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【第9話】ノースウインザーの町にて

説明用の回です。



「それではあらためまして、私はノースウインザー守備隊北門警備第2斑中隊長のランバーと申します。

 何からお教えしましょうか?」

 親切な衛兵さんはランバーさんと言うらしい。


「俺はワタル、こっちはユウといいます。

 この子狐はここに来る途中で懐いた奴で、まだ名前はありません」


「ほう……」

 そう言うとランバーさんは子狐をまじまじと見る。

 ゆびしながら子狐のしっぽを数えているようだ。


「これは驚いた。

 こいつは間違いなくナインテイルスフォックスの子供だ。

 よくこのような強力な魔獣をテイム出来ましたね。

 幼体とはいえ、強い魔物は人に懐きにくい。

 よほどあなたが強いか、気に入られる何かをあなたが持っているのか……」

 ランバーさんは子狐から俺に視線を移す。


「そのような珍しい狐なのですか?」

 俺は尋ねる。


「はい。

 ナインテイルスフォックスの成体は火魔法、幻術、変身能力などを使いこなす大変やっかいな魔獣です。自然に育った場合、警戒心が強いのでまず人間に懐きませんし、幼体が捕獲された例は聞いたことがありません。

 成体を討伐するには手練れの兵士や冒険者がチームを組んで戦うか、我が主家のような人外に等しい力を持って戦うかしかないと言われています。

 まあ、こいつは子狐なのでそこまで強力ではないでしょうが、ナインテイルスフォックスが人に懐いているのを私が見たのは初めてです」

 どうやらとても珍しい強力な魔法も使える魔獣らしい。


「このまま飼っても大丈夫でしょうか?」

 俺が聞くとランバーさんは二つ返事で肯定し、情報も提供してくれる。


「もちろん大丈夫です。

 冒険者ギルドに冒険者登録する際に、従魔として届けると従魔の記章をもらえますので、首輪にでもつけてあげれば、迷子になっても間違って討伐されることはありません。

 このような珍しい従魔は、おそらく侯爵家のアルテーシア様が飼っているレインボースライム以来の珍種だと思われます。

 大切に育ててあげてください」


「ご教授ありがとうございます。

 そうすると、俺は冒険者ギルドでギルド登録するのがよいと言うことですか」


「そうですね。

 従魔をつれて歩いて違和感がない職業と言えばやはり冒険者でしょう。

 商業ギルド登録の商人でも、ボディーガードを兼ねて従魔を持っている人がいますが、これだけの珍種ですとやはりマスターであるあなたは冒険者登録をしておいた方がいいでしょうね。

 実際、アルテーシア様も侯爵令嬢ですが冒険者としても登録しておられ、従魔と一緒に時々は依頼も受けておられていますよ」


 なるほど、この国の侯爵令嬢は、なかなか活動的なようだ。


「ところで、話を戻しますが、この国や街のことを教えていただけませんか。

 3年前の大戦とか、俺たちのように召喚される人間がどれくらいいてどのように扱われているのかなど、聞きたいことは山ほどあります」


「そうですね、ではまず、この国の3年前からの動きをご説明しましょう。

 そこがわからないと、その後に起きた召喚騒動も説明出来ませんから」

 ランバーさんはそう言うと、部下が持ってきた茶を一口すする。


「この町の主であるウインザード侯爵家は元々ゴードリア王国に所属していました。

 今から3年と少し前に、侯爵令嬢のアルテーシア様と当時の王太子で会ったヘンリケ王子の婚約破棄騒動から、王家が冤罪によるウインザード侯爵家の取りつぶし騒動を起こしました。

 その結果、内乱に発展したのです」


「その冤罪は既に晴れているのですか」

 俺が尋ねるとランバーさんは頷きながら続けた。


「王子が婚約者でもない男爵令嬢に懸想けそうし、その令嬢の虚言を信じました。

 その後に起こった王子とアルテーシア様の行方不明騒動を全てウインザー侯爵家のせいにしてきたのですが、真相は魔族被害に困ったペリーヌ様の国による召喚魔法と、人間に擬態した魔族のせいであり、今では広く真実が知られています。

