【第3話】移動
変身を解いて少年を背負ったのには理由がある。
実はカラフルブルーやZ3(ズィースリー)は変身しているだけで魔力を消費していくのだ。
特にZ3(ズィースリー)は大きなパワーが出せる分、消耗するパワーも大きい。
結論から行くと、戦闘時以外は変身していない方が楽なのだ。
俺は少年を背負ったまま、黙々と南へ歩く。
道らしい道はなく、草原の中を獣道が曲がりくねって続いている。
小一時間ほど歩いたが、ここまで全く人と会うことはなかった。
代わりに地球ではまず見かけないような生命体と遭遇する。
一番多く見かけたのは、顕微鏡下でしか見たことがないようなアメーバーを大きくした謎の物体である。
ぷよぷよとうごめいているが、こちらを襲ってくる様子はない。
俺は少年を背負っていることもあり、無駄な争いは回避する。
しかし中には敵対行動に出てくる生き物もいる。
一番最初に出くわした敵対動物は角が1本生えた大型のウサギだった。
体長は80cmほどありそうだ。5mほど向こうの草むらからこちらを見つめる赤い瞳はつり目で爛々と輝いており、地球のウサギのようなかわいさはない。
まるで小型のイノシシのようだ。
このウサギはこちらを確認するやいなや全力で角を振りかざして突撃してきた。
あの角で刺されたら痛そうだ。
俺は少年を背負ったまま右へ回避し、すれ違いざまに左足でウサギの横腹を蹴り上げる。
回避しながらの攻撃だったため、たいしたダメージは入っていないようだが、ウサギは上手い具合に転倒してくれた。
俺は少年を背中から下ろし、静かに草原に寝かせるとあらためてウサギと正対する。
先ほどの会合から変身するまでもないだろうと判断し、次のウサギの突撃を待つ。
ウサギは素早く起き上がると、再び角を前にして突撃してきた。
俺は、バク宙しながら上へ飛び、ウサギの角を空中で掴む。
そのまま回転の勢いとウサギの突撃の運動エネルギーを利用して、ウサギと自分の体を入れ替え、着地と同時に持ち上げたウサギを地面へと叩きつけた。
頭から激突したウサギはきれいに目を回しているようだ。
グーーーッ
戦闘が終わって一息つけると思ったところで、盛大に俺の腹の虫が鳴いた。
そういえばこちらの世界へ来たのが午後5時くらい。
それから一時間ほど歩いているので、今は夕方6時くらいだろうか。
この世界でも夕日が傾いており、もうすぐ日没だ。
どうやら今日はこの辺りで野宿するしかないようだ。
そうとならば、今仕留めたこのウサギが食用になるかどうかだ。
俺は、食えるのだろうかと重いながら、のびているウサギを凝視した。
すると、ウサギの表面に横書きの文字が透けて見える。
名前 一角ウサギ
レベル 15
力 32
魔力 25
速さ 45
素材 角:武器、原材料になる
皮:防具、素材になる
肉:食用可能
浮かび上がった謎の文字を信じれば、食べられるようだ。
俺は、カラフルレンジャーの解散パーティーで席順のくじを作るために持っていた折刃式使い捨てカッターナイフを上着のポケットから取り出す。
昨日百均で購入したばかりで、100円商品の中では大型でがっしりしている。
「これなら何とかいけるか……」
早速カッターでウサギの首を切りつけ、近くの低木に、逆さに吊して血抜きする。
血抜きが終わったところで、吊したまま、皮を剥いでから解体し、骨付き肉状態で焼こうとしたところで気がついた。
俺はたばこを吸わない。
つまり、ライターの類いを持っていないのだ。
これは参った。
薪になりそうな枯れ木や枯れ草は周囲にたくさんあるが、火がつかなければ使えない。
カラフルブルーの能力は水に由来する物なので、火をつけるスキルはない。
俺はしばらく考えてから、能力の無駄遣いだが一つしか方法はないという結論に至った。
疲れるが、仕方ない。
俺は覚悟を決める。
「レディー、変身!セット!!」
そう、俺のもう一つの名は結城士。
またの名を仮面ドライバーZ3(ズィースリー)。
最強にして最後の仮面ドライバーだ。
俺は腰に手を当て丹田の真上で印を結ぶ。
瞬間、俺の魔力が腰に巻き付きベルトへと姿を変える。
「変身!Z3(ズィースリー)!!!」
俺の魂の叫びが、丹田に集まった魔力をベルトへ誘導し、ダブルスクリューベルトは自然界の魔力を取り込みながら自分自身の魔力と融合して巨大なパワーとなる。
俺は仮面ドライバーZ3(ズィースリー)に変身した。
物理攻撃の1号ドライバー、魔法攻撃の2号ドライバーの力を併せ持つ究極かつ最後の仮面ドライバーだ。
Z3(ズィースリー)は強力な分、変身しているだけでも魔力をどんどん消費する。
加えて、この近辺の自然界にある魔力は、俺の変身時にベルトへと取り込まれ、周囲数百メートルにわたって魔力の元となる魔素が希薄になっている。
戦う敵もいないのになぜ俺がZ3(ズィースリー)に変身したかというとZ3(ズィースリー)の魔法の力に火炎系のスキルがあるのだ。
とりあえず、こんなことをしている間にもどんどん魔力を浪費しているので、俺は手近な枯れ木へと必殺技をぶつける。
「Z3(ズィースリー)ファイヤーパンチ!」
火炎を纏った俺の右拳が高さ5メートルほどの枯れ木へ炸裂し、枯れ木は爆散しながら燃えていく。
「ふっ、またつまらぬものを殴ってしまった……」
俺は呟くと、枯れ木の破片の内のいくつかを火が消えないように気をつけながら手早く集め、変身をとく。
ライターさえ持っていれば、こんな派手なことをしなくても済んだのに……、
全く、能力の無駄遣いである。
まあ、何にしてもたき火の準備は出来た。
俺は骨付き肉を枯れ枝に突き刺して、早速あぶり焼きにするのであった。