台湾まぜそば
こっちの世界も春模様になってきた異世界キッチン。
フェアも新たに春の食材などを使ったフェアが始まっている。
春の食材は美味しいものが多いので、客もそっちに目が行っている様子。
そんな今日のお客は少し変わったお客のようで。
「ふぅ、なんとか巻いたな」
「全く、あいつは心配性なのだ」
「とはいえ見つかるのも困る、どこかに身を隠さねば」
「む?ここは…よし、ここに隠れるとしよう」
彼女の名はマリータ、砂漠の国の王女でこの国に用事で来ている。
城にいるのは退屈になり、抜け出してきてそのまま追手を巻いたようだが。
「二重扉にベル?なんだここは」
「中は涼しいな、それに音楽も流れていてキカイもたくさんある」
「なんか騒がしいし、いい匂いもする、なんなのだここは」
「いらっしゃいませ!何名様ですか!」
「うおっ!?驚かせるな!」
「…お嬢ちゃんお一人様?」
「そうだ、それよりここはなんなのだ」
「ここはファミレスだけど」
「ふぁみれす?なんだそれは」
「簡単に言うとお金を払って料理を食べるところかな」
「そうか!ならば我にも何か食わせろ!金ならある!」
「かしこまりました、おタバコは…吸わないよね、では禁煙席にご案内します」
「給仕も若くていいな」
そうして席に案内される。
そこで一応きちんと説明をする。
店のルールという事もあり、それは理解した様子。
由菜は一旦下がり、他の注文を受けに行く。
「そういえば水はセルフと言っていたな、ルールには従わねば」
「ここにグラスを押し当てて…これだけで飲み水が出るのか、凄いな」
「あとは手拭きと氷…届かん」
「はい、どうぞ」
「む、すまんな、感謝する」
「いえ、さて、飲み物のお代わりだ」
「それにしても氷もこんなにあるし、手拭きもこんなに…凄いものだな」
「さて、注文とやらを決めてしまわねば」
「我の国では辛いものがよく食べられる故に、ここでも辛いものをいただくか」
「いろいろあるな、コメに麺に肉に魚に野菜、甘味もあるのか」
「ふむ、ではこいつにするか、あとこいつと甘味だな」
「確かこのベルを鳴らすのだったな」
ボタンを鳴らして店員を呼ぶ。
少ししてアレッシオが出てくる。
「お待たせしました、ご注文はお決まりですか」
「うむ、こいつとこいつ、あと甘味でこいつとセットドリンクというのを頼む」
「かしこまりました、デザートは食後でよろしいですか」
「ああ、構わん」
「それとこちらのメニューは辛い料理になりますが、平気ですか」
「問題ない」
「かしこまりました、それと無料の追い飯サービスがありますがどういたしますか」
「オイメシ?」
「麺を食べ終えたタレにライスを入れて食べるサービスになります」
「ならそれも頼む」
「かしこまりました、ではオーダーを復唱させていただきます」
「台湾まぜそばとほうれん草のソテー、食後にトリュフアイスとドリンクバーです!」
「オーダー!台湾まぜそばとほうれん草のソテー、食後にトリュフアイスとドリンクバーです!」
「喜んで!」
「では少々お待ちください」
「料理人は奥なのか、まあそれは仕方なかろう」
「さて、飲み物を選びに行くか」
そんなわけで飲み物を選びに行く。
一通り見て選んだのはアイスカフェラテだった。
コーヒーは馴染みのある飲み物のようで、幼いながらもよく飲むらしい。
ちなみに届かなかったので、別の客の力を借りた。
「ふぅ、こいつはコーヒーなのに美味いな、ミルクの味がよく混ざっている」
「コーヒーは我が国では定番とはいえ、冷たくして飲むのはないな」
「冷たいコーヒーにたっぷりのミルク、これは流行らせられるぞ」
「ミルク抜きでも冷たいコーヒーとなれば、暑い我が国では確実に流行る、覚えたぞ」
そうしていると先にほうれん草のソテーが運ばれてくる。
ほうれん草とパンチェッタをバターで炒めたシンプルにして美味なる一品だ。
「お待たせしました、先にほうれん草のソテーになります」
「うむ、すまんな」
「台湾まぜそばはもう少々お待ちください、それでは」
「さて、いただくか」
ほうれん草のソテー、アヌークが選んだ国産ほうれん草とイタリア産パンチェッタの炒めもの。
シンプルにバターのみで炒めてあるが、子供でも食べやすい味付けで人気の品だ。
「これは…葉物の野菜と肉か?を炒めただけなのにこんなに美味いのか」
「この味はバターか?だがバターはそんな安くもないはず…」
「それを惜しまず使って炒めてあるのか」
「シンプルなのにこの美味しさはなんだ、料理人の腕なのか?」
そうしていると台湾まぜそばが運ばれてくる。
辛味のある醤油の匂いと乗せられた具の香りが食欲を刺激する。
「お待たせしました、台湾まぜそばになります」
「うむ、すまんな」
「こちらよく混ぜ合わせてお召し上がりください」
「分かった」
