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人生攻略本  作者: まくりん
4/12

幼馴染

 英国紳士は車で去ってしまったので、仕方なく僕は家に帰ることにした。

 英国紳士の言った通り、外に出てからというもの、中古本屋で僕に襲い掛かってきた狂人お爺さんに追われることはなくなった。

 これは、どういう仕掛けなのだろうか。

 もしや、あの二人はグルだったのではないか。

 そんなことを思考しながら白い本を片手に帰路を歩く。

 必死にお爺さんから逃げているときに転んだりすりむいたりしたので、服はもうボロボロである。

 僕の周りを歩く街の人たちの目がいささか冷たいような気がする。

 くそ。

 今日は一体なんだったんだ。

 襲ってきた狂人お爺さんといい、僕の話を聞かないで去った英国紳士といい僕になんの恨みがあるっていうんだ。

 現場でこの二人に遭遇していたときは、とにかく必死だったので何も考える時間がなかったが、一人になり考える余裕ができたことで、ふつふつと今日の出来事に対しての苛立った感情が渦巻く。

 いけないな。

 こういうときに感情的になってしまってはいけない。

 とにかく、できるだけ冷静に、先ほど起きたことを分析しよう。

 まず、僕はあの中古本屋で「人生攻略本」という本を見つけた。

 そして、あの狂人お爺さんである。

 どうして、あのお爺さんは僕に襲いかかってきたのだろうか。

 あのお爺さんは、「本をもって出ていけ」と言っていた。

 つまり、僕にこの本を持っていってほしかったということか?

 なぜだろうか?

 さっぱりわからない。

 そして、もっと分からないのが、中古本屋を出たときにいた謎の英国紳士である。

 確かあの人は「私は、本の発見者の顔を見るのと、その発見者である君に忠告するために、ここへ来た」とか言っていた。

 つまり、この本をあの中古本屋で見つけた僕の顔を見て、忠告をするためにわざわざ来たってことか?

 そもそも、英国紳士は狂人お爺さんから連絡を受けてここへ来たと言っていたが、あの二人はどのようなつながりだったのだろうか。

 この本がそんなに大事なものだったのだろうか?

 ただの中二病作者が書いた、人を驚かせる本だと思っていたが。

 

 僕はもう一度この白い本を開いてみる。

 やはり最後のページ以外は全部白一色である。

 どう見ても大事な本には見えない。

 

「うわ、進、あんたなんで、そんな何も書かれてない本読んでるのよ……」

「うわあぁぁぁ!!」


 急に後ろから声がして、大きな声を出して驚いてしまう。

 慌てて、声の方に顔を向ける。

 そこにいたのは、高校の制服を可憐に着こなした、ポニーテールの可愛らしい女の子だった。


「なんだ、優衣か。いきなり後ろから話しかけて、びっくりさせんなよ」

「なによ、進が本読みながら道歩いているのがいけないんでしょ!」


 彼女の名前は、唯我優衣。

 僕のクラスメイトであり幼馴染でもあり、家もお隣さんである。

 中学生くらいまでは良く一緒に遊んだりしていたが、最近は高校生になり、男女を意識しだしてか、一緒にいる時間はなくなってきた。

 ちなみに、最近、彼女の胸部が大きくなってきていて、恥ずかしくて若干話しかけずらくなっているのは秘密である。


「で、なんで進はそんななにも書かれてない本を読んでるのよ。ついに、頭おかしくなっちゃったの?」

「んなわけないだろ!」


 ったく、なんて失礼な奴だろうか。

 しかし、そう言われてもおかしくないところを見られてしまった。

 路上で何も書かれていない白紙の本を読みながら歩いていたら不気味であろう。

 不幸中の幸いか、読んでいるのが白紙のページで助かったと言わざるを得ない。

 もし、あの最後のページ、黒一色の中の血の文字を読んでいようものなら、ドン引きは間違いなしだったろう。

 そうは言っても、白紙の本を読んでいるというのは十分におかしい。

 上手いこと言い訳を考えなければ。

 そうだ。いいことを思いついた。


「優衣、お前にはこの本の内容が見えないのか?」

「はぁ?何言ってるのよ。どう見たって白紙じゃない」

「ははーん、優衣には見えないんだなぁ?実はこれ馬鹿には見えない本なんだぜ?!」

「…………」


 どうだ、優衣。

 名付けて、裸の王様の冗談でごまかす作戦!

 これは、ウケること間違いなし!