 元々、いわれのない罪で侯爵家をおとしめていた王家は、この戦争で破れウインザード侯爵領へその領地を編入されました」


「それでは王家は断絶したのでしょうか?」

 ユウが質問するとランバーさんは少し考えてから言葉を続けた。


「当時の王と第一王子は誅殺され、第二王子はウインザー家への恭順を誓い、今はかつての王家直轄領の一部を統治していますが、待遇は伯爵相当にまで下がっており、大きな権力はありません。

 血筋は絶えていませんが、王家としては消滅と言ってもいいでしょう。

 実質、ウインザー家は、ウインザー領と王家の直轄領を掌握し、この国の半分の領土を統治するようになりました」


「それで、この国は安定したのでしょうか。

 いや、現状安定しているのでしょうか」

 俺は自分たちの安全とも関わる問題だと感じ、更に質問した。


「イエスでもありノーでもあります。

 王家統治時代よりもウインザー領は暮らしやすくなったと思っていますが、そうでない地域もあります。

 多くの貴族は軍事力、経済力ともウインザー侯爵領に遠く及ばなくなり、実質ゴードリア王国は消滅し、ウインザー家を中心とする貴族会議による合議制の統治の時代が来たのです。

 しかしながら、侯爵より上位貴族の公爵家や大公家の中には、王家の血筋の貴族も多く、そういった手合いの中から第二王子だったジョルノー・ゴード伯爵を傀儡化して擁立しようという動きが出始めたのです」


「それでは国が二分していると……?」

 ユウが心配そうに聞く。


「いえ、当のジョルノー様は王家に所属していたときから、冤罪によるいさかいをうれいていましたので、そのような勢力には荷担していません。

 しかし、大公家、公爵家はウインザー家に対抗する戦力として異世界人の召喚を始めたのです。

 ちなみにゴードリア王家は廃止されましたのでジョルノー様はゴード伯を名乗っています」


「その召喚された内の二人が俺たちだと……。」

 俺は呟く。


「そうです。しかしここにたどり着けたあなた方はどちらかと言えば幸運でした。

 召喚された者たちは、力があれば召喚した貴族側に囲われて、洗脳まがいの知識を植え付けられているようで、現在は魔物の討伐などを手伝わされているようですが、いずれは戦争の駒にされようとしていると我が主家は考えています。

 召喚された者の中で力がないものはあなた方のようにうち捨てられ、大半は儚い運命をたどっていると思われます。

 我々の領地まで辿り着くことが出来た人には、この世界で生活出来るよう手助けをしていますが、果たしてどれくらいの人を救えているのか……」


「何か、対策はないのですか」

 ユウが少し強い口調で問う。


「ウインザー家はこのことをうれいて、貴族会議で議題に挙げていますが、召喚を行っている貴族は魔物に強力なものが現れていることを理由にして止める気配がありません。

 それに、アルテーシア様のご友人のペリーヌ様が用いられた技術が伝播でんぱしたのですが、正しく伝わらなかったため、制御出来ている状態ではなく、中には召喚と同時に空中に出現して、墜落して亡くなったらしい異世界人の遺体が見つかることもあります」


 なんと、空中に投げ出されたのは、俺たちが初めてではないらしい。


 ユウは気絶していて覚えていないせいか、

「そんなひどいことが……」とつぶやいて絶句している。


「そもそも、召喚陣はペリーヌ様の国の秘匿事項だったのですが、大戦後の親善使節団に紛れ込んだ公爵家や大公家の密偵が違法に魔方陣をコピーしたようで、正式な手順を踏んでいないせいか安定した効果が出せていないと言うことでした。

 これに関しては、侯爵家から強く苦情を申し立てているのですが、既得権益として公爵家や大公家は譲る様子がなく、ほとほと困っている状態です」


「それでは、その召喚魔法を使って元の世界に帰ることは出来ないのでしょうか」

 ユウが心配そうに聞くとランバーさんは気の毒そうに答える。


「この国に伝わっているまがい物の魔方陣では無理でしょうね。

 ペリーヌ様の国の魔方陣ならば可能かも知れませんが、現在、彼の国との唯一の通行手段となっている『虹の架け橋』は、召喚魔法のスパイ事件が元で厳しく管理されており、アルテーシア様以外は行き来出来ないようにしているそうです。