「こちらは追い飯になります、麺を食べ終えたら器に落として召し上がってください」
「分かった、覚えたぞ」
「デザートが必要な時はお呼びください、それでは」
「ではいただくとするか」
台湾まぜそば、名古屋発祥の名古屋めしの一つだ。
台湾ミンチと呼ばれるミンチ肉を極太麺にかけて食べる。
元々は台湾ラーメンを作ろうとしたがスープと合わなかった。
そこに当時のアルバイトが麺にかけてみたらどうかと提案した事が生まれるきっかけという。
そこから試行錯誤を重ね今の台湾まぜそばが生まれた。
発祥の店は名古屋の麺屋はなび高畑本店とされている。
タイプ的には油そばのような汁なしラーメンの一種である。
乗せる具は店にもよるが、ニラ、ネギ、魚粉、卵黄、おろしニンニクなどを乗せる。
この店ではそれらを全て乗せているので、アヌークの好みが感じ取れる。
台湾ミンチの辛味とニラやにんにくの事もあり、食べたあとは口臭に注意が必要だ。
「これは…美味い!麺に辛味のある肉や野菜などの味が実によく合う!」
「辛いのだが、辛すぎず、そして食が進む味だな」
「これは我が国でも作れないものだろうか…」
「この粉のようなものはなんだ?匂いからして魚の匂いだな」
「魚の粉?そんなものどうやって作るのだ?」
「ふむ、シェフに聞いてみるか」
「麺を食べ終えたらこのライスを投入して食べろと言っていたな、どれ」
「これは…!麺に使われていたスープがライスに実によく馴染む…!」
「ライスに麺のスープを混ぜて食べるとは、面白い考えだ、そして美味い!」
「元々よく食べると言われる我だが、これは止まらん!」
そうしているうちに追い飯も含めた台湾まぜそばを完食する。
あとはデザートを頼む事に。
「お待たせしました、デザートですか」
「うむ、頼む」
「かしこまりました、器はお下げしますね、少々お待ちください」
そうして器を下げて奥に下がる。
それから少ししてトリュフアイスが運ばれてくる。
「お待たせしました、トリュフアイスになります」
「うむ、すまんな」
「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください」
「ではいただくとしよう」
トリュフアイス、トリュフチョコレートを使ったアイスで少しだけお高いデザートだ。
普通のアイスやシャーベットより量が多いからなのと、チョコが少しだけお高いのだ。
「うむ、美味い、我が国だと氷菓子やチョコレートは保存出来ないと売れんからな」
「だからこそこうした氷菓子が好きになるというものよ」
「それにしてもチョコレートを使った氷菓子がこんな安いとは…どうなっている」
そうしているうちにトリュフアイスも完食する。
あとは会計を済ませる事に。
「すまん、支払いを頼む」
「はい、台湾まぜそばとほうれん草のソテー、トリュフアイスとドリンクバーですね」
「全部で銀貨一枚と銅貨四枚になります」
「ではこれで頼む」
「銀貨二枚いただきます、お釣りの銅貨六枚になります」
「うむ」
「見つけましたよ、お嬢様」
「うげっ!?ガルザス!」
「そちらの人はどちら様デス?」
「む?お主がシェフか」
「このたびはお嬢様が失礼を、私めは姫様の執事のガルザスと申します」
「我はマリータ、砂漠の国の姫だ」
「はぁ、お姫様でもお金をきちんと払って食べてくれたのなら構わないのデスが」
「姫様、勝手に抜け出して一体何を食べたというのですか」
「タイワンまぜそばとかいう料理だ、実に美味だったぞ」
「はぁ、お代は私から…」
「えっと、お姫様からもらってるから、お気になさらずに」
「しかし…まあ社会勉強になったと思えばいいですか」
「それにしてもお姫様はよく食べマスね、とても気持ちのいい食べっぷりデシタ」
「姫様は国でもよく食べるのですよ、おかげで礼儀や作法などあったものでは」
「礼儀の良い料理は少なくて足らんのだ、ここはたっぷり食べられて幸せだったぞ」
「なんにしてもすみませんでした」
「気にしなくていいデスよ、よければまた食べにきてクダサイ」
「うむ、仕事で来た時には寄らせてもらうぞ」
「その時は私も一緒ですよ、仮にも姫様が一人など危険です」
「堅苦しい奴め」
「お転婆なのデスネ」
「手を焼いていますよ」
「さて、帰るぞ、国に帰ったらやってみたい事が出来た」
「それとシェフ、あの料理に使われていた粉は魚でいいのか?」
「魚粉デスかね?そうデスよ」
「分かった、では行くぞ、ガルザス」
「いろいろと失礼しました、それでは」
「お姫様もお淑やかな人ばかりじゃないものだね」
「以前もそうデシタし、イメージが変わりマスね」
こうしてマリータはガルザスに連れられて帰っていった。
それから少しして砂漠の国で冷たいコーヒーが流行し始めたという。
さらに台湾まぜそばに似た料理が広まったともいう。




