マヨコーンピザ
異世界キッチンが開店したので客を待ちつつ準備も進める。
裏通りに扉を繋げたのだが、客は入るのだろうか。
客席はそれなりに確保出来ているのである程度は捌ける。
そんな今はお昼時。
「腹減ったなぁ、昼飯何にする?」
「いつもの飯だと味気ないもんな、何か違うものが食いたいよ」
この二人は扉のある王都の店で働く双子の兄弟。
名前はダニーとコニー。
二人が経営する店は主に骨董品や使い古しの武具を扱う。
俗に言う中古屋である。
「でも何か新しい店なんてあるのかな」
「そうだ、なら裏通りに行ってみようぜ」
「裏通りって、あそこ食い物屋なんてないだろ」
「気分転換だよ、発見は行動してこそ発見出来るんだ」
「分かったよ、ダニーはそういうの好きなんだから」
何かの気まぐれで裏通りにやってきた二人。
すると当然目立つその店はそこにあるわけで。
「なあ、こんなところに店なんてあったっけ?」
「昨日はなかったよな…いつの間に出来たんだろう」
「よし、ここに入ろうぜ、面白そうだ」
「いや、高そうだぞ?そんな金持ってきてないのに」
「行動あるのみだろ、ほら行くぞ」
そうして扉を開けるダニー。
扉につけられたベルが鳴る。
「うわっ、なんだ、ベルが付いてたのか」
「二重扉とはな、結構いい店なのか?」
「とにかく次の扉も潜るぞ」
「高い店じゃないといいけど」
店内に入る二人。
そこにウエイトレスの由菜が声を掛ける。
「いらっしゃいませ!何名様ですか!」
「うわっ!?」
「女の子だ…ねえ、ここは何の店なの?見た感じ食べ物屋みたいだけど」
「ここはキッチンハウスですよ、分かりやすく言うとレストランです」
「レストラン…やっぱり食べ物屋なんだ」
「はい、それで何か食べるんですよね、席に案内します、タバコとか吸いますか?」
「えっと、吸わないけど…」
「では禁煙ですね、こちらにどうぞ」
「う、うん…」
そうして席に通されるダニーとコニー。
席について由菜から説明を受ける。
「まずはこれがメニューです、食べたいものが決まったらこのベルを鳴らしください」
「あ、うん…」
「それと料理と一緒にドリンクバーを頼むとドリンクバーが銅貨一枚になります」
「ドリンクバー?」
「飲み物の飲み放題サービスです、単品では銅貨三枚なんです」
「飲み放題で銅貨三枚!?それで料理と一緒なら一枚になるって!?」
「あとメニューの説明ですね、カップマークがついているのはスープバー付きです」
「それはドリンクバーと同じ飲み放題なのかな?」
「はい、そしてカバンマークが付いてるメニューはテイクアウト、持ち帰りが出来ます」
「持ち帰りも出来るのか…」
「機材の操作は分からなかったら訊いてください、あと水はセルフですので」
「一気に説明されて何が何だか…」
「では決まったら呼んでくださいね」
そうして由菜は奥に引っ込んでいった。
ちなみにアヌークがすでに通貨とその日本円換算のレートは調査済みである。
そんなわけでメニューを見始める二人。
文字は当然日本語なので読めない。
だが写真がついているのでそれでどんな料理かは分かる。
その値段を見て二人は驚いた。
「こんな美味しそうな料理が銅貨三枚とか高くても銀貨一枚って凄くないか」
「ああ、まあ複数頼むとそれだけ取られるんだろうけど、それでも安いぞ」
「それで何を頼むんだよ」
「そうだな…手持ちはどれぐらいある?」
「銀貨三枚と銅貨七枚だな」
「ならこれにしよう、銅貨四枚で結構ボリュームがありそうだ」
「ドリンクバーっていうのもつけてもらうか?料理とセットなら銅貨一枚だろ?」
「そうだな、そうしよう、それじゃ呼ぶぞ」
ダニーがベルを鳴らす。
由菜が注文を取りに出てくる。
「お決まりですね」
「うん、これを二人分お願い、あとドリンクバーも」
「分かりました、マヨコーンピザ二枚ですね、生地はサクサクとふわふわが選べますよ」
「あー、俺はサクサクで」
「俺はふわふわにするよ」
「かしこまりました!ドリンクバーは今説明しますね」
そうしてドリンクバーに案内する。
そこで機材の説明をする。
「これがドリンクバーです、ここにあるグラスやカップで好きなものをどうぞ」
「これはどうやって…」
「ここにグラスを置いて飲みたい飲み物のボタンを押してください」
「これをこうでいいのかな?」
「はい、あとは茶葉なんかもあるのでお茶なんかも自由にどうぞ」
「お茶とかもあるんだ」
「そっちは水ですね、そこにコップを押し当てれば水が出ますよ」
「分かった、でもこれはキカイってやつだよね?」
「そうですよ」
「まだ凄く高級品のキカイまであるなんてこのお店凄いなぁ」
「あと料理によっては使うかもしれない調味料なんかもここにありますから」
「こういうのかな?料理によっては使うんだね、覚えておくよ」
「はい、では料理が出来るのをお待ちくださいね」
「マヨコーンピザサクサクとふわふわ一枚ずつです!」
「喜んで!」
奥からアヌークの声がした。
どうやら料理人はそこにいるようだと二人は分かった。
料理が届くまでの間二人はメニューを見直していた。
その安さと豊富さには驚くしかないようで。
「文字は読めないけど、こんな美味しそうなのがどれも安すぎない?」
「だよなぁ、一番安いのは銅貨二枚だぞ」
「あと見た感じ料理のジャンルがあるっぽいね」
「後ろの方に乗ってるのはデザートかな?これも安いんだな」
「今回は金がそんなないけど、今度はもっと持ってこよう」
「そうだな、次はデザートまで頼むぞ」
「そういえばあの張り紙だけ読めるな」
「えっと、食材の持ち込みを歓迎、シェフのお任せで調理します…か」
「持ち込み料として銀貨一枚、どんな食材でも歓迎、面白いな」
「ここの店の事広めるか?」
「いきなり大勢は店にも悪いだろ、とりあえず知り合いからにしよう」
「それが無難だな…チラシとか置いてるし持って帰るか」
そうしているうちに先にサクサク生地のマヨコーンピザが運ばれてくる。
サクサク生地の方はダニーの注文だ。
「お待たせしました!サクサク生地のマヨコーンピザです!」
「それは俺だな」
「ピザはそのローラーで食べやすい大きさにカットして食べてくださいね」
「こいつだな、分かった」
「ふわふわ生地の方はもう少しお待ちくださいね」
「先に食っていいぞ」
「ならそうするよ、熱そうだから気をつけないとな」
マヨコーンピザを切り分けて口に運ぶダニー。
その反応はというと。
「熱っ、でも、はふっ、美味いな!なんだこれ、めっちゃ美味しい!」
「そんな美味いのか?」
「はふ、ああ、これはコーンだろ、八百屋なんかで売ってる」
「それとチーズか、そこそこ高いよな、チーズって」
「あとはトマトのペーストだな、味がそっくりだ」
「この白いソースみたいなのはなんだろう、名前にあったマヨってやつなのかな」
「それも結構大きいな、これで銅貨四枚って安いな…」
するとふわふわ生地の方のマヨコーンピザも運ばれてくる。
それはコニーの注文だ。
「お待たせしました!ふわふわ生地のマヨコーンピザです!」
「それは俺だね」
「こちら伝票です、代金支払いの時にお持ちください」
「分かった」
そんなわけでコニーもマヨコーンピザを頬張る。
その味は言うまでもなく。
「確かにうめぇ!何だこの店、この安さでこんな美味しいとか商売成り立つのか!」
「これなら結構腹にも溜まるしな、いい店見つけちまったな」
「ああ!これからも通おうぜ!」
「そうだな、あとは少しずつ広めるか」
そうして美味しそうにマヨコーンピザを一気に平らげる。
あとはドリンクバーで飲み物を適当に飲みゆっくりする。
「はぁ、美味かったな」
「こんないい店いつオープンしたんだよ…知らなかった」
「美味しそうに食べてくれて何よりデス」
「えっとあんたは…」
「シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」
「あ、うん、よろしく」
「満足していただけマシタカ」
「そりゃもう!これからも来ます!」
「ハイ、出来れば宣伝もして欲しいのデスガ」
「うん、少しずつだけど宣伝するよ、いきなり大勢来られても困るだろ」
「ハイ、ではお願いシマス」
「任せて、お姉さん」
「ハイ、ではリピート期待してマスネ」
そうしてアヌークは奥に戻っていった。
その美味しさに二人は完全にやられた感じだった。
この店の事は少しずつ広めよう、そう考えていた。
一応チラシも数枚もらっていく事に。
あと食材持ち込みの事もきちんと宣伝する事にした。
どんな料理でも提供してくれそうなこの店に可能性を感じていたのは言うまでもない。
骨董品と中古品を扱う店を経営している二人が出会った未知の味。
それはとても新鮮で新たな発見でもあったようだった。
「それじゃ帰ろうか、店を空けっ放しには出来ないしな」
「だな、この伝票ってやつを見せるんだっけか」
「すみませーん、支払いをお願いしまーす」
「はーい!」
奥から由菜が出てくる。
二人が伝票を見せて会計だ。
「マヨコーンピザ二枚とドリンクバー二つで銀貨一枚ですね」
「はい、これでいいのかな」
「確かにいただきました!」
「それじゃまた来るね、美味しかったよ」
「またお越しくださいませ!」
「最初は客は少ないと思いマスガ、徐々に増えていくデショウ」
「あ、そうだね、黒字化するにはゆっくりやらなきゃ」
「ハイ、まずは広める事からデスヨ」
「うん、これからだよね」
ダニーとコニーはその余韻がまだ残っていた。
突然裏通りに開店したとても美味しい料理の店。
お客をもっと入れてあげたいという事もあり、宣伝も買ってくれた。
その日はそれっきりだったが、これから客は徐々に増えていくだろう。
異世界キッチンはまだ始まったばかりなのだから。