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人生攻略本  作者: まくりん
7/12

消えた本屋


『あなたの人生の攻略法を教えます。あなたが人生でやりたいことを記しなさい』


 僕の血を一滴たらしただだけで、なぜか綺麗な白色から血に染まったように赤色へと色を変えた本。

 その1ページ目に書かれていた文字である。

 人生の攻略法?

 確かに、この本は『人生攻略本』というタイトルではあった。

 つまり、僕がこの本に僕の人生でやりたいことを書けば攻略法を教えてくれるというわけであろうか?

 いや、そんなわけがないだろう。

 いくらこの本が不思議な本とはいえ、それは不可能だ。

 なぜなら、攻略法を教えるということは、つまり未来を教えてくれるということになるだろう。

 そんなことは誰にも分かるわけがない。

 分かるとしたらそれは神様くらいか。

 

「その本は、神の本である」


ここでなんとなく、中古本屋を出たときに会った英国紳士の言葉を思い出してしまう。

いやいやいや。

神の本ってなんだよ。

神様が書いた本とでもいう気だろうか?

もしそうであるなら、なぜそんな本が中古本屋にあるのだろうか。

 まぁ、深く考えても仕方がないだろう。

 僕は、他にも何か書かれてないかとページをめくっていく。

 やはり、相変わらず、他のページは全て白紙である。

 そして、最後のぺージ。

 ここは、先ほど僕が指から血を垂らして、急速に血が広がったページである。

 ごくり。

 生唾を飲みこむ。

 僕は覚悟をきめて最後のページを開く。

 僕の視界に現れたのは血のように真っ赤なページであった。

 原理は分からないが、先ほど垂らした僕の血がページ全体を覆ったようだった。

 そして、その真ん中に書かれた文字を見て僕は身震いするのだった。


『契約完了』

 

 ページの真ん中に黒い文字でそう書かれていた。

 契約だって?

 何か契約をした記憶はない。

 僕がやったのは、本に血を垂らしただけである。

 僕は血で悪魔とでも契約してしまったのだろうか?

 血を垂らしただけで契約とは不当であるような気がするが。

 しかし、血を垂らしてしまったことで、この本に何かが起きてしまったのは確かなようだ。

 くそ、血なんて垂らすんじゃなかった。

 遅い後悔である。


「進!朝ごはんできてるわよー!」


 下の階から母親の呼ぶ声がする。

 僕は一旦、本のことを忘れて朝の支度を始めた。


 ☆


「行ってきまーす」


 制服に着替えた僕はそう言って玄関をでる。

 いつもであれば、心音と一緒に登校するところなのであるが、朝の一件でまだ若干気まずいらしい。

 ちなみに、例の本は、部屋に置いておくのはまずいと判断して、背負っているリュックの中にいれている。

 おかげで、いつもよりリュックが重たいような気がする。

 

 外に出ると、温かい風と涼しさが上手くマッチした、これぞ春というような気温であった。

 僕は気分よく家の門を開け路上にでると、丁度となりの家の門を開けて出てくる女子高生が見えた。

 そう、僕の幼馴染である唯我優衣である。

 優衣も僕のことに気が付き目が合った。

 昨日、例の本の最後のぺージが僕にしか見えない件のせいで喧嘩別れみたいになってしまって、正直、若干気まずい。

 信じられない話だが心音の反応も見る限り、あの最後のページが僕にしか見えないというのはどうやら本当らしい。

 白紙にしか見えないページに血で書かれた文字が見えるだろう?と言われてもそりゃあ頭がおかしい人にしか見えないだろう。

 というか、その状況は、優衣から見たらかなり痛い人なのではないだろうか。

 急に恥ずかしくなってきた。

 しかし、いくら恥ずかしかろうと昨日の件をまず謝罪しなければならないだろう。

 優衣が近づいてくる。

 よし、謝ろう。


「昨日はごめん!!」

「昨日はごめんなさいっ!」


 ほぼ同時であった。

 なんと優衣も僕に対して謝ってきたのだった。

 僕と優衣はお互いに驚いたような表情をして顔をあげる。

 

「あはは」

「ふふふ」


 それが面白くてお互いに笑ってしまう。

 笑っている優衣はとても可愛らしかった。

 なんだか昨日のことなど、どうでもよくなれる。

 ところで、優衣はなぜ謝ってきたのだろうか。

 本の最後のページは僕にしか見えないみたいだし、あれは完全に僕が悪い。


「なんで優衣は僕に謝るの?昨日の件は僕が完全に悪かったよ」

「いやいや、こっちこそ本当にごめん。まさか進がそうだったとは知らなくて…」


 なぜか、優衣は急にすごく申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。

 そうだったとは?

