。
プロの料理人の娘の腕前は大きな戦力となる。
アレッシオは家ではすっかり稼ぎ頭になってしまっているという。




