【第8話】町へ
夜明け近くまで再び眠っていた俺たちだが、日が昇ると同時に何かにほっぺたを触られて目が覚める。
見ると、子狐が俺の頬を舐めていた。
流石にテイム状態なだけあり、噛みついたりはしてこない。
何か食べさせようと思ってアイテムボックスから昨日の魔獣の肉を取り出したが、考えてみれば子狐にとっては共食いになってしまう。
流石にそれは可哀想だと思い、ウサギの肉に変えた。
消し炭にならなかった狐の魔獣の肉は町に辿り着いてから売ることにしようと思う。
ユウも起き出したので、残りのウサギ肉で腹ごしらえをして、俺たちは再び町を目指して進み始める。
3時間ほど歩くと草原の向こうに城壁が見えてくる。
テイムした子狐は、ユウを背負って歩く俺の後ろをトコトコついてくる。
壁は近づくにつれてその巨大さを現す。
町はかなり大規模な石垣で囲われ、そのような城壁が必要となるこの地域の危険性を伺い知ることが出来る。
俺は町の入り口の門兵に声をかける。
「すいません、旅の者ですが、友人が怪我をし、歩けなくなって困っています。
この街で治療は可能でしょうか」
「それは大変でしたな。
見たところ冒険者の方ではないようですね。
どこかのギルド証など、ご自身の証明書は何かお持ちですか」
門兵の問いかけに俺は少し考えたが、あの髭達の言葉から、この世界では頻繁に召喚が行われており、おそらく以前にも似たような立場の人間がいただろうと推測し、ある程度正直に話すことにする。
「実は俺たちは、別の国にいたのですが、突然空に生じた魔方陣に吸い込まれ、ここから一日ほど歩いた草原に放り出されたのです。
そのとき、5人の騎士が現れ、何か透明な球を使うと、俺たちは外れだから南の町へ行けと言い捨てて消えたのです。
友人はこちらへ召喚されたとき怪我をしたのですが、ろくな治療も受けさせてもらえませんでした」
「ああ、公爵軍の騎士団の召喚被害者の方でしたか。それはお気の毒でした。
この街はウインザー侯爵家の納める自由貿易都市、ノースウインザーといい、色々な人が住んでいますから、仕事に困ることはないでしょう。
門を入ってまっすぐ行ったところに商業ギルドや冒険者ギルドがありますから、そちらでご相談ください。
とりあえず借り証明証を作っておきますね」
随分あっさり通行を許可された。
「あの……、信じてもらえてとてもありがたいのですが、こんなにあっさり町に入れてもらって問題ないのでしょうか」
俺の背中でユウも激しく頷いている。
無法者や悪人が町に入るのを阻止するための門兵ではないのかという俺の疑問に、背の高い方の兵士が笑いながら答えてくれた。
「はははっ、大丈夫ですよ。
この門は侯爵家のアルテーシア様が発明された魔道具で、町へ悪意のある者が通ると赤く光るのです。
皆さんが通過したときは青い淡い光でしたので、問題ありません。
それにもし、門の審判を通過か出来た悪人がいたとしても、この街の治安体勢なら問題ないのです。
我が侯爵領は3年前の大戦で活躍したウインザー家の直轄であり、町の住民も普段から戦う力を蓄えているのですから」
「あの、よろしかったら少し詳しく教えていただけませんか」
「ええ、いいですよ。
この北門は今はあまり人々に使われていない門なので通行する人も少なく時間に余裕がありますので。
まずは、立ち話も大変なので、こちらの門兵詰め所にお越し下さい。
お茶くらい出しますよ」
そう言うと気のいい壮年の兵士は俺たちを門の横の建物へ誘導する。
ここはご厚意に甘えるとしよう。
俺たちは兵の詰め所へと入っていった。