【第5話】スキル『アイテムボックス』
ウサギの肉は調味料がないせいで味気ないものだったが、空腹を満たすには十分だった。
獲物が大きかったせいで二人では全く食べきれない。
このままにしておけば、臭いにつられた大型肉食獣などが引き寄せられてくるかも知れない。
俺は食べきれなかったウサギの骨付き串焼きを両手に一本ずつ持って、何とか保存出来ない物かと考えた。
その瞬間、二本のウサギ串焼きは消失する。
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。
「どうしたんですか? ワタルさん」
ユウが動かすことの出来る上半身を起こし、心配そうにこちらを見る。
「いや、こうやってウサギ肉を持ってだな……」
俺は残りの串焼きの内の2本を両手に持つ。
「保存出来ない物かと考えると……」
瞬間、またしても俺の両手から串焼きが消えた。
「また、消えたな……」
何がなにやらわからずに、俺が呆然としていると、ユウが興奮したようにまくし立てる。
「すごいじゃないですか、ワタルさん。
それはたぶん間違いなくアイテムボックスの類いだと思いますよ」
「アイテムボックス?
何、それ……」
「ワタルさんはライトノベルとか余り読まないんでしょうね……」
ユウは苦笑いのような表情を浮かべてこちらを見る。
「ああ、ライトノベルはおろか、本や雑誌も余り見る暇がなかった」
まあ、この一年は記憶を失ってカラフルレンジャーとして忙しく活動していたし、その前は仮面ドライバーとして悪の組織と戦っていたので、ゆっくりと本を読む時間もなかったというのが本当のところだ。
「僕はよく読んでいましたから……、
その中で主人公や召喚された日本人が持っている能力に、アイテムボックスというものがあるんです。
この能力は、自分の魔力などを使って異空間に保存庫を作る能力で、保存出来る容量や、保存性能は様々ですが、空想小説の定番便利機能なんですよ。
ワタルさんが、その能力を持っているなんて、とてもすごいと思います」
「なるほど、俺が保存したいと思ったからその能力が発動したわけか……
それなら取り出すにはどうすればいいんだ?」
「それは……」
ユウが説明しかけた瞬間、俺の右手には串焼きが出現していた。
「そういうことですよ」
「なるほど、そういうことか……」
どうやら取り出したいと考えるだけでいいようだ。
「それにしても、一瞬で出たり消えたりするんですね。
驚きました」
「ああ、俺も驚いた。
どれくらい収納出来るのが普通なんだ?」
「人それぞれだから、僕にもわかりません。
試して見たらどうですか?」
「そうだな……」
俺は立ち上がると、串焼きを次々と手に持って収納していく。
余裕で収納出来た。
次に、ウサギの角と皮も収納する。
簡単に収納出来る。
仕方がないので、そのあたりに転がっている石や岩石を手に持って収納してみる。
楽勝だった。
周りに生えている草花や木の枝も採取して収納する。
全く底が見えない。
「どうやら相当大きい容量のようだな」
「そうですね
まだ、入りそうですか?」
「ああ、感覚的にまだまだ入りそうだ」
俺はそう言うとたき火にしようと採取していた枯れ木も収納してみる。
「何にしても、これくらい入れば普段使う分には十分だろう。
これで重いものを持たずに移動出来る」
「すいません。僕が重いので……
そうだ、僕は入りませんか?」
なるほど、ユウの提案は考えてみなかった。
ユウを入れることが出来れば、負ぶって移動する必要がなくなる。
「試して見よう」
俺はそう言うとユウの左腕を右手で掴んで収納を意識する。
ユウの頬が心持ち赤くなる。
しかし、ユウは収納できなかった。
「ダメみたいだな」
「ええ、生き物は入らないという仕様のアイテムボックスなんでしょうね」
ユウは考える様子もなく即答したところを見ると、このような仕様のアイテムボックスはライトノベルの世界で珍しくないのだろう。
「まあ、何にしてもこれでユウだけを背負えばいいわけだから、明日の移動は今日より楽になること間違いなしだ」
「すいません、ご迷惑をおかけします」
「気にするな、今日はもう寝るぞ」
「はい」
俺たちは草原に寝転んですぐに眠ってしまった。