 それに、ペリーヌ様の国の魔方陣での召喚送還は時間軸が安定していないため、全然違う時代に出てしまうこともあるそうです」


「そのペリーヌ様の国へは他の手段でいけないのですか」

 俺は尋ねる。


「実は、元々アルテーシア様がペリーヌ様に召喚されたことでお互いの存在がわかった相手であり、通行手段としてマジックアイテムの指輪から生じる『虹の架け橋』以外がないと言うことなのです。

 そもそも、この世界のどこか別の国なのか、異世界の国なのかもわかっておりません。

 召喚魔法での移動は、時間軸が安定していないため用いられていないと言うことです」


 今の話を総合すると、まずは侯爵令嬢のアルテーシア様にお願いして『虹の架け橋』を作ってもらい、ペリーヌ様の国に行って魔方陣を使わせてもらう以外の方法で、帰還することは叶わないようだ。

 しかも、たとえ帰れたとしても、時間軸がずれる可能性まである。

 どうやら簡単には日本に帰れないようだ。


 となると、当面の間、どうやって生活するかが重要となる。


「それでは、この国で当面生きていくためにはどのような方法があるかを教えてください」

 俺の問いかけにランバーさんは頷きながら答える。


「先ほども少し触れましたが、ワタルさん達には冒険者家業がよいのではないかと思われます。

 まず、公爵家から放逐されたとはいえ、召喚された方はたいていの場合便利なスキルを持っていますので、冒険者や生産者として生活している方が多いと言うことをお伝えしておきます。

 また、珍しい従魔も出来たようですし、ご自身の戦闘力が小さくても、その子狐を大切に育てれば外部平原での魔獣討伐も簡単にできることでしょう」


「なるほど、わかりました。

 あと、昨晩狩った魔獣の素材はどこかで買い取ってもらえるのでしょうか」


「冒険者ギルドや商業ギルドで買い取りしています。

 交渉力が高い方なら商業ギルドをお勧めしますが、値段を交渉で決めるのは苦手ということなら冒険者ギルドでの買取をお勧めします。

 中間マージンは発生しますが、買いたたかれる怖れはありません」


「ありがとうございました。

 それでは早速冒険者ギルドを尋ねるとしましょう」


 俺とユウは礼を言い、席を立とうとするが、ランバーさんに止められる。


「あっ、少しお待ちください。

 お二人には侯爵家から当面の生活費として2万ドンずつ支給されます。

 この金額は、この世界に自分たちの魔方陣管理が甘かったせいで召喚されてしまった人たちへのお詫びの意味も兼ねて、アルテーシア様が設立された基金から出ているもので、節約すればおよそ1週間ほど生活出来ます。

 その間に何とかこの世界での収入を得るよう努力してください。

 どうしてもダメなときはまたこの城門で声をかけてください。

 ちなみに2万ドンは、過去に召喚された人の話だと400ドルとか40000円程度の貨幣価値だそうです」


 そう言うとランバーさんは、中ぐらいの銀貨が20枚ほど入った布袋を二つ渡してきた。

 1ドン=2円というところだろう。


 直接この世界に召喚したのは公爵家なのに、ウインザー侯爵家は随分といい人達のようだ。

 機会があれば是非礼が言いたいし、出来れば日本に帰るのに協力して欲しい。 

 そんなことを考えていると、ランバーさんから話の続きがあった。

「他に質問はありませんか。

 現在、アルテーシア様はペリーヌ様と召喚犠牲者の異世界人の方を安全に元の世界へ返す方法を検討されているそうです。

 もし、準備が整ったら、ウインザー侯爵領の主立った町で告知があると思いますので、時々は私たちにも声をかけてください」


 なんと、他家のしでかした悪事の後始末まで考えているとは、ウインザー家の人は本当に善人のようだ。

 もしも叶うなら、カラフルレンジャーにスカウトしてみたい。


 そんなことを考えながら俺たちは礼を言い、冒険者ギルドへ向かった。







アルテーシアの戦いから3年後の世界にして見ました。

後で設定をかえる可能性がありますが、ご容赦ください。

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