 どういう意味だ?


「そうだったとはって僕がなんだっていうんだよ?」


 僕が聞くと優衣はまた申し訳なさそうに。


「いやね。昨日ネットで調べたんだけど、見えないものを見えてるとか言ったり、血の文字が見えるとか言ったりするのって、ネットでは中二病っていうらしいわよ?色々妄想しちゃうんだって。でもこの時期の男子はみんなそうみたいだから気にしないで。私も知らなかったの、そんな病気があるなんて…」


 とても申し訳なさそうに言う優衣。

 いやいやいや。

 それ、病気じゃないから。

 というか、とてつもなく恥ずかしい。

 つまり、優衣は昨日の件を、僕が色々妄想をして中二病をこじらせた結果あんなことを言っていたと処理したってことか。

 これからは、優衣から妄想する病気を持った恥ずかしいやつと認識されるようになったらしい。

 本当に勘弁していただきたい。

 けれども、優衣視点であれば、僕は見えないものを見えているおかしいやつというのは正しい認識である。

 だって、あのページは僕にしか見えていなかったのだから。

 こういう風に認識されるのは予想していたが、いざ本当にされると心にくるものがある。

 しかし、くよくよはしていられない。

 この優衣と一緒に登校して学校に着くまでの間になんとかして誤解を解かなければならない。

 なぜなら、優衣は人の弱みを言いふらすタイプの人間ではないが、ド天然なところがある。

 何かの拍子にクラスメイトにこのことを言ってしまうかもしれない。

 もし、誤解を解かなければ、クラス中から僕は妄想癖がある中二病男という最悪なレッテルを貼られてしまうだろう。

 

「おいおい、優衣。なんか誤解してるぞ。あの時、僕が言った血の文字が見えるって言ったのはもちろん冗談だよ。悪かったよ。やりすぎた」


 優衣と通学路を歩きながら誤解を解き始める。

 僕はいっそのこと全部冗談だったといことにしてしまうことにした。

 少し印象は悪いかもしれないが、中二病と思われるくらいならましである。


「いーや、あの時の進は冗談で言ってるような顔をしてなかったよ。それくらい分かるよ。何年進と幼馴染をやっていると思ってるの?」


 優衣は真剣な眼差しで言う。

 流石は僕の幼馴染である。

 全てお見通しというような感じだ。

 しかし、負けるわけにはいかない。


「いや~、最近実は演技の練習しててな~、血の文字が見えるっていう演技をしてみたんだよ~。まさか幼馴染を騙せるくらいにまで成長してるとは思わなかったよ~。あはは~」

 

 もちろん、演技の練習なんて大嘘である。

 

「進は嘘つくとき手を頭の後ろに置くわよね」

「……」


 優衣はジト目で僕を見て言う。

 なんと、僕にはそんな癖があったのか。

 幼馴染ってほんと、何でも知ってるな。

 降参だ。

 僕は誤解を解くことをあきらめたのだった。


 そうこう優衣と話しているうちに、いつの間にか、この前の中古本屋がある路上にまで来ていた。

 それに気づいた僕は身が引き締まるのを感じる。

 今日もあのお爺さん店にいるのだろうか。

 また襲われたりしないだろうか。

 もし、優衣が襲われたら、どうやって守ろうか。

 色々なことを考える。

 中古本屋に近づいてきた。

 優衣の前を歩き身構える。

 そして、たどり着いたときに僕は腰を抜かしたのだった。

 

 なかったのだ。

 忘れるはずもない、僕が下校中に見つけたこの場所。

 あの小さくて古い中古本屋は跡形もなく消えていて、空き地となっていた。

 僕は後ろにいた優衣に尋ねる。


「優衣、ここの中古本屋はどこ行ったんだ?」


 優衣は首をかしげる。

 そして、淡々と答えた。



「何言ってんのよ進。ここに中古本屋なんてないよ?昔から空き地だったじゃない」


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