「はいはい、そうですか。で、なんでそんな本持っているの?」


 優衣は、微塵も興味もなさそうに、僕の振った冗談をいなす。

 く、くそ。

 渾身の作戦だったのに。

 こうなったら、適当にごまかすか。


「い、いや、さっきさ、図書館で適当に本を選んで借りたんだけどな、今開いてみたら中身が白紙でさ。僕もびっくりしているところなんだよ。」


 咄嗟であったのにも関わらず、流れるように嘘をついてしまった。

 僕はもしかしたら詐欺師に向いているのかもしれない。


「…ふーん」


 その反応からは、まだ半信半疑であることが伝わる。

 しかし、優衣から、「まぁ、納得してやるか」というような顔になったのが見て取れた。

 よかった。

 正直、これ以上突っ込まれていたら、本当のことを言ってしまうかもしれないところだった。

 まぁ、本当のことを言ったところで、本屋でお爺さんに襲われたなどと誰が信じるのかという話だが。

 

「じゃあさ、その本、私にも見せてよ」

「い……」


 返事しそうになったところで声をすぐに押し殺す。

 あぶないあぶない。

 優衣の言葉に二つ返事で「いいよ」と返事してしまうところであった。

よく考えてもみろ。

 この本には、あの痛々しい最後のページがあるんだぞ。

 そんなもの見せたら、また優衣に罵倒されるに決まっている。

 それに、この本を入手するときにあんなことがあったんだ。

 考えすぎかもしれないが、この本を優衣に見せることで、優衣にまで危険が及ぶかもしれないと思うと安易に見せることはできない。

 僕は、自分の体の後ろに本を隠す。


「ごめん、優衣。この本は優衣には見せられないんだ」

 

 優衣に危険が及ぶかもしれないと思うと、つい神妙な面持ちになってしまう。

 こいつはもう遊ばなくなったとはいえ、大切な幼馴染である。


「なによ、真面目そうな顔しちゃって。も、もしかして、たまたま私が白紙のページを見たってだけで、他のページは全部、え、えっちな写真なんじゃないの~?」


 にやにやしながら、優衣は言ってくる。

 こっちはお前の危険を考えているっていうのに、何言ってんだ。

 ていうか、どんな想像力だ。

 さては、お前痴女だな。

 しかし、にやにやしている風を装っておいて顔は真っ赤にしているあたり、まだ痴女ではないらしい。

 安心である。


「はいはい。もうそれでいいからこの本は見るなよ。じゃあ俺は帰るから。また明日。」

「……」


 優衣と話しながら歩いていたらもう家の前までついていた。

 もうここまで来たら、うやむやにしてしまおう。

 優衣から離れて、急いで自分の家の方向に歩いて向かう。

 よし、これでばれずに済みそうだ。

 次に会った時に適当にフォローしておくか。


 そんなことを考えて自分の家の玄関の前まで来たときにようやく気付いた。



「あれ……ない……」


 そんなはずはない。

 先ほどまで、本は手に持っていたはずである。

 まさか。

 急いで、来た道を戻る。

 あれをほかの人に見せるわけにはいかない。

 しかし、あろうことか優衣と別れたところに戻ると、路上で白い本をパラパラとめくっている優衣がいた。


「あ、進。今、すごい焦ってたんだね。自分からこの本、落として家に行っちゃったんだよ?」


 なんだって。

 不注意であった。

 確かに相当焦っていたような気がする。

 それにしても、落としてしまうとは。


「でもこの本、本当に全部白紙なのね~」


 優衣はそう言いながらペラペラと本をめくっていく。

 やっと半分くらいまで確認したところである。

 まずい。

 


「優衣、返してくれ。今すぐにだ」

「いやよ、ここまできたんだからちゃんと最後まで確認するわ」

「やめてくれ。最後のページだけは…あっ」


 しまった。失言であった。

 こんなことを言ったら、僕の秘密を知ろうとしているのだから、当然、最後のページを確認するだろう。


「なになに?最後のページね!分かったわ!」

 

 案の定、優衣はページを1ページずつめくるのをやめて、一気に最後のページを開いてしまった。

 優衣が目を大きく見開いたのを確認した。

 

 あぁ。

 これで、こんな奇怪な本を持った僕は、優衣からドン引きされるのだろうな。

 そう思った。

 しかし、優衣から出た一言は意外なものであった。




「なんだ、やっぱり最後まで白紙なんじゃない」



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