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【第4話】勇者


「うーん……」


 枝に刺したウサギの肉が香ばしいにおいを漂わせ始めた頃、それまで死んだように眠っていた少年に変化が見えた、


「ここは?」

 少年は目を開けてつぶやく。その言葉は俺に向けて発されたものと言うより、自分自身に確認するためのものだろう。


「どうやら異世界というやつらしいぞ」

 俺の返答に、それまで俺という存在を認識していなかった少年がハッとなってこちらを見る。



「あなたは……、確かあのとき……」


「ああ、君が空中に吸い上げられるのを止めようとしたが、力及ばず一緒に吸い上げられた男さ」


「そうですか……、すいません。

 僕のためにあなたまで……」


「いや、あれは誰でも助けようとするだろう。

 こちらこそ、君を助けられなかったことには責任を感じるよ。

 それより、君はこの異常な事態に余り慌てていないようだな」


「ええ、昔からファンタジー小説や冒険小説が好きで、ラノベはたくさん読みましたから……。

 いつか自分も異世界に行ってみたいという思いはありましたが、いざ自分が本当に召喚されてみると、なんだか不思議な気分ですね……。

 あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。

 僕は早田はやたゆう。大学に入ったばかりの18才です」


「俺は結城ゆうき……」

 自己紹介しようとしてふと考える。


 思わず結城ゆうきつかさと言いそうになったが、記憶を一旦失ってからは青海あおみわたると名乗ってきた。

 さて、今はなんと名乗るべきか……。


「あの……、結城さん?」

 俺が言葉を途中で止めて考え込んでしまったため、少年が心配そうにこちらをのぞき込む。


「ああ、すまなかった。

 俺は結城ゆうきわたる

 24才のスポーツインストラクターだ」


 俺は結局、二つの名前をくっつけて名乗った。


「それにしても、大学生で制服があるのは珍しいな」

「はい、うちの大学は元々がミッション系だったので、そのときの名残で制服があるんです」

 俺の疑問にユウが答える。


「そんなことより、ワタルさん、あらためまして僕を助けようとしてくれてありがとうございました。

 それで、僕が気を失っている間のことを説明していただけませんか」


「ああ、わかった……。

 俺たちは召喚された後、上空30メートルから落下したんだ。

 そのとき君は気を失った。

 その後、俺たちをこの世界に呼び出したらしい騎士風の男達が来て、なにかの測定具らしい球体を俺たちに押しつけると、今回は外れだったと言われて、そのまま草原に放置された。

 今は、そいつらが言っていた南にあるという町を目ざして移動中だ」


 俺は上空30メートルから落ちた衝撃で少年が死にかけたことや、俺がカラフルブルーの新能力で少年を治療したことは伏せておいた。

 少年が怪我さえしていなければ勇者として騎士達に連れて行かれたであろうことも、彼が怪我をしていたことを伏せるためには伝えることが出来ない。


「そうですか……。

 それではここまでワタルさんが僕を背負ってくれたんですね。

 ありがとうございます」


「たいしたことではないさ。

 それに君は見た目よりも軽かったしな」


 俺がそう言うと、少年は少し顔を赤らめる。


「あの、僕のことはユウと呼んで下さい」


「ああ、わかった。

 それではユウ。

 そろそろウサギの肉が焼ける頃だが、少し食べないか」


「はい、ありがとうございます。

 いただきます」


 ユウはそう言うと起き上がろうとして上半身を起こす。

 そしてそこでフリーズした。

 みるみる顔が青ざめる。

「こ、これはっ」


「んっ、どうしたんだ?」


「ワタルさん……、足が動きません」


 そう言うとユウの瞳にみるみる涙が溜まり、それはすぐに目尻からこぼれ落ちた。


 どうやら、落下の衝撃で脊髄の神経を損傷していたらしい。

 そして、カラフルブルーの治癒魔法では、傷や骨折は治せても、神経の損傷までは修復出来なかったと言うことのようだ。


「うわぁぁぁーーーー」

 ユウはその場に泣き崩れ、俺はただそれを見守ることしか出来なかった。




 やがて10分ほど時間が経ち、ユウが落ち着いたところで声をかける。

「ユウ、足が動かないことはショックだろうが、この世界には日本にはないような魔法があるらしい。

 もしかしたら、ユウの足を治せるような治癒魔法も存在するかも知れない。

 それに、日本に帰る方法が見つかれば、日本の外科手術レベルなら、脊髄の治療もある程度は可能かも知れない。

 希望を捨てるな。

 不安はあるだろうが、俺ができる限りサポートする」


「ありがとうございます。

 けど、見ず知らずのワタルさんにそこまでしてもらっては……」


「遠慮するな。

 この世界ではたった二人の日本人じゃないか」


 俺の言葉に、こわばっていたユウの表情が少しだけ和らいだ